2014年9月6日土曜日

中公文庫「戦争の世界史(下)」 2

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中公文庫「戦争の世界史(下)」 を読んでいて、意外というのではないのだが、その記述にはっとさせられた部分を備忘録的にエントリーしておこうと思う。

イギリス海軍というと、七つの海を支配した歴史に名を残す大海軍なわけだが、アジア・アフリカの支配については、そのコストは安かったようだ。”ふと気がつけばいつの間にやら”大英帝国を手に入れていたという有名な文句があるそうで、戯画的誇張ではあるけれども決して間違いではないと著者は述べている。以後イギリスは、ヨーロッパにおいて、第二・第三の海軍力(たとえば、仏・露、後には独)を合わせても勝てる海軍力を持つというテーゼを持っていたようだ。しかし、それは、急激な技術革新によって、破綻せざるを得ない状態になっていく。本書には、細々とその辺の技術革新と政治そして経済構造についても詳しく書かれている。民間企業が発明した新技術を軍艦に活かすには、恐ろしく費用がかかる話なのである。しかも民主主義国イギリスの軍事予算がどうその多大な費用に対応したか、という点が面白い。イギリスでは、何度にも選挙資格の改定が行われている。1884年、グラッドストーンの自由党政府は、有権者の幅をかなり広げた。経済不況時、納税者のみで構成される議会ならば、税収の減少分に見合ったように政府支出を切り詰めるべきだという要求がでるのが当然であった。つまり技術革新が進まないはずだ。しかし、この選挙資格の変更で、政治の力学が大きく変化した。不況下では、追加的政府支出は望ましいものということになったのだ。特に、造船・鉄鋼業が不況であえいでおり、失業者は増加していた。経済政策としての軍拡が是とされたわけだ。こういう事情が、イギリス海軍の技術革新と建艦を大きく後押しすることになる。なるほど、と思う。

もうひとつ。倫理を専門とする私の琴線に触れた記述。(WWⅠの起こった)1914年当時、ヨーロッパの比較的都市化の進んだ地域では、男たちは戦争に行くことをちっともいやがっていなかった。公衆の意識のうちに、逆上とすれすれの好戦的熱狂がわきあがったことに対してなのだ。
…たしかに「映像の20世紀」で開戦時の熱狂を見た記憶がある。実は長年不思議だったのだ。この後、潜在的な不満分子(特に社会主義者や労働者階級)が身近な同胞への反発が戦争によってそがれた安心感、農村から都市に移り住んだ人々の心理的な緊張のはけ口などを、著者は挙げているのだが、それ以前にまずこう記述している。

「このような奇怪なまでに戦意旺盛な行動がとられた理由となると、それは推測することしかできない。愛国心とギリシア・ローマ古典研究とに重きをおく教育制度によって支えられた、英雄的行為を宗教的なまでに礼賛する傾向は、この現象の一因であろう。」

この「ギリシア・ローマ古典研究」「英雄的行為を宗教的なまでに礼賛する傾向」という部分である。先日も友人の英・豪国籍をもつ友人にも聞いたのだが、ギリシア・ローマの古典が欧米人にどのような影響を与えているのか、という事に私は大きな興味を持っている。ギリシア神話を学ぶアメリカの小学校教科書などを持っていたりする。だがこんなに直截的に書かれた記述は初めてだ。このことについては、またいずれエントリーしたい。

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