2025年3月7日金曜日

神なき時代の終末論 書評

「神なき時代の終末論」(佐伯啓思著:PHP新書)の書評、第9回目。本書は、第4章の後にさらに終章がある。著者は、自由の背後にある「秩序」、民主的平等の背後にある「権威」、人権の背後にある「超越的な価値」、市場経済の背後にある「非市場的な価値」(決して市場価値にさらされてはならない価値)といった伝統的な価値があるとしている。リベラルの価値は、ともすれば伝統的価値を攻撃するので、自由が暴走し放埒となり、平等はいかなる差異も認めない不平不満の集積となり、権利の要求は増長した自己利益の隠れ蓑、市場競争は格差の挙げ句に社会秩序の崩壊を導くという持論を展開している。(他にも、多くの主張があるのだがあえて割愛。)

…学生時代、朝日ジャーナルを読んでいた私でも、納得がいくロジックである。国際理解教育の徒としては、リベラルなスタンスが学会やNGOの主流であるが、個々の事例で私のスタンスは微妙に違う。リベラルであることが正義ではない、それぞれの問題において、バランスが重要だと最近考えている。

…たとえば、環境問題。西欧主導のEVなどは、ガソリン車よりCO₂の問題があるし、太陽光発電や風力発電についても無謬ではない。環境関係企業の利権も大いに問題である。SDGsの主軸である、経済成長と環境問題のバランスが重要なのであって、環境重視が普遍的な正義だとは言えないと思っている。

…異文化理解も同様である。世界的に問題化している移民問題について、是々非々の立場で考えたい。先進国で移民が増えることは少子高齢化の中で必要だという主張に同意したとしても、受け入れる側も、移民側も、異文化的相違を十分理解しなければ大きな軋轢を生む。何より重要なのは言語能力である。(特に日本語能力は難しい言語であり、この習熟が必須だと思われる。日本語理解なくしては日本の文化・四層構造や根源感情を理解できない。)移民を受けいること自体が正義ではない。自文化の崩壊を招くような受け入れは、埼玉の事例が示すように、大きな禍根を残すことになる。

…人権問題も是々非々である。日本の集団主義が絶対的正義だとは言わないが、バランスが重要であると思う。平和問題も然り。現況の情勢を鑑みれば、国是の平和主義も、足枷になっている側面もある。要はバランスなのである。

…国会で、夫婦別姓問題が論議されている。なぜこのような論議が重視されるのかわからない。結局のところ、奈良県知事のように住民票を黒塗りするだけでは飽き足らず、戸籍自体を抹消して本来の国籍を隠したい議員がいるのではないか。国民が審議してほしいのは、減税策であり、インフレ抑制、生活の向上なのだが、政治家は北京やソウルを向いて仕事をしているように見える。私立も含めた全高校の無償化も笑止。中国からの留学生を入学させる高校への援助であるという。大阪の浪速区や西成区では、中国姓の住居が爆発的に増えている。大阪の維新などは、まさに日本を売りに出して利権を得ようとしている。中国人ビザ延長問題も、日本での高額医療を受けやすくするためで、国民健康保険にも簡単に加入できるそうだ。高額の最新医療を受けて、帰国で費用を払わず、その費用は日本人の血税で賄われるという。こんな状況下で、国際理解教育の異文化理解を安易に進めることはできない。

…本書第3章では、ユダヤ的資本主義の話が出てきたが、多くの国で労働者の給与所得が増えないのは、結局のところ企業の利益の多くを株主に配当しているからという、実に単純な話である。企業は競争の激しい金融市場で投資を得るために配当を高くする。普通でも剰余価値説(マルクス経済学の核心)で搾取されているのに、まさに資本を持つ者と持たざる者の格差を拡大し続けているわけである。リベラル派は、何よりこの核心をつくべきであろう、と思ったりしたのである。

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