世界銀行は、中国経済の行き過ぎを回避し、世界経済の成長を維持するため、中国に対して生産の一部をアフリカに移転することを提言した。世界銀行のロベルト・ゼーリック総裁は、「中国企業がアフリカへ生産の一部を移転するために、中国側との交渉を始めている」と述べている。ゼーリック総裁は今回の動きが、中国の過剰な輸出依存を軽減し、安定成長を作り出していくことを目的とした、世界銀行による中国支援策の一環だと位置づけており、「もしも500万人の雇用を移動させることができれば、アフリカでの雇用が50%改善されることになる。」と指摘している。またアフリカにおいて中国の工業地帯を作り出すことによって、中国とアフリカだけでなく、世界経済の成長もバランスの取れたものになる、とされている。世界銀行のジャスティン・リン・イフ専門家は、この動きに関して、「消費者の需要を刺激し、世界経済の新たな原動力となる」と指摘している。
このニュース、どうとらえればいいのか。極めて難しい。先日(8月21日)、『アフリカビジネス入門を読む』というエントリーの中で、著者の言として「友人の中国人、配偶者の日本人」というアフリカの言葉がある。」と書いた。JICAの頑張りで日本はアフリカのことを真摯に考えていて信用ができると感じている一方で、中国には、少し違う感覚があるのだという言い方である。
アフリカの多くの政府は、中国の経済進出と協力の本音、狙いを自国の資源確保だとよく理解している。全くのギブ・アンド・テイクな関係である。ガバナンスに対する欧米諸国の透明性の要求など、ややこしいことを言わないストレートな中国のアフリカ政策は、これまでの欧米諸国の構造政策強要への不信という記憶から、凄いスピードで受け入れられてきた。
ここで、その欧米諸国がつくった世界銀行が、中国に生産の一部を移転することを提言したのである。今や中国製品のアフリカでのシェアは極めて大きい。中国製品の生産拠点をつくることは、極めて現実的である。これによって、アフリカの現地での雇用が拡大することは大きな意味があるだろう。ただ、中国が生産拠点をつくっても中国人のみの雇用で完結してしまう可能性もある。現に、多くの鉱業生産においては、そういう不満が大きい。果たして、中国企業はうまく現地の雇用を行いながら現地生産を行えるのであろうか。
私は、世銀の一番の狙いはアフリカの雇用拡大よりも、加熱した中国の輸出依存をおさえるとともに、人民元の切り上げのための圧力のひとつではないかと思っている。アフリカに中国製品の工場、それも雇用が大きい縫製工場などができることは願ってもないことだが、果たして、中国の国内事情がゆるすかというと、どうも心もとないと思うのである。
追記1:新政権が、事務次官等会議を週1回の定例とし、自民党時代同様の体制にするとの報道がありました。「真の政治主導」のために必要だ…そうです。これまでの素人政治体制への反省から生まれたものだと思います。うまく官僚を使いこなすことが私も重要だと思います。でもTVニュースで見た事務次官の面々の表情は複雑だったなあ。
追記2:本日は、多忙な中、学校を休み、妻の入院に付き添いました。今日の授業は振り替えてもらいました。私のかんでいる体育祭や文化祭の5つほどのプロジェクトの進み具合が気になるところです。明日は、特別活動部で、綱引きと棒ひきの予選会を午後やりますので、とても手術に立ち会えません。妻もその辺は心得てくれているようですが、私が一人で生きていけるのかの方が心配だそうです。明朝は、生ゴミを出す予定です。(笑)
追記3(9月9日21時45分):「アフリカのニュースと解説」のMiyaさんから丁寧な解説をいただいています。私が、Miyaさんのブログに、この件をどうお考えになりますかと問うたことへの丁寧な返信です。是非下記コメントをご覧ください。
世銀の動きについてどのように考えるか?---との質問を私のブログ記事(9/3付)のコメント欄に頂きましたが、先生の記事のコメント欄に返事を書きます。(コメントが長いと表示されないようなので3つに分けます。)
返信削除ゼーリック世銀総裁は、「これまでの中国の経済発展モデルは持続可能ではないので、構造的に変化させる必要がある」---という考えを持っています。
http://japanese.cri.cn/881/2011/09/06/161s180074.htm
http://www.worldbank.org/en/news/2011/09/02/the-big-questions-china-still-has-to-answer
Voice of Russiaの記事に「ジャスティン・リン・イフ専門家」のコメントがありましたので、彼について調べてみました。Justin Yifu Lin教授は、世界銀行上級副総裁経済開発チーフエコノミストで、北京大学に籍を置いたまま、世銀に勤務しています。中国政府のブレーンでもあり、世銀と中国政府の橋渡しの役でもあると考えられます。
返信削除彼は次のように提案しています。
http://blogs.worldbank.org/developmenttalk/how-to-seize-the-85-million-jobs-bonanza#comment-326
・中国には非熟練労働者が85百万人いるが、経済発展していくためには、労働者をより高度な付加価値をつける仕事にシフトしなければならない。賃金が上がるし、(いずれ)人民元も高くなるので、そうするしかない。
・安価な労働力は別の国・地域で調達するのが合理的であり、アフリカに工場を移せば、お互いにwin-winの関係になる。
・アフリカ全土の人口は1,000百万人。その内、製造部門の被雇用者数は10百万人である。
・もし85百万の雇用が作れるとすれば、アフリカの雇用は何倍にも増やすことができる。
ここからは私のコメントです。
返信削除・世銀総裁は、「もしも500万人の雇用を移動させることができれば、アフリカでの雇用が50%改善されることになる。」(Voice of Russiaの記事で)と発言しています。85百万人よりだいぶ小さな数字ですがそれでも50%改善するわけです。
・中国が単純労働を必要とする工場などをアフリカに移転して現地の雇用を増やすのであれば、世銀は資金的支援ををします。中国にとっては、中国のアフリカ進出の「お墨付き」をもらい、資金も確保できる。中国の指導者が世銀の提案にのるかどうか見守りたいと思います。
・ただし、中国の農村(奥地)から安い労働力が無尽蔵のごとく調達できる、と聞いたことがあります。もしそうならば、Lin教授の考えの前提とは違ってきます。
返信削除・China in Africa: The Real Story というブログもご覧下さい。
http://www.chinaafricarealstory.com/2011/09/world-bank-pushes-china-to-offshore.html
・蛇足ですが、「友人の中国人、配偶者の日本人」についてですが、アフリカのどの国(誰)が言い出したのか探したのですが見当たらなかったのです。日本語にすると、「配偶者」ではなく「パートナー」の方が適当な訳だと思います。
Miyaさん(私のリンクにある「アフリカのニュースと解説」の管理人さんです)、ご丁寧な返信コメント、ありがとうございます。スパムになったにもかかわらず、改めて分けてコメントしていただき恐縮です。非常にわかりやすい回答をいただき感謝しています。是非、このコメントも読者の方に読んでいただければと思います。ありがとうございました。
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