2022年9月29日木曜日

漂流 日本左翼史を読む 2

漂流 日本左翼史を読み終えた。この本の骨子は佐藤優の「おわりに」に見事にまとめられている。佐藤優の文章力には今更ながら恐れ入る。重要な箇所をそのまま転記したい。

「新左翼が内ゲバとテロリズムに傾斜し、社会的影響力を失うなかで、左翼の主戦場は労働運動になったという見方を私たちはとった。そこで社会党左派を支えた社会主義協会が台頭するが、そのマルクス・レーニン主義的な前衛主義に対する総評、社会党内の反発が強まり、1970年代後半に社会主義協会の活動に規制が加えられる。さらに政府・自民党の国鉄分割民営化によって社会主義協会の影響が著しく低下した。国際情勢では、ソ連や東ドイツを理想化的な社会主義体制と見なした社会主義協会の思想的限界が1989年11月のベルリンの壁崩壊、1991年12月のソ連崩壊によって露呈した。非ソ連型マルクス主義として出発した労農派が、ソ連の崩壊とともに政治的にも思想的にも完全に影響力を喪失したというのも歴史の弁証法なのだろう。同時に社会党(社会民主党)からマルクス主義の要素が消え去った。結果として、現実に影響を与ええる左翼は日本共産党だけになった。その共産党は、議会を通じた平和革命と平和主義というかつての社会主義の路線を密輸入することで生き残りを図っているが、前衛思想と民主集中制のくびきから逃れることが出来ずに行き詰まっているというのが本書の分析だ。」

「ロシアのウクライナ侵攻で世界の構造が変化しつつある。ロシアの行為は、ウクライナの主権と領土の一体性を毀損する既存の国際法秩序に反する行為で厳しく弾劾されなくてはならない。当事国であるウクライナとロシアはもとより西側諸国(米国・EU・日本・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド、シンガポール、台湾、イスラエル)では多くの人々が無意識のうちに自国政府の立場と自らを一致させている。(アフリカ、中南米、中国、東南アジア、西南アジア、中央アジアの諸国では、政府も国民も欧米の立場にもロシアの立場にも同調していない。)その中で、プロレタリアートは祖国を持たないので、階級の立場からあらゆる帝国主義戦争に反対するというかつての左翼の声は全くと言っていいほど聞かれなくなった。日本共産党も、自衛隊は憲法違反であるが、日本が侵略された場合には、自衛隊を活用するという祖国防衛戦争論を前面に掲げるようになっった。」

「ウクライナ戦争の進行とともに左翼的価値がもう一度見直される可能性があると私は考えている。(中略)さらにウクライナ戦争で燃料、食料価格が高騰し、インフレが起きている。インフレは社会的に弱い層の生活を直撃する。今後格差問題だけでなく貧困問題も深刻になる。その過程で平等を強調する左翼的価値は見直されることになると思う。」

「イエスが述べた隣人愛の価値観を左翼の人々は、神なき状況で実践しようと命がけで努力したのだと思う。しかし、神(あるいは仏法)不在のもとで、人間が理想的社会を構築できると考えること自体が罪(増上慢)なのだ。社会的正義を実現するためには、人間の理性には限界があることを自覚し、超越的な価値観を持つ必要があると私は考えている。日本左翼史というネガ(陰画)を示すことで、私は超越的価値というポジ(陽画)を示したかったのである。(後略)」

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