廣岡正久は、「ロシア正教の千年」の中で、ビザンチン帝国の滅亡によって精神的孤立に陥ったロシアの不安と、ビザンチン帝国の正当な後継者をもって任じたロシアの自負心とが交錯した、複雑な心理状態を指摘している。また三浦清美の「ロシアの思考回路」には、人は深い信仰を持ち、最大限の努力をして神に近づくことができるという「テオーシス(神成)」という概念が正教会で重視されたとしている。この一種の宗教的超人思想が、正教会と皇帝権力を結びつけ、徹底した政治と宗教の一体化を生んだようだ。
ロシアの宗教精神は、言語の問題(スラブ語訳の聖書)、皇帝権力との結びつきからくるナショナリズムの表出、大地・自然と魂の一体感故の神秘性といった理由から生まれ、ロシア人をして極めて宗教的な民族にしている。当然、終末論的な世界観を持ち、神の恩寵を広めるべく西欧の大航海時代と時を同じくして、シベリア獲得に乗り出している。
一方で、ロシア革命で訴えられた「万国の労働者よ団結せよ」という言葉には、啓蒙思想の一流派といより、メシア的終末論的響きを持っている、一見無神論的な装いをまとっているが、その根底には終末論的・黙示論的な狂気の熱狂があると著者は記している。
ロシアにとっては、西欧の(非西欧にとっては特殊な)政教分離や主権国家や国際法や自由・民主主義などよりも、自らの勢力圏を維持して、己の文化の核にある神聖を守り、強力な世俗権力によってロシアの力を再興することの方が重要だといえるのである。
…本日のブログの最後の段落こそがロシア理解の鍵である。西欧の影響下にある日本を含めた多くの国にとって、このロシアの思考回路を理解するのは難しい。よって、ウクライナ側に立つことになるのだが、それが正義と言い切れないところに、今回の問題があると私は思う。ウクライナ問題については、もう少し静観したいと思うのだった。
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