2021年1月25日月曜日

書評 人類の選択 佐藤優3

https://voxeurop.eu/en/the-fourth-reich-really/
アメリカの事は、さらに様々な未確認情報が出ている。あともう少しで解決するようだが、今日もエントリーはしないでおきたい。

引き続き、「人類の選択」の書評。EUと英国の話である。(これは、PBTの教え子R大のJ君の論文作成と関係がある。D大のL君と言い、J君といい、論文作成の相談がメールで送られてくることが、実に嬉しい。)

佐藤優の洞察は、いつもながら歯切れがよい。EUは、そもそもは「二度と戦争をしない」という仏と西独の共通認識に、伊・ベネルクス三国が乗ったカタチで発足した。よって、EUの最大の目的はナショナリズムの抑制である。独仏同盟中心の西ヨーロッパの帝国(佐藤優の新・帝国主義とは、コストがかかるので植民地を求めず、戦争も行わないが、外部から搾取と収奪を行い生き残りを図る)というのが佐藤優の視点である。一方、このEUには、もう一つの顔がある。それはドイツ第四帝国である。経済的にはユーロという名の拡大マルクによるドイツの一人勝ちで、しかも東方進出というベクトルを持っている点である。本書では、面白い比喩が載せられている。「ミュンヘンの高級ビアレストランでカツレツを注文したとする。オーナーはドイツ人。ウェイトレスはチェコ人かハンガリー人。カツの豚肉はハンガリー産、ハンガリーの豚小屋で働くのは、ウクライナ人でウクライナ産の飼料を使っている。」これは、ナチのアーリア人優性でドイツ人が指導層、チェコやハンガリー人はその補佐、スラブ人は奴隷といったヒエラルキーと同じ。軍事力ではなく経済力で実現しているというわけだ。EU内では、ナショナリズムの抑制という理念とドイツによる経済ナショナリズムという現実の齟齬が露呈している。ドイツへの警戒感を各国が持っているし、ドイツもEUから受けている経済的利益を放すつもりはないようで、(EUを)壊すには代償が大きすぎると誰もが考え、”だらしなく続いている”(佐藤優の表現)というわけだ。シリア難民が押し寄せた時、さらに今回のコロナ禍で、EUは大きく揺らいでいる。イタリアの感染拡大時、仏もオーストリアも、スロベニアも国境を閉鎖したのだ。

ところで、英国は総選挙で保守党が国民感情に訴えて過半数を得、ついにEU離脱の方向性を国民投票以後3年半でやっとこさ定めた。英国は、正式名称にあるように、王に対する忠誠によってプレモダン(前近代的)なシステムでこれまでやってきた。このシステムのおかげで陸軍を最小限に抑えることができたわけだ。よって、海軍に力を入れ、海洋国家として、パクス・ブリタニカを現出した。しかし、現在はスコットランドの独立問題やEU離脱後のアイルランドとの国境問題で、陸軍を最小限に抑えることが無理になっている。同時に海洋国家の利点を十分に生かせる状態ではなくなっている。佐藤優は、旧英国領だった英連邦(マレーシアも入るな。)の見直しのようなネットワークを再構築する外交政策をとるのではないかと考えているようだ。

英国のEU離脱。いよいよ現実になるわけだが、アメリカの混乱と合わせて見る必要があると私は思う。我々は、今そんな歴史の分岐点に立っている。

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