2022年9月1日木曜日

マレーシア政治体制論を読むⅢ

今年も独立記念日のマレーシア空軍のパフォーマンスは健在
https://www.malaymail.com/news/malaysia/2022/08/25/rmaf-to-
conduct-aerial-drills-from-tomorrow-in-preparation-for-national-day/24786
「民主主義の自由と秩序ーマレーシア政治体制論の再構築」の書評の続きである。この鈴木絢女論文の特徴は、先行研究(支配集団対被支配集団や欠如態としての政治体制論)に対して、協議・相互主義的制度から、マレー系、非マレー系の政党だけでなく、様々な集団(企業家や専門家など)も含めて丁寧に見直して批判している点である。

前回のエントリーで、71年の憲法改正について、マレー系はもちろん、非マレー系も互いの利益を鑑みながら協議する必要性に迫られていたことを少し引用した。大きな問題は、マレー系のUMNOにとっては特別な地位の保証であり、国語問題であり、経済格差の是正である。

中華系のMCAにっとて最大の問題は、市民権である。改正案ではこれを争点にすることを禁じている。ちょうどインドネシアで華人に対する抑圧が起こっており、危機感があった彼らは、この不安を払拭できる市民権規定が憲法で硬性化されることを支持したのである。言語問題に関しては、152条改定でマレー語を国語、公用語の地位と共に他のコミュニティの言語の使用と学習の継続を保障すると解釈した。国語での自由の制限は、一見するとマレー人本位であるように見えるが、同時に公用目的以外の目的での非マレー語の使用が認められたことでもあった。マレー人の特別な地位については、UMNOからは市民権の見返り的な部分があるのだが、一時的な救済措置だとMCAは説明している。UNMOはこの地位を決して誇りに思っていないこと、時が来れば自主的に削除するだろうという論理である。また、153条の実施方法について問題にすること(=議論)は可能であるという立場だった。華人社会を代表する企業家・専門家で構成する華人連絡委員会からもMCAと同様の理由で支持を得た。

インド系のMICも市民権を保障され、タミル語の維持も保証され、諸権利の実施問題を議論する自由は保証されているとし、野党によるセンシティヴ・イシュー(デリケートな問題)の利用を禁止することが可能になり、少数派のインド人の政治的影響力を保持することが可能になった。

野党のPPPとDAPは、自由民主主義の原則に反すると憲法改正法案に反対した。一方、PASとグラカンは一部に不満を残すものの賛成した。71年2月の下院では126対17で可決した。

1972年、UMNO、MCA、MICからなる連盟党に、グラカン、PAS、PPPを加えた国民戦線(BN)が成立する。社会に対する制御の拡大という視点で語られることが多いが、著者は、連合政権下での旧野党と少数派民族の思惑(マレー系の強制を避け、自らの政策を具現化できる可能性)も評価すべきだとしている。

この71年憲法改正を、著者は『民族間の箍(たが)のはめ合い憲法改正』だったと総括している。マレー人側は、死活問題を市民権再検査や雇用法などの非マレー系へのゆさぶりで守り抜いた。一方非マレー系は、ブミプトラの特別な地位を保証することで、市民権とこれまでの経済活動の自由を保障された。国語問題では、非公用での華語・タミル語の使用。教育を硬性化した。これらデリケートな問題は、野党の存在意義を失わせ、連合政権にBNに取り込んだ。野党も連合政権に参加するという利も得たわけだ。

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