2010年2月23日火曜日

今年度版 「私のPRSP」Ⅰ


 今年度も1年生の地理Aの授業で、「私のPRSP」というレポートをかした。学年末考査を控えて、そろそろ集まってきた。PRSPというのは、「貧困削減戦略文書」の意である。途上国が、世銀などから融資をうけるのに、どのような政策をするのか、5年間くらいの資金の使い道を明確にする、まあ途上国のマニフェストといった文書である。我ながら、高校1年生に、アフリカの開発経済学を教えるのも冒険だが、こういうレポートをかすのもえげつない話であると思う。で、いつもそんなには期待しないのだが、毎回本校の生徒はその期待を裏切って、いいレポートを書いてくれる。今年は比較的早くに抽選で「私の国」を決めた。もちろんサブサハラ・アフリカの国々である。何回かに分けてブログで紹介しようと思う。
 まずスワジランド編。生徒の分析によると、最大の問題点として、HIV・エイズと君主制が挙げられている。エイズの感染率は世界第1位。国王ムスワティ3世は、世界でも有名な散財癖の持ち主である。彼(男子生徒だ!)のPRSPは、国王の暗殺から始まっている。スワジランドでは、保健制度の資金不足が深刻化しているのに、国王は少ない国家予算に手をつけ、13名の妻に宮殿を建設させているのが、その理由である。君主制を廃し、民主化することによって、まずエイズ対策と教育に資金を回し、エイズの感染を食い止めるのが緊急かつ最大の課題だと彼は主張する。スワジの失業率は約40%と高い。次に雇用対策である。スワジは肥沃な土地、温暖な気候、鉱産資源にも恵まれている。決して条件は悪くないと主張してしている。国王の暗殺とは、思い切った「私のPRSP」であるが、わからないでもない。私もシンガポールから南アへ向かう空港の搭乗口でスワジの人々に会ったことがある。かなり裕福そうだった。13人の奥方のうちの1人のグループだったのかもしれない。と、同時に彼らの姿に舌打ちした白人がいたことも書きそえておこう。
 もうひとつ。中央アフリカ編。ここもHIV・エイズがひどい。生徒の分析では世界第10位、アフリカ中央部で最高値である。しかも中央アフリカは難民が多く、彼らの中にエイズ患者が多い。治安悪化のため国内避難民が15万人、隣国から逃れてきた難民が3万人もいる。で、彼女はひどく怒っている。「世界エイズ・結核・マラリア基金」が5年間で2500万ドルの資金援助を行ったが、3万人の患者のうち2800人しか治療を施せていない。難民はほったらかしである。経済も「天然資源の罠」と「内陸国の罠」にはまり、人口の9割が1日2ドル以下の生活になっている。彼女のPRSPの最大の眼目は、憲法改正である。彼女のレポートには中央アフリカの2004年に改正された憲法のことが詳細に載っている。平和、世界正義、法の下の平等など美麗美句が並んでいることに彼女の怒りは爆発する。「無駄な性行為をやめる」「レイプはしていけない」など役立つ憲法にせよとの提案だ。これは憲法のなんたるかをよくわかっていないからだろうが、彼女の気持ちはわからないでもない。結局、彼女は泥沼のようなこの国を救うのは、「地球市民」としての我々の想いから生まれる国際協力だと結論付けている。今回のレポートの中で、自分の考えが変わったと書いてくれている。嬉しいじゃありませんか。…つづく。

2 件のコメント:

  1. 本当にレベルの高いPRSPだと思います。
    我が関西大学の学生にレポートを書かせても彼らよりレベルの高い議論ができるのか果たして疑問です。
    理由はただ一つで、どうしても感情から議論に入る人が多いのが問題だと思います。
    もちろん社会を変えるのは熱い気持ちです。しかし戦略には感情をのせてはいけないということを誰かが教えないと、日本だけ国際社会で通用する人間が育たないのではないかと心配しています。

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  2.  うれしいご意見ありがとうございます。いづれ、私がなぜ高校生に、門外漢ながら自学自習し、開発経済学を教えることにしたかを、現在の国際理解教育のおかれた状況から論じたいと思います。

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