2022年7月23日土曜日

安易な中心 ヴィルヘルム2世

ビクトリア女王とヴィルヘルム2世
https://bokete.jp/odai/tag/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%
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松岡正剛の「国家と私の行方」を読んでいて、ふと頭を過ったのはドゥルーズの脱コード化という概念である。昨日のエントリーの松岡が指摘した20世紀の世界観・第4には次のようにある。

第4に、世界も社会も「私」も、安易な「中心」をもつべきではないということ。そんなことをするから中心どうしが闘い合うことになる。

https://blog.goo.ne.jp/taitouku19/e/44767764f8cda13b94f41bb206db375c
ドゥルーズは、コードについては概要次の通り。(上記画像参照)プレモダン(近代以前)では、神・王・父などの権力がそのまま円錐型の社会に直接的に作用している。それがモダン(近代)では、権力は流動する貨幣に移る(つまりは権力は変動する)ことになり、ポストモダン(近代以後=現代)では、スキゾ化が進み、リゾームとなる。経済的に見れば、モダンの例は金融資本主義、ポストモダンの例としては、多国籍企業や国際金融資本といったところになるだろう。また政治的には、プレモダンの例は列強の帝国主義、モダンの例はパクス・ブリタニカからパクス・アメリカーナ、ポストモダンの例は冷戦崩壊後の民族主義の台頭などが挙げられると思う。

さて『安易な「中心」をもつべきではない』という松岡の第4の世界観、そしてプレモダンの権力の代表例として、ヴィルヘルム2世について調べてみようと思う。
ヴィルヘルム2世は、29歳でドイツ皇帝・プロイセン王となり、鉄血宰相・ビスマルクを辞職させ親政を開始、ビスマルクのアメとムチによる社会主義鎮圧法を廃止し、結局それが仇となってWWⅠ末期のドイツ革命でオランダに亡命することになった残念なトップである。WWⅠの元凶とも長く言われており、幼少の時からイギリス人の母との確執をもっていて、外交政策ではイギリスに対抗し3B政策を推進した。皇帝としては、軽口でデイリー・テレグラフ事件(イギリスでのインタヴュー記事で不用意な発言をして国内外で大きな非難を浴びた。)や黄禍論の世界的流布など、失言でいろいろと問題を起こしている。性格的に苛烈で周囲に対し偏見が強く、また側近のオレインブルク侯爵との同性愛疑惑もあったり、なかなかスキャンダラスな人物である。まさに安易な中心の代表例だといえるだろう。

『安易な中心』という概念は、ヴィルヘルム2世のみではない。20世紀にはそういう政治指導者が多かったように思う。いやほとんど、と言って良いだろう。安易ではないと思えるのは、その善悪や人間性をも無視したとして、チャーチル、F・ルーズベルト、ホー・チ・ミン、ド・ゴールなどであろうか。(とは言っても皆闘っている。ホント、20世紀は戦争の世紀だ。)スターリンや毛沢東も安易ではないが、反対に安易でなさすぎる故に闘い合ったのかもしれぬ。ヒトラーは意外にうすっぺらく安易な感が強い。しかもそれ以上に狂気的な側面が強すぎる。こういうカテゴリーでは捉えきれない。

では、20世紀の日本はどうか。「日本の天皇制は、空虚な中心である。」とは山口昌男の言だったと思うだが、私は、この考えを支持する。明治天皇は、帝王学を身に着けた安易でない国家元首であったと思う。いくら明治憲法がプロシア憲法をもとにしたものであったとはいえ、天皇主権は空虚であったようだ。明治天皇は、五箇条の御誓文の下にあろうとされていたし、明治憲法作成にあたっては全会議に出席しつつも自己の意見は言われなかった。成立後は、その下にあられた。まさに法の下の天皇である。かの日露戦争開戦事には、明治天皇は日本の滅亡を深く危惧し反対であったと言われる。伊藤や軍も、当時の内閣も国民の(無知な)熱情に押された感が強い。昭和天皇も、軍部独裁に大きな抵抗感があられたようだ。(だからこそ、靖国神社にA級戦犯が合祀されて以後参拝されていない。)だが、空虚な中心であることを守られ、最後の敗戦決定についてのみ責任を取られた。ヴィルヘルム2世とはかなり違う。

ちなみに戦後の昭和天皇、ならびに上皇陛下は、日本国憲法の下にあることをなにより重要視されておられた。これは今上陛下も同様である。空虚さに対する姿勢は、全く安易ではない。天皇制は(安易の対義語である)至難を天皇御本人に強いているといってよい。だからこそ国民に尊敬されているのである。A家の方はそれをわかっていない。この空虚たる天皇制を守ることは、東大に入ることなどより、よっぽど至難である。敗戦後の大混乱を乗り越え、経済発展した日本社会の統一感は、至難である空虚な中心があったからだと私は思っている。

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