ポーランドに行く前、関空の書店で、「名画の謎」ギリシャ篇(中野京子著/文春文庫・本年7月10日発行)を買い求めた。まあ、ヨーロッパに行くのだから、というのが選んだ理由である。ルフトハンザの中でも、ホテルでもあまり読まなかったが、関空から帰りのバスで本格的に読んで以来、だいぶ前に読み終えた。今日は、その書評を書こうかと思う。
ギリシャ神話というのは、欧米の異文化理解では必須の学びである。この本は、ゼウス、ヴィーナス、アポロン、その他の神について、彼らにまつわる名画を1つか2つ上げつつ、詳しく論じている。これが読み出すと止まらない。
アトリビュート(人物を特定する持ち物)というものがあって、絵画にギリシャの神が描かれるとき、例えば、ゼウスなら鷲や雷、ヘラ(ゼウスの妃)なら、孔雀(ヘラの神殿で飼われている。百眼の巨人が退治された時、その目は全てヘラによって孔雀の羽に嵌められたという。)が近くに描かれていたりする。
私はこういうアトリビュートのような知識は面白い雑学の域を超えて、必須の教養だと考えている。ギリシャ神話は、ギリシャ哲学の源である。単なるおとぎ話ではない。比喩からロゴスへという流れから「哲学」が形成された。それ以上に、フーコーなどによって神話が研究されている現在、その存在の重要性は増すばかりだ。
昨今、国立大学で人文系の学部や学科が縮小される方向だという。国策で国立大学は、理系重視になるらしい。それを一概に批判する気はないが、哲学をもたない優秀な理系人間が開発する科学技術というのは怖い、と私は思う。
今回、どれか絵を選んで、どんな風に絵画を読み解くのかを書こう、あるいはアトリビュートの数々を並べたり、チェックした面白い逸話を書こうと思ったのが、つい人文学軽視への危惧になってしまった。(笑)今、日本は人文的な教養や余裕を失って、ありえない方向へと、どんどん向かっているように感じるのだ。
2015年8月12日水曜日
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