2024年9月19日木曜日

ロックの人種主義 考

17世紀イギリス経験論の哲学者で、人間悟性論や統治二論で知られるジョン・ロックのイメージは、倫理の教科書上では、決して悪くない。しかし、「アフリカ哲学全史」(河野哲也著/ちくま新書)を読むと、そのイメージが大きく崩れたのだった。

ロックは、ホイッグ党員(ピューリタン革命後、世継ぎがいなかったチャールズ2世時代に、カトリック教徒である弟・後のジェームズ2世が即位することに反対した政党)であり、アメリカの多数制民主主義を否定するなど、民主主義を唱える思想家とは決して言えなかった。彼の収入の大部分は、植民地関係公務員と植民地への投資から成り立っており、そこには王立アフリカ貿易商人会社による奴隷取引も含まれていた。奴隷制を容認したカロライナ基本憲法を起草しており、アメリカ先住民に対する植民者の戦闘を肯定している。

ロックの経験論と立憲主義は、たまたま同時代人と同じく、単に黒人に差別意識を持っていただけのことなのか、否、ブラッケン・ヘンリー・マーティンが1976年の論文で、ロックの経験論には人種主義との内的な結びつき(タブラ・ラサには、普遍性が認められず、エリートによる人間の制御という発想を生み出す)があると指摘、多くの議論を呼んだ。

また統治二論の中で奴隷制を批判している。自然的自由、自然権の擁護者としてのロックと実生活での植民地主義の加担、アメリカ先住民への侵略の正当化については、如何。ロックは正義の戦争による戦争捕虜を奴隷化することを認めていたが、王立アフリカ会社での奴隷売買は正当化できない。アフリカやアメリカでの先住民の抵抗に対しては反撃を擁護しているのだが、著者の論では、「労働のみが所有権(私有財産)をもたらすというロックの所有権論からの当然の帰結であり、先住民の自然への働きかけは労働と見なさず、植民した白人の農地利用だけが労働の名に値する。よって、先住民の排除が正当化されうる。」としている。明らかなのは、ロックは、全人類を実質的に少しも公平に扱っていないわけである。

…イギリス経験論の中でも、タブラ・ラサ(白紙説)は、なかなかインパクトがあって面白いのだが、たしかに普遍性とは相容れない。また財産権(所有権)の論議で、著者の指摘は当たっていると思われる。こういう正当化がなければ、現在の構造的暴力の世界観は形成されないわけで、現在もその根底(無意識層)にこういう人種主義が根付いていると私は思う。

…我々日本人は、白人世界と黒人を始めとした被差別世界の中間的存在にあるゆえに、こういう矛盾や問題意識に気づくことが可能な気がする。3度のアフリカ行で、私はそんな経験をたくさんしてきた。

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