2012年7月13日金曜日

民間連携JOCVの是非を問う

http://www.jicafriends.jp
毎日新聞の『金言』(西川恵専門編集委員)に、JICAが企業の人材育成の一環として、JOCV(青年海外協力隊)に「社員」を受け入れるという「民間連携ボランティア制度」の創設説明会が行われ、約60社が参加したことが書かれていた。
そもそもJOCV経験者への関心が企業に高まっており、JOCV終了後の採用打診は倍層しているらしい。「厳しい環境でやってきた協力隊員は有力な人材」だという。留学制度をもつ大企業などから、社員育成に協力隊を利用できないかという打診が、今回の制度を後押ししたのだろう。人間力を鍛える場として活用したいというのだ。
『ここには、グローバリズムにあって日本に必要とされる人材像が象徴的に表現されている。自己表現力と異文化理解力が、企業の成否を決める時代になっている。』と西川委員は書き、JICAは、企業の立場を考え1年間の派遣を認め、派遣先、活動内容も相談で決め、一応50人の企業枠をとるという。『(JICAは企業の要望を受け)オーダーメイドの派遣を心がける』と最後に結ばれている。

二日連続で、予定外に毎日新聞の記事をエントリーすることになったわけだが、私はこの「民間連携制度」、西川委員のように手放しで喜べない。JOCV経験者の採用打診増加は嬉しいことだ。確かにグローバリズムにあって、JOCVのような厳しい戦いを経験する人材が企業にとっても有為であることを企業が認識してきたことも嬉しい。だが、企業の要望を受けオーダーメイドでJOCVとして派遣することは、どうもベクトルが180度違うのではないかと思うのだ。JOCVには青年の人材育成という側面があることは否定しない。それを主目的に参加したJOCVもいるだろうと思う。だが、それはやはり側面であって、途上国で自分の持つ力を発揮し、役立ててもらいたいというボランティア精神こそが主ではないだろうか。

一方JICAは、独立行政法人であるが国の税金を使っていることは間違いがない。したがって、国益を離れた論議はありえない。企業の人材育成が、グローバル化の中、国益に沿うものであると言われれば否定できない。

途上国の持続可能な開発を進めるのが本義なのか、国益のために人材育成を行うのが本義なのか。これまではJOCV個人の中で止揚されてきたコトが、グローバル化の中で企業が介入することで、問われているのだと思う。私は、地球市民を育むというポリシーから、当然前者がJOCVの本義だと考えている。企業が、そのような人材を望むのであれば、どんどんBOPビジネスを自ら推進すべきである。あるいは、途上国で様々な厳しい活動をしているNGOを支援し、人材を派遣する方がいい。そのほうが『人材育成』としては、わかりやすいのではないか。

新JICA理事長は、『新しい中世』の中で、企業のグローバル化、近代国家の解体を解いた方である。このあたり、どう考えておられるのだろうか。

7 件のコメント:

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  2. 各関係者のメリットは、①企業にとっては、途上国で経験を積ませ、市場開拓につなげること。②JICAにとっては、社会経験がある人材を確保し、応募人数減少に備えること。③JOCV参加者(社会人)にとっては、退職しないでも参加できること。

    JICAがJOCVに社員を受け入れるのは、現役教師を受け入れているのと似ていると思います。

    BOPビジネスでもJOCVにしても、大企業は資金力があるのだから、政府に頼らずに自助努力してもらいたい。中小企業は資金も人材も不足しているだから、そのような制度を利用してもいいのではないか、と思います。

    サントリーがこの制度を使うようですが、手弁当(一部あるいは全額を会社負担)なのか興味があります。
    http://newstopics.jica.go.jp/topics/doc/2012/20120611_02.pdf

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  3. MIYAさん、さっそくコメントありがとうございます。どちらかというと私の分析は人文学的にすぎますかねぇ。(笑)

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  4. 企業が「社員に○○な経験をさせたいけど、何かいい案件はないか?」とJICAに依頼して得られた特定の案件に、社員を派遣させるのですから、ボランティアというよりは、企業が行う新人研修のように思えます。
    先生のおっしゃる通り、2000を超える要請の中から、自主的に自分の能力が発揮できる案件を探し、必死で準備してJOCVになる、というのが本来の姿だと私も考えます。
    新人研修の延長線でもし来たとしても、日本と違い、思い通りに行かないこと、裏切られること、などなど困難が多いので、派遣期間(1~2年)を全うできない人が続出するかもしれないですね・・・。

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  5. LILY君、コメントありがとう。現場から見たらそうだよね。この試みは、様々な問題を秘めているように思うんだよね。さてさて…。ところで今、喫国中?

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  6. 手弁当云々の話で、コメントを追加させて下さい。社員の給与はJOCVの給与より多く、また、社員は給与を下げてまでJOCV隊員になる人は少ないはずです。「JICAが規定額を支払い、会社が差額を補填する」ということになるかもしれません。でも私は、「大企業は全額支払う。JICAは機会・便宜を与える。(できれば中小企業も全額支払う。)」---というのが良いと思います。

    社員枠をつくるという制度は問題があるかもしれませんが、数年間試して、任期満了できたか、成果があったかなどみてみたいです。いずれにしても、その結果あるいは「隊員活動報告書」を公開してもらいたいものです。

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  7. MIYAさんへ。さっそくドミニカ共和国にJOCVで行っている教え子からコメントがきました。どうも、企業がJICAの組織的なセーフティネットにただ乗りするような感じがあります。ケニアでもブルキナでもかなり親密で万全のセーフティネットを引いていることを感じました。うーんと唸ってしまいますね。

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