寒ツバキと京大稲森財団記念館 |
この「紛争解決のためにアフリカの潜在力を活用する」と銘打った公開講演会、京大アフリカ地域研究資料センターが日本学術研究会の研究補助費を受けて行っている「アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生に関する総合的地域研究」という基礎研究の一環で、今日はその代表者である太田至先生が進行されていた。(昨年9月15日付ブログ参照)
アフリカの潜在力。太田先生は、京大の先生方は誰しも実感としてもっているのだが…と趣旨説明述べられた。この問題に、日本を代表するアフリカ通のジャーナリスト、松本仁一氏がどう語るかが楽しみで、私としては珍しく前から二列目の席に座ったのだった。
「アフリカには紛争解決能力があるのか」松本氏は、まずYesと答えたのだ。その例として、ソマリランドの長老による武装解除を挙げられた。少し解説がいる。アフリカの角、ソマリアはアフリカでも珍しいソマリ人の単一民族国家であるが、紅海に面した旧英国領ソマリランドと、フランス領だったジブチ、インド洋に面した旧イタリア領ソマリアに分けて見ることができる。バーレ大統領の時代、ソ連に軍港を提供する見返りに大量の武器(特にカラシニコフ)を得たのだが、先進国の行うような武器管理は皆無の状況下で政府は崩壊、武器が大流出してしまう。これによって、武器を行使することであらゆる事が利権となった。空港の離発着料、入国、市場への出店、バスの乗車…。これを見かねたボロマ地区の長老が呼びかけクラン(氏族)ごとの対立を乗り越えようと和平会議が行われ82人の長老がボロマ宣言を出す。民兵5万人のうち、軍1万、警察5千、刑務官5千には銃を管理して与え、残りの3万丁をUNDPの協力で武装解除したのだ。10年くらいかかったが、まさに、紛争解決能力だと言える事例である。
しかし、これは単一民族故に成功した事例でしかない、と松本氏は見る。たとえばケニアではキクユ人(注:ケニア最大の人口比をもつ。)同士なら長老の話し合いで紛争解決もありえるが、ルオーとの紛争ならそれはありえない。(注:前回の大統領選挙後の紛争を見ればわかる。)ジンバブエは、人口の70%を占めるショナ人の利益代表としてムガベ(注:失敗国家にした大統領)がンデベレ人を抑えているという構図のままだ。アフリカには、パトロン=クライアント関係が、各エスニックグループの有力者と構成メンバー間にあり、ここで利益が還元されることもある(注:情の経済)。だから、アフリカでは、エスニックグループ主体の生業の構図が再生産され、エスニックグループ間で紛争となった時の解決は難しい。多文化共生が当たり前のアフリカでは、エスニックグループのそういう構図を崩す方が良いのではないかと、松本氏は考えておられる。
イギリスは植民地経営では、エスニックグループという出自より個人の能力を評価した。こういう視点が今いい方向に向かっている例がある。南アのトヨタ(現地企業)はアルチザン形式という個人の能力重視で昇進するシステムを構築し成功した。モザンビークでも、南ア資本と英日資本でアルミ精錬の会社が同様のシステムを採用し成功している。要はちゃんと働き、賃金を獲得できればアフリカの人々も幸福をつかめるのである。これらの会社は多くの雇用を創出し、1人あたりの雇用は8人の扶養を可能にしている。
松本氏は、長期的な視点から、南アを中心とした資本がモザンビークやタンザニアなどに投資し、きちんと訓練された労働力を雇用創造することが、紛争解決の手段としては有効だとされたのである。このような資本蓄積と生産性の向上にいち早く成功したボツワナは、日本政府のODA対象から飛翔した。ジンバブエにはORAP(オラップ)というNGOがあるそうだ。「人に頼るな。頑張ればやれる。」というスタンスで、村を周り、最初はホースに小さな穴をあけただけの点滴灌漑を教え青菜の種を渡す。出来た頃仲買人を連れていき、皆の前で収穫への報酬を与えるのだという。この成果に我も我もと手をあげる村人には、種を与える。生産性が上がれば仲買人は勝手に村を回るようになる。やがて生産性の高い農村が増えるという。
エスニックグループから個人の豊かさ追求へ。結局のところ、アフリカが出来るものから豊かになることだと松本氏は言われたのだ。なお、旧英領ソマリランドの武装解除の成功に比して、旧イタリア領のソマリアの紛争をどう見るか?という私の問いかけに松本氏は、ソマリアの方が圧倒的に銃の数が多かったこと、さらに利権となるものが多かったことを挙げられた。(このことは長年私の中では謎だった。)「天然資源の罠と紛争の罠がリンクしたというポール・コリア的な見方でいいのでしょうか。」と聞くとYesという回答だった。松本氏の考えは、ポール・コリアとダンヒサ・モヨの発想を是とされているようだ。アフリカの開発という問題について、私の考えは松本氏に近いと言えるだろう。
休憩時間に少しだけ御挨拶させていただいた。名刺までいただいた。いやあ、感激である。先週は水曜日をピークに、不愉快なことが多かった。それを一気に吹き飛ばした素晴らしい1日だったわけだ。関係各位に感謝申し上げたい。
(エチオピアのインティソ・D・ゲブレ先生の講演については明日エントリーしたいと思う。)
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