2013年10月19日土曜日

アフリカ学会 公開講座10月

紅葉などまだまだ 京大稲森財団記念館
久しぶりの京大である。アフリカ学会の第4回公開講座は、関西外国語大学の近藤英俊准教授の「呪術-現代アフリカの見えない力」であった。

呪術というと、近代と対立的な概念と見られている。アフリカでもやがて呪術は無くなるのか?この問いかけから本格的な講義が始まった。実は、反対に増加しているらしい。少し過激な例を3件紹介された。キンシャサでは、ストリート・チルドレンの大多数が農村から追い出されたウィッチ(超能力的な存在)だと言われている。(ベルギーの文化人類学者の説)またガーナ東北部トーゴとの国境近くの村に、おばあさんのウィッチの村があり、行き場をなくした彼女たちの様子をBBCが報道している。また、南アでは、ウィッチがらみの殺人事件が急増しているとのこと。

近代化(開発)が進むアフリカで、なぜこのような呪術現象が増加しているのか?それは、社会的な変化によるものだと欧米の多くの研究者が指摘している。近代化は即ち生産関係の変化を生む。そこに必然的な経済格差が生まれる。カメルーンの呪術を研究しているオランダの文化人類学者によると、都会で成功した人物は、実家のある村でパーティーを開き大盤振る舞いをする。貧しい親族からの嫉妬を恐れ、自らの富を分配するのだ。当然、呪術的な報復を恐れてのことである。呪術は、ある意味でそういう道徳性をもつわけだ。ところが、経済格差はますますグローバル化の中で拡大している。カメルーンでは、クペ山の中腹に謎の農園があり、金持ちの呪術により、魂が集団労働(つまりゾンビである。)させられているという噂が流れているそうだ。
この噂は同時多発的にアフリカで話されている。アメリカの研究者によると、前述の南アの呪術的殺人事件は、(ゾンビ労働の噂を受けて)魂を序々に盗む悪いウォッチ(老婆が多いらしい)によって自分が失業していると主張する若者による事件が多発しているというのだ。

すなわち、様々な不平等をアフリカの人々は、彼らにとって常識的な呪術で説明するのである。もちろん社会問題としての経済格差の原因は、当然経済学や社会学の視点から十分説明可能である。しかし彼らが無知だから、そう考えるのではない。彼らもそういう知識は持っている。

たとえば、日本でも事故が起こった時、重傷の人と軽傷の人に分かれたりする。何故、彼が重傷にならねばならなかったのか?その因果関係の理不尽、不確実性、不可解な部分を彼らは問題にするのである。これを言葉に直すと「もしかしたら呪術かもしれない。」となるのである。欧米人なら偶然として片づける事項だが、彼らはそれを呪術で説明しようとするのだ。

およそ近藤先生の講義の主旨をまとめると以上である。なかなか興味深い講義だった。しかし私が今日、最も感銘を受けたのは、いつもの質問に答えるコーナーでの話だった。

「ウィッチと見なされた人は、どう思うのか?」という質問に、近藤先生は、こう答えられたのだ。「(先生が主に調査された)ナイジェリアではごく普通につきあいも続きます。告発される場合もありますが、村八分や袋叩きに遭うこともありません。ただ、ウィッチの力を冷やすことがあります。中和するという意味です。腹の中にウィッチがあるので、死や再生のモチーフを使う儀式を行い、生き直すのです。この生き直す(やり直す)というスタイルは、(肉体が生まれ変わっても)希望がつないでいるということです。希望の次元とでもいいましょうか。」

私は、「生き直す」「希望がつなぐ」「希望の次元」というコトバに、アフリカの人々に学ぶ重要な人生スタイルがあるような気がする。原因や結果を論理的に明証する欧米的なスタイルではなく、必要なら「生き直すこと」が可能なアフリカの生き方に魅力を感じる。現に最もHDIの高い北欧では自殺率が高い。HDIの低いアフリカでは、疾病や内戦による死は多くとも、自殺は極めて少ない。アフリカの人々は、どんなに苦しい生活を強いられていようと、「希望の次元」を失わないのだ。

呪術というと、極めて野蛮な遅れたイメージが付きまとうが、呪術があるからこそ、アフリカの重要な人生スタイルが形成されてきたように私は思うのだ。近藤先生、貴重なお話、ありがとうございました。また重田先生はじめ京大の関係者の皆様、ありがとうございました。

2 件のコメント:

  1. 昨日、近藤さんの会でしたね。先々週、先に話を聞いてしまいました(@道祖神)。近藤さんは僕の同門の兄弟子で、ずいぶんお世話になりました。

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    1. 先日の荒熊さんのエントリーで存じ上げておりました。先日の道祖神は、小松基地の航空ショーの日でした。京大に来られるのを知っていたので行けませんでした。第二回はどんな内容なのでしょうか?少し気になるところです。

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