2012年1月21日土曜日

京大アフリカ研'12公開講座1月

1月の雨中 京大稲森財団記念館
いよいよ京大アフリカ地域研究資料センター公開講座『出会う』シリーズが始まった。あいにくの雨だったが、第1回目の講座は、センター長の重田眞義先生の講義ということもあって、なかなか盛況だった。今日のテーマは『不思議な植物エンセ―テに出会う』…エチオピアの南部の高地(標高1600m、降水量は1600mmほどと言っておられた。)で栽培されているバナナに近い植物エンセ―テの紹介と、それにまつわる食文化の話だった。

重田先生は、センター長として、最初に今回の『出会う』シリーズの紹介をしてくださった。『出会う』という今回のテーマは、公開講座のアンケートで、研究者の先生方が何故アフリカを研究しようとしたのか?という質問が多く、それに答えよう、さらに研究の対象との出会いも語ろう、そして受講者との出会いを大切にしたいという、3つのスタンスから導き出されたとのこと。そりゃあ、そうだよなあと私も思った。私でさえ「アフリカが好きで、開発経済学を学んでいる。」と言うと、だいたいの人が、「なぜ、アフリカ?」と聞かれる。(笑)重田先生の場合は、京大の農学部の学生時代、1978年に探検部でスーダンに行かれたことがきっかけだとか。雑穀の食文化に興味を持ちナイロビ大学へ留学された。修士課程で雑穀というアフリカでもマイナーな研究をされていたという。重田先生は、アフリカの食文化が大変お好きなようで、「好物」という発言が何度も飛び出した。(笑)
Ensete
さてさて、エンセ―テである。エンセ―テは、遺伝子からみてもバショウ科で最もバナナに近い植物である。「この辺は最先端の学問的な話です。」と重田先生。(笑)だが、大きな違いがあるそうだ。バナナは、種がなく、脇芽で増やすのだが、エンセ―テは種をつくる。つまり、長い時間(2~3年、数年の時もあるそうだ。)をかけて、花(馬鹿でかい。画像によると直径50cm長さ1mほどもある。)をつくり、1.5cmほどもある種で増えるという。エンセ―テは、バナナのような実をつくらず、イモにデンプン質が多く食用になる。葉も繊維質が優れていて良い材料となる有用な植物である。

ここからが面白いのだが、重田先生が調査したアリの人々は、この有用なエンセ―テを種で増やさない。イモを半分に切り、成長点の部分を切り取り、埋めておくと眠っていた芽が出てくるのだそうだ。(凄い発見なのだが、誰がいつ、こんなことを発見したかわからないらしい。)すると、様々な”品種”が生まれる。イモに甘みがあるエンセーテ。葉の色が違うエンセーテ。これは本当に違う”品種”なのか。農学者は、それを確認することになるそうだ。これを、重田先生は、「農学者の後講釈」と笑い飛ばされた。現地の農民が、「これは新品種だ。」というものは遺伝子で確認してもかならずそうなるそうだ。地域で、イモから増やされたエンセ―テはどんどん新品種が生まれるらしい。一方で、森にも野生のエンセ―テが生えている。これには、農民は儀礼的に入らない保護区のような存在であるらしい。村には、栽培されているイモから増やすエンセ―テと、近くの森に野生の種で増えるエンセ―テが共存しているのだ。これをコウモリなどが、行き来して送粉しているらしい。(重田先生は、こういう調査結果をもとにした博士論文を書かれたとか…。)

さて、このエンセーテ、食用のデンプンとしてかなり有用である。直径40cmを超えるエンセ―テを1本倒すと、一家4人が20日間養えるらしい。単純計算すると、1年で18本。生育にかかる年数を考慮すると、異なる生育段階のエンテーセが90本~100本あれば十分となるそうだ。連作も可能で、つまり肥料依頼性が低く、虫もつかない。ちょっとタンパク質が少ないが、そのまま食べたり、イモをつぶして葉にまいて発酵させたり、焼いたり他の香味野菜とともに蒸したりと、食のバリエーションは豊かだという。しかも調査地のアリ人々は、トウモロコシや牧畜製品なども食し、「毎日同じものなど食べれるか。」と言うらしい。実に豊かな食文化である。…私の中で、エチオピアのイメージが大きく変わった。

今日の公開講座、意外な展開があった。エチオピアの食文化といえば、インジェラである。イネ科のテフという穀物を粉にして発酵させたものを50cmくらいの鍋で、片面焼きしたものである。これが、講座終了後、参加者に振る舞われたのである。1人ずつロール巻きにして、ドロ・ワットと呼ばれるチキンのすり身と唐辛子を混ぜ合わせたオカズ、そしてコチョと呼ばれるエンセーテのデンプンを葉で巻いて焼いたものを合わせて出していただいた。みんなで食す大きな皿のものも作っていただいて感激である。お箸も用意されていたが、もちろん私は右手だけで、ちぎって食べさせてもらった。アフリカ料理は手で食べる方が絶対おいしい。

ところで、重田先生は自分の研究も含めて、アフリカの地域研究は、何の役にたつのだろうか、ということを深く考えておられるようだ。以前にも紹介した(昨年9月18日付ブログ参照)が、京大のアフリカ地域研究資料センターは、研究と開発、あるいは実践について模索している。その所長の言として「我々はアフリカ人の役に立っていないと最近は思っている。」とおっしゃった。

だが、エンセ―テが多品種ゆえに、その多くの品種を保存しておきたいと、エンセ―テの研究センターを現地で作っておられるとのこと。最初、村人に「エンセ―テの株をタダでください。」と言いつつ、記念写真を撮ってプリントしてあげるという方法で半年で300株くらいを集めたそうだ。(笑)最近は、そこから「こういう品種はないか。」と村人から言われてわけることもあるという。
村の周囲に広がる村人のエンセ―テ畑。野生の保護区。そして第3の日本の研究者が創立した多品種保存ためのエンセーテ・センターが存在するのだ。これは十分に、アリの人々に大きく貢献しているのではないだろうか、と思った次第。重田先生は、レジュメに「後講釈のすすめ」と書かれていながら、「後講釈はあまり意味がない。」と何度か言われた。重田先生の研究は、決して「後講釈」ではないと思った次第。

大満足の第1回公開講座でした。重田先生、スタッフの皆さん、インジェラを焼いてくれた研究者の皆さん、本当にありがとうございました。購入したエチオピア歴のカレンダーは、4月から新1年生の教室に貼りたいと思っています。

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