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まずは、最も専門の倫理である。倫理は高校で初めて学ぶ教科であり、うまくリードしないと何を学んでいるのかがわからないままに流れていく。私はまず、昔々清水書院の教科書の巻末に合った「3つのコンフリクト」について教える。コンフリクトというのは、日本語に直すと「葛藤」になるが、人類はこれまで、自然、社会、自己自身について考えてきた。これは、自然科学、社会科学、人文学に繋がる思想遍歴でもある。倫理では、様々な哲学者の様々な思想を取り扱うが、およそこの3つのカテゴリーで分類できる。
ギリシア哲学の最初のミレトス学派は自然哲学と呼ばれ、世界のアルケー(根源)を探し求める。自然とのコンフリクトである。ギリシアの三大哲学者、ソクラテス、プラトン、アリストテレスもこの3つのコンフリクトで括ってみるとわかりやすい。著作を残さなかったソクラテスは、自然については何も述べていない。社会については「悪法も法なり」と述べている。善く生きる事(知徳合一や福徳合一)は自己自身とのコンフリクトにあてはまる。プラトンは、師ソクラテスの説かなかった自然とのコンフリクトについては、イデア論を、社会とのコンフリクトでは哲人政治を、自己自身とのコンフリクトでは、四元徳を説いている。師プラトンより真理を愛すると言ったアリストテレスは、もっと現実的な思想の展開を行う。自然については、アルケーとして、ピタゴラス学派・プラトンの系譜を継ぐ形相と、ミレトス学派以来の系譜を継ぐ質量を説いた。社会については、ポリス優先、友愛の重要性と配分的正義と調整的正義を説き、自己自身では、中庸を認識する知性的徳とそれを習慣づける習性的徳を説いた。
ギリシア哲学を教えた後の定期考査では、この三者の思想を3つのコンフリクトの表で整理させたうえで出題してきた。以後はこの3つのコンフリクトをあまり表に出さないのだが、例えば、社会契約説のホッブズ・ロック・ルソーなどは社会とのコンフリクトであるし、イギリス経験論や大陸合理論などで問題となる認識の問題は、自然とのコンフリクトであると考えた方が良い。実存主義などは、極めて自己自身とのコンフリクトである。
もちろん、この3つのコンフリクトは、集合のベン図のように重なり合っているといったほうがいい。あくまで、ひとつの視点なのだが、哲学者の思想をわかりやすくすることは間違いないと思う。この視点を提供してくれた清水書院は哲学者の「人と思想シリーズ」などでもお世話になった。倫理に関しては、清水書院を私は最も贔屓している。(ちなみに、歴史は山川、地理は帝国などと社会科業界では言われている。)
こんな感じで、少しずつ「秘伝」というタイトルで記しておこうと思う。おそらく多くの読者と無関係かもしれないが…。
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