2025年3月2日日曜日

神なき時代の終末論 第3章(1)

「神なき時代の終末論」(佐伯啓思著:PHP新書)の書評、第4回目。第3章の前編である。第3章は、最初にアメリカの政治ならびにウクライナ紛争について、かなり長く綴られている。ここは割愛するとして、著者の言う、「歴史の四層構造」について記しておこうと思う。

著者はフロイドとユングの深層心理の理論は、世界や歴史にもヒントを与えてくれるとし、世界を作っているのが人間である以上、この意識の四層が作用しないというとい方がおかしいとしている。

(1)最も表層にあるのは、ある種の理念や思想、何らかの高い価値などで、自由・民主主義の勝利や、マルクスの唯物史観、国連の理想である世界のすべての人間が平等で平和に暮らせる世界像など。

(2)次の中層にあるのは、現実的なあり方で、個人で言えば自己利益や生存の確保、仲間との信頼関係、国家の場合は国益、勢力圏、生存圏、同盟関係や敵対関係、戦争や紛争などである。

(3)その下の深層にあるのは、ほとんど無意識に人々の思考様式に型を与える文化であり、歴史的経験である。宗教的なものが大きな意味をもつのは、さしあたりこの層である。

(4)その下の最下層の基盤にあるのは、和辻哲郎的な「風土的基層」であり、著者はこれを重視している、と述べている。

この後、ネオコンや、ドイツの経済史家・ヴエルナー・ゾンバルトのいささか極端な論争的主張である「プロテスタントはユダヤ人である」について述べられている。米国に渡ったプロテスタントの多くが16世紀にカトリックのスペインに追われてヨーロッパ各地に転在したユダヤ人の改宗者(コンベルソや、蔑称のマラーノと呼ばれた人々)である可能性は十分ある、アメリカにおけるユダヤ教徒プロテスタントの宗教的な基底にはかなり重なりがあるのだろう、と著者は記している。

この章の前半部の最後に、著者はアメリカのリベラル的価値の世俗的表現というアメリカの歴史的使命を背後で支えるのは、「ユダヤ・キリスト教のメシアイズム」であるし、「深層」レベルで、アメリカを突き動かす、宗教的意識につながるような何かがある、と結んでいる。

…この歴史の四階層という考え方は実に興味深いと私は思う。日本という国家で見れば、表層的には平和主義という国是、中層にあるのは、国益と他国の国益の止揚とも見れるリベラリズム(ともすれば裏切られるが、政府は遺憾としか言わない。笑)、深層にあるのは、自己と他者の間柄的存在(和辻哲郎)を最重要視する集団主義と朱子学的な自己理解と実践、最下層にあるのは、稲作が可能な明瞭な四季をもつ気候と恩恵と災い両面を持つ自然環境(和辻哲郎で言えば、モンスーン型)との調和であるといえるだろう。やっぱりに、日本思想の中では和辻哲郎が最強のように思う。

…ところで、この四階層、地理総合の授業でも使えそうだ。

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