2022年5月31日火曜日

イスラエル人の国民性 考

こちらは市立図書館で借りた「イスラエルがすごい~マネーを呼ぶイノベーション大国」(熊谷徹/新潮文庫)である。イスラエルの情報技術と軍の関係については、すでに何冊か読んでいるが、この本には、国民性のことが書かれていて、実に面白い。

イスラエル国防軍には、8200部隊やさらに士官候補生のためのタルビオットと呼ばれる特殊な技術教育プログラムがある。タルビオットは、第四次中東戦争で情報収集を疎かにしていた故に奇襲をゆるしたという反省から生まれた独創性を重視するエリート教育プログラムである。

著者は、これらの軍組織の出身者からベンチャー企業が生まれ大成功している理由として、「既成の考え方にとらわれない自由な発想」があると考えている。8200部隊に配属された18歳~20歳前後の若い兵士たちは、上官から極めて難しい課題を課される。たとえば、「X国のサーバーに入り込んで、データを取ってこい」という命令。この時、上官は課題を与えるだけで、どのようにして敵のITシステムに侵入すればよいかなどの細かい指導は一切しない。若者は自分の頭で考え、解決策を求められる。これまで誰も成功したことがないような課題を求めることもある。もし、解決策を考え出す者がいたら儲けものである。こういった訓練を受けた兵士が除隊後にベンチャー企業を立ち上げる。ゼロからの出発はすでに経験済みなので起業家として成功する確率は高くなる。20歳前後という多感な時期に、国の安全保障をめぐる課題について厳しい知的訓練を受けることは、心に大きな刻印を記す。民間経済の世界でも一見不可能と思える課題に挑戦することにためらいを感じなくなるだろうというわけだ。

従来の常識や伝統を超えた発想ができることを「箱の外」の発想といい、8200部隊に入る上で最も重要な条件だそうだ。これは、ユダヤ人の価値観(=あらゆる権威を疑う、政府・上司の言う事も絶対に鵜呑みにせず、質問攻めにする)から来ている。

…たしかにユダヤ教には、こういう伝統があって、タルムードはその結果生まれた膨大な聖書の注釈書である。この伝統はユダヤ人の学問的な長所となっているし、ノーベル賞受賞者が多いのもこの伝統上にあるといえる。

また、彼らの価値観には年功序列の原則はない。成果がすべてのメリトクラシー(功利主義)が徹底した社会だといえる。ある意味で民主的な社会であるし、出る杭は打たれるのではなく、出ない釘は出世しない社会である。彼らに美辞麗句や社交辞令は通じないし、フッパー(ヘブライ語で、大胆さ、厚かましさ。鉄面皮という意味)という語があって、知性や論理性に裏付けされた物怖じない態度が良しとされる。さらに中世以来の迫害も背景にある。結局生き延びるためには、一芸に秀でる事が必要になる。医者や弁護士が多いのもそういう理由もある。

…こういう国民性はイスラエルという移民国家でさらに磨かれたようで、ゼロからのスタート、失敗を恐れないメンタル面の強さなど、現在のイスラエル、ユダヤ人理解の大きなポイントであるようだ。

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