このところ、いろいろな本を読み終えたのだけれど、書評を書けずにいる。北朝鮮情勢のことが気になって、エントリーをすることが増えたからのような気がしている。とはいえ少し小康状態のようで、米政府もちょっと落ち着いた気配だし、北の核実験場で、またバレーボール大会が始まったらしい。このままずっとバレーボールをしていて欲しいものだと思っている。
と、いうわけで、今朝読み終えた「世紀の空売り」(マイケル・ルイス著・文春文庫/2013年3月発行)の書評をエントリーしようと思う。私の流儀からして、読んでから少し思索してから書評を書くのだが、このノンフィクションは最後の最後に、著者の思い・結論がはっきりと記されている。それが、私の胸にぐさりとささったが故に、早く書きたい、と思ったのだ。
このノンフィクションは、リーマン・ショック以前に、サブプライムローンのモーゲージ債という金融商品の欺瞞性に気づき、金融市場の崩壊に大金を賭けた幾人かの投資家に光を当てながら、多分に個人的な事柄も交えて時系列的にその場の状況を見事に伝えている。
今日の書評第一回としては、2008年の金融危機、いわゆるリーマンショックの元となったサブプライムローンのモーゲージ債について、少し解説しておく必要がある。私は、これまで授業で、家を買えないような低所得の人々に、最初はとびきり安い金利でローンを組み、2年後から高い金利になるので、その家を売り、また新しいローンを組むといったサブプライムローンの仕組みをまず教えてきた。そのローンを債権に替え、正月に売り出される福袋みたいに、様々な価値の債権を組み合わせ販売したと教えてきた。高校生に対しては、複雑な金融商品故にこの程度の説明で十分だと思うのだが、ポイントは「格付け」である。福袋の中身は、価値は10円にもならない程度のモノに、100万円、1000万円という値札がついているわけだ。それを「福袋」としてありがたそうに売っていたというわけだ。
この本の中で、その不可解な原理が幾分詳しく書かれている。その金融商品(モーゲージ債)が焦げ付く(支払い不可能になる)リスクの可能性を踏まえて、格付け会社がトリプルAとかBとか認定するわけだが、普通の感覚では、格付け会社の方が商品を売っている投資銀行より権威があるはずである。それが全くの逆で、投資銀行のいうがまま格付けしていたのであった。まあ、詐欺に極めて近い。
しかも格付け会社、もっと言えばこのモーゲージ債を売っていた投資銀行もこの商品の意味や危険性をほとんどの人間が感じていなかった、というよりこの金融商品自体がどういうものか、全くわかっていなかったのに売っていたし、買った方もわかっていなかったという信じられない話が続く。ウォール街というのは、そういう馬鹿でも超高給を得ることが可能だったという摩訶不思議な世界だったことが延々綴られている。
この欺瞞を見抜けた人間もいる。それが超正統派出身のユダヤ人だが、金融の世界に身を投じたA氏、医者でありながら金融問題ににアスペルガー症特有の集中力を働かせ、トレーダーとなったV氏、金融業界に義憤を感じ、徹底的にこれを調べた若い投資家グループなどである。それ以外の業界人は、ほとんどみんな「ウォールストリートの神話」を疑うことはなかった。この辺が恐ろしい。ある意味、この本は事実を元にした「怪談」である。(つづく)
2017年5月4日木曜日
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