2023年2月3日金曜日

スウェーデンのNATO加盟問題

https://kagonma-info.com/c0018/swedish_defense_minister_turkey_20230120/
フィンランドとともに申請していたスウェーデンのNATO加盟が暗礁に乗り上げている。トルコ政府が、クルド人組織の引き渡しが行われていないことや、トルコ大使館前でクルアーンが燃やされたり、エルドアン大統領の人形が逆さ吊りにされたりの抗議行動に激怒しているらしい。選挙を控えたエルドアンも、挙げた拳は容易に下ろせないだろう。フィンランドのみNATO加盟を認める可能性が高い。

これらの抗議行動は、全てクルド人移民の仕業であるとは思えない。少なくともクルアーンを燃やすことはないと思う。現状で、スウェーデン人の多くはNATO加盟を望んでいるはずで、以前エントリーしたように、スウェーデン国内で最大の懸念は(イスラム系移民による)治安問題だといわれている。クルド人を支援する人もいるだろうが、クルアーンを燃やしたという報道に、なにかおかしい、と私は感じる。トルコは政教分離していて、最も寛容なハナフィー法学派だが、ムスリムにとっては最大の侮辱である。スウェーデンのNATO加盟を良しとしない(報道写真に寄ると左派っぽい)勢力による工作活動かもしれないが、トルコにNATO加盟を批准させたくない、孤立させたいと考える勢力かもしれない。

NATOは、基本的には集団安全保障体制であって、”よらば大樹”的な意味合いが強い。トルコはその中にあって、地政学的にロシアが黒海から地中海に出てくるのを防ぐ最前線の位置にある。軍事力もNATO内でもかなり大きい。トルコがNATOを離脱するようなことになったら、NATOも大打撃を受けるはずだ。

トルコではなく、エルドアンを失脚させるための工作かもしれない。

トルコでG20首脳会議が開催された直後の2015年11月24日、トルコがシリア内戦で対IS空爆作戦に従事していたロシアの爆撃機を撃墜する事件があった。トルコの言い分は、ロシア軍機がトルコ上空を領空侵犯し、警告に従わなかった故であった。しかし、シリア領に食い込んだ幅が数キロの細長いトルコ領空であり、ロシア軍機の不注意の可能性が高い。常識的に見て、ロシアがトルコを挑発する動機はない。この事件の10日前に、プーチンとエルドアン会談があり緊密な関係を確認したばかりであり、言うまでもなくトルコはNATOのメンバー故、トルコへの攻撃のメリットはない。トルコにとっては、クルド人組織が所属するシリア民主軍こそが敵であり、その敵であるISをロシアが攻撃することはあまり良いとは思わないだろうが、ロシアとの全面戦争の危険を犯すメリットはない。

事件後、プーチンは強く避難し、トルコからの財の輸入禁止、ロシア人観光客の渡航禁止、トルコ経由のパイプライン施設計画の凍結と、十分に抑制された制裁を発表した。エルドアンのほうは、正当化しつつも動揺した様子で、NATOもロシアに軍事的圧力をかけることもしなかった。

その後、2016年6月になるまでに6件の大規模なテロ事件が発生、多数のトルコ人が死亡した。クルド人組織が犯行声明を出したものの他、ISによるもののようであるが、エルドアンへの圧力という見方が強い。また4月には、アゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州でアルメニアとの衝突が起こる。これはトルコに近いアゼルバイジャンとロシアに近いアルメニアの代理戦争的なもので、ロシアとトルコの仲を裂こうとした戦略だと見られている。さらに6月、ドイツの連邦議会がWW1時のトルコで生じたアルメニア人殺戮事件はジェノサイドである(150万人/200万人が殺された。)と決議した。…わざわざ、この時期に。まるで、トルコ=エルドアンを追い詰めるような展開だ。

2016年7月15日。ロシア軍爆撃機撃墜事件後のエルドアンのロシアへの対応に不満を持つ勢力がクーデター未遂事件が起こるのだが、前月にエルドアンは、プーチンに書簡を送り謝罪していた。つまり、エルドアンの指示による撃墜ではなかったわけで、この書簡が明らかになった直後、イスタンブール空港で40人以上が死亡する自爆テロが起こる。そして前述のクーデーター未遂事件。エルドアンは果敢に鎮圧したが、なんとロシア軍機を撃墜したパイロットが反乱軍にいたのである。8月9日、エルドアンはサンクトペテルブルグでプーチンと会談。ロシア側は制裁を全て解除し、両国は正常化した。(参考文献「世界最終戦争の正体」:馬渕睦夫/宝島社)

…もし、クーデターが成功していたら、トルコはNATOに集団安全保障をたてにロシアとの戦争を企てていたかもしれない。今回のスウェーデンの問題もまた、このようなトルコとロシアの関係性の中で起こっているのかもしれない。

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