2025年4月16日水曜日

経済で読み解く現代史2

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「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第19回目。今回は、世界大恐慌とNewDeal政策の効果についてである。 

以前から、世界大恐慌におけるアメリカのNewDeal 政策が、ケインズ経済学を取り入れ、有効需要を国家主導で行ったこと、これが分岐点となって、戦後、サッチャリズムやレーガノミクスといった新自由主義が登場するまで主流となってきた、と授業で説いてきた。ただ、実際にはアメリカは、WWⅡに参戦してやっと経済が復興できたことも教えてきた。今回は、その内実に迫る内容である。

まず、NewDeal 政策の6つの要素を整理すると、①生産統制:AAA(農業調整法)・NIRA(全国産業復興法)②金融緩和:金本位制停止と貨幣供給増大③財政出動:TVA(テネシー川流域開発公社のダム建設)④労働者保護:ワグナー法(労働組合法)⑤高関税政策:ドルブロック(輸入遮断)⑥銀行規制:グラス・スティーガル法(銀行の証券業務事業禁止)となる。

大恐慌発生時のフーヴァー大統領は、財政出動せず、FRBも金利水準を維持し、金融緩和も行わなかった(=金本位製の維持・ドルの供給増を行わなかった)ので、無為無策と評されているが、当時の国際協調最優先にしたわけで、世界経済の秩序は守られたが、アメリカ経済は悪化の一途をたどった。ここは議論の分かれるところである。

さて、ケインズの有効需要理論は、上記の③に当たるわけだが、1932年のフーヴァー政権での政府支出はGDP比8.0%、1936年のルーズヴェルト政権では10.2%で、僅か2%強しか増加していない。赤字国債も1932年がGDP比33.6%から36年は40.9%の増加幅に留まっている。実際にはその規模は抑制されたものであったわけである。

一方、金本位制を停止し、通貨発行の自由裁量権を得たものの1929年当時に戻したくらいで、供給ペースは緩慢であり、民間の貸出、市場への資金供給も進んではいなかった。マネーサプライも財政出動の使途分が増加した程度であったようだ。よって、NewDeal 政策は財政政策としても、金融政策としてもほとんど効果はなく、政策開始の1年前の、景気が底打ちした1933年から自律的に景気回復局面に入った故に、アメリカ経済はマシになっていったと言われている。いずれにしろ根本的に景気回復軌道に乗るのは、1939年のアメリカのWWⅡ参戦による戦時需要にあったのは間違いない。

…本書では、NewDeal 政策はボロくそである。(笑)まあ、様々な議論があるところで、評価も様々である。実に社会科学らしい話である。

…フーヴァーといえば、CAとNVの州境コロラド川にかかるフーヴァーダム(画像参照)を思い出す。ラスベガスに向かう際に通過した有名なダムである。このダムは1931年から36年の大恐慌中に建設されたもの。また、WI州のミルウォーキーで、キングという高校を視察した際、その高校はNewDeal 政策の時に建設されたと聞いた。TVA以外にもそういう公共投資・有効需要はあったにちがいないが、統計上は決して歴史に燦然と輝く政策…というほどではないようだ。

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