2013年3月30日土曜日

モザンビークの護民官

大阪梅田の関学・梅田キャンパスで行われた東京外大の舩田クラーセンさやか先生の討論会に参加してきた。タイトルは「日本の援助はいまアフリカで何をしているのか?プロサバンナ事業から考えるODA」である。舩田先生のブログ(アフリカ教育関連情報:リンク参照)はいつも拝見しているので、どんな方か実際にお会いするのを楽しみにしていた。予想を上回るパワフルで明晰な方だった。パワーポイントを使い解説していただいたが、実にわかりやすい。講演会ではないので、参加者とのやりとりを随所に入れながら、モザンビークで行われようとしているプロサバンナ事業について詳しく教えていただいた。その内容はかなりレベルが高かったが、ありがたいことに私にも十分理解が出来た。

モザンビークのプロサバンナ事業とは、日本がJICAの国際協力でブラジルのセラードで成功した農業開発を、よく似た地域であるモザンビーク北部でも行おうとする南南(途上国が途上国に協力する)プロジェクトである。

舩田先生のスタンスは、研究者として、そして声を上げられない人々の立場に立つ市民運動家の二つ。今回のモザンビークの事業については、先生は、まず研究者として学術的に分析されたうえで、次に事業反対の行動(NGOの代表として、日本・ブラジル・モザンビークの市民ネットワークをつくり、情報を共有しつつ、各国政府の議員や官僚、関係者に働きかける)に出ておられることを知った。舩田先生は、批判のための批判をするような方ではないのだ。学術的にこの事業の推移について詳細な調査(議事録・プレスリリース・インタヴュー・現地調査)をされている。そこで導かれた結論というのは、ものすごく簡潔に述べると以下のようなものである。

ブラジルでJICAが農業開発した「不毛の地」セラードと、モザンビークの北部は、共に森林サバンナであるが、モザンビーク北部は、小農が中心の、人口が多い(すなわち農業生産が盛んな)、豊かな土地なのである。彼らは、これまでにも綿花のプランテーション化を、種を煮るという手段で、2年間不作にしてまで頑張り、自分たちの土地を守った歴史をもっている。要するに、このような農業開発は、彼らにとって全く必要ないのである。

実は、今世界的に、土地や水の新たな争奪戦が起こっている。アフリカにも、土地を買収する動きが起こっている。このプロジェクトはその大きな流れの中にある。また、すでにそういう事実がわかっていながら、ブラジルがこのプロジェクトを進める理由、日本政府が進める理由についても詳細に語っていただいた。

舩田先生は、そもそもブラジルに留学されておられ、日系移民について研究されていた。しかもその留学の地が、セラードの地であり、現在の研究の対象であるモザンビーク(同じポルトガル語圏)だということで、今回のプロジェクトに疑問を抱かれたのだという。
舩田先生は、何度も「アドボカシー(Advocacy)」という言葉を使われた。ローマの護民官の名称から、「権利を巡る調整の活動」を意味するらしい。舩田先生は、モザンビークの護民官たらんと戦っておられるのだった。最終的には現地の人々の判断にゆだねるとのこと。大いに納得した次第。

ところで、この討論会、今まで参加した京大の公開講座や公開講演会、NGOの講演会とは全く雰囲気が違った。(反権力の)市民団体の研究会という感じだったのだ。私は、舩田先生の主張は正しいと思うし、批判のための批判ではない、行動力も素晴らしいと思う。だが、公立高校の社会科教師としては、これをストレートに生徒に伝えることには少なからず抵抗がある。様々な立場、見解をできるだけ正確に伝え、考えさせたい。そう思うのだ。今日、同席した旧知の(8校合同仮想世界ゲームに参加いただいた)府立高校のK先生ともそんな話をしていたのだった。今、検討中のアクティビティでも、最後の最後に、開発の影に潜むこういう問題について語ろうかと思う次第。なお、今回の舩田先生のパワーポイントの内容は全て公開されている。(この事実も凄い。)興味のある方は是非。
http://afriqclass.exblog.jp/17362546

舩田先生、貴重なお話ありがとうございました。「共感は国境を越える。」という言葉は胸に突き刺さりました。また関係の皆さま、ありがとうございました。大いに勉強になりました。

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