2022年7月26日火曜日

敗戦国としての日本論3題

松岡正剛の「国家と私の行方」のエントリーも、いよいよ大詰めである。昨日のラストに記した日本の敗北感について。松岡は、この日本の敗北感さらに日本の意思決定プロセスの不在、永続敗戦論と、3人のの著作を挙げて言及している。

まずは「東京プリズン」「愛と暴力の戦後とその後」などを書いた赤坂真理。『日本は、一度のつまづきで再起しにくいシステム社会なのである。あるいはセーフティネットをつくりながら発展する余裕がなかったのかもしれない。』『日本国は、開国させられた屈辱とショックと危機感から戦争の世紀に打って出て、奇跡の快進撃を遂げた末、深煎りしすぎて大負けし、国を焦土として無条件降伏するまでになった。その間、変わらなかったのは天皇の実在、もうひとつは日本が一貫して他者のルールの中で戦わざるを得なかったことだった。』

カレル・ヴァン・ウォルフレンの「日本/権力構造の謎」。彼は国会、内閣、自民党、野党、官僚機構、警察権力、財界、圧力団体とおぼしい農協。日教組・医師会・法曹界・連合、さらには宗教団体などをたっぷり調べたうえで、欧米社会の分析で成立するようなロジックにはならないことに思い至る。『日本は主権国家として最善の国益を選択しているのだろうと諸外国から思われているが、実はそのようなことができていない国なのではないか。』『日本は自由市場経済を徹底していると主張しているが、どこかでごまかしているか、あるいは内側の顔と外側の顔を使い分けているのではないか。』『おそらく日本は世界中がまだ定義すらできていない体制をとっている国なのだろうが、その体制にとって自覚も分析もできていないのは当の日本自身なのではないか。』彼の推測的結論は『日本の権力は、きっと極度に非政治化されるように見えるシステムになっているのではないか。そのシステムは議会や内閣や官僚が制度的に掌握しているのではなく、複数のアドミニストレーター(管理者)によってそのつどツボが押さえられると見るしかないのではないか。おそらく日本人はそう見えるような努力ばかりをしているに違いない。つまりは日本はアドミニストレーターの天国ではあっても、その天国は日本という「国家」なのではなく、そうしたバラバラのシステムの漠然とした「顔」の統合体でしかない。だからこそ日本は長らく東大法学部出身のアドミニストレーターをあらゆる政界・業界・法曹界・公安界のトップに迎えてきたのではなかったか。』というもの。彼はさらに神道・仏教・儒教の三大精神体系の役割を考えてみたり、日本人の価値観が大学や小中学校、家庭や会社で育まれているという仮説を立て分析しているが、なんら「国家」「日本文化」のことを教えないことに驚愕する。また『日本には責任をとって自殺したり沈黙したりしてしまうレスポンシビリティ(行動責任)があっても、政治的な説明をしようとするアカウンタビリティ(説明責任)がない。』と落着点を見出した。またその後、日本のマスコミの問題について、『日本のジャーナリズムは「社会秩序の維持が仕事だ」という勘違いをしていて社会が変革される方向のために努力していない。マスコミはジャーナリストの責任を問わないで他人の責任ばかりを問うている。』としている。

3人目は白井聡の「永続敗戦論」で、領土問題、拉致問題、安保条約の問題、TPP問題という順に日本の立ち位置を検討して、戦後レジームが「国体」にあったことを強調する。北一輝の思想、すなわち大日本帝国憲法の天皇を、現人神として「神聖にして侵すべからず」と密教的な天皇としながら、明治の政治家と官僚たちは、国家を運営するための機能や機関=顕教的天皇としての利用したしくみを見抜いた思想だが、これは戦後レジームでも「戦後の国体」として生かされているした。このような日本は永続敗戦の状況にあるというのである。

松岡は、日本人は現在の日本に「かつての日本」があると思いすぎているのはないか、現在の日本の現状をもう少し目を見開いて見たほうがいいのではないかと述べている。かつて、レヴィ=ストロースは、「日本は、自らの価値観を放棄するほどにヨーロッパの価値観に傾倒することは一度もなかった。」と書いて、日本に潜む「二拍子のリズム」(裏腹とか本音と建前)に言及したことがり、トインビーは、「日本は西洋病に患ってきた時間が長すぎる。これでは日本文明としての見解を政治家も学者も提出できないままになる。」と憂えたことも記されている。

…この13講の後半部も実に勉強になった。思うところはたくさんあるが、あえて記さないでおく。ところで、来週から政治経済の夏期講習で4日に渡って講義する機会があるのだが、松岡正剛の編集力は、そのまま「メタ」な視点と言い換えてもいいかもしれない。『近現代史から政治経済分野をメタに捉える』というテーマで行なうつもりで準備を進めている。

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