2025年4月18日金曜日

経済で読み解く現代史4

https://shop.zakkaya-poppo.jp/products/
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第21回目でいよいよ最終回。アメリカの軍産複合体についてである。 

WWⅡ後、アメリカはソ連の脅威に対抗するため、国家安全保証法により、国家安全保障会議(NSC)、国防総省、CIAを設立し、軍事・諜報機関の関連予算を引き上げる。1950年、国家安全保障会議は、NSC-68という文書で軍事力を緊急に増強する必要性を強調した。具体的には、軍事支出の水準を従来の4倍に引き上げ、議会の予算総額の1/3に抑えるという協定の破棄を求めるものだった。軍拡の財源は、低金利政策と物価安定を維持するために、国債発行を避け、非軍事政府支出の削減(GDPの比5.4%に)と増税(所得税はGDPの比1.32%に)で賄う方針を立てたのだが、問題は国民への説得だった。トルーマンは慎重に大統領経済諮問委員会に調査させる。ケインズ派の経済学者は、軍拡の有効需要による景気刺激効果を、また原爆・水爆の核爆弾製造は安価に大量生産が可能で効率的戦力整備である点も主張されていた。そこに朝鮮戦争が起こり、NSC-68は全面採用されたのだった。

1951年度の国防予算は$482億に膨れ上がった。統合参謀本部は$823億を要求したが、議会は$555億で承認、アメリカは、軍拡路線に急激に舵を切る。冷戦期のアメリカにおいては、軍拡路線の税負担は一般国民にスムーズに受け入れられた。WWⅡ以降、軍需物資の生産が鉱工業生産全体の大きなシェアを占める産業構造になっており、軍事産業に関わる膨大な数の労働者はそれを強く望んだ。1951年の軍拡まで軍需関係労働者の労働運動は活発化し、1400万人の労働組合となり年間500万人規模のストライキを展開していた。軍拡により雇用が安定し、民需産業より20~30%程度高い賃金を得られた労働組合は強力になっていった。アメリカ社会で巨大な権益を形成していたのである。

本来なら持続不可能な軍拡=財政政策であったが、高度経済成長により維持されたのである。「アメリカに必要なものは永遠に続く戦争である。」という大統領経済諮問委員会のウィルソンの言葉は、端的に内実を表していたのである。

1961年アイゼンハワー(画像は大統領選時の缶バッチ)は、大統領退任演説で肥大化する軍需産業を「軍産複合体」と呼び警告を発した。WWⅡのノルマンディー上陸作戦の英雄故に、実に重い言である。典型的な軍産複合体は、ロッキード社とボーイング社(航空機)、ノースロップ・グラマン社(軍艦・人工衛星)、レイセオン社(ミサイル)、ダウケミカル社とデュポン社(化学)、GE、ハリバートン社(資源生産設備)、ベクテル社(ゼネコン)、ディロンリード社(軍事商社)と言われ、石油メジャー(スタンダード石油系)なども含まれる。

アメリカは、現在もなお平常時も恒常的な戦時体制に匹敵する国防費を支出しており、アイゼンハワーの警告は、活かされているとは言い難いのである。

2025年4月17日木曜日

経済で読み解く現代史3

「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第20回目。今回は、WWⅠ後のドイツ経済。ハイパーインフレの真実と財政の魔術師・シャハトについてである。 

WWⅠは総力戦で莫大な戦費が投入された。それ故敗戦国ドイツに天文学的な賠償金が課せられ、フランスとベルギーがドイツの心臓部ルール工業地帯占領という無茶をやったので、頭にきたドイツ政府は、賠償金のために膨大な紙幣増刷に走り、ハイパーインフレとなった、と今まで授業で教えてきた。これは一般的な解説である。しかし、その内実は違うと本書は教えている。

なにより、賠償金の支払いは、(金本位制下故に)金での支払い、あるいはそれに見合うドルやポンドの支払い限定であったからである。…目からウロコである。

このライヒスバンクの紙幣増刷は人為的なものであったらしい。中央銀行でありながら、市中銀行と同じく、融資を積極的に行っており、インフレが激しく進行することを政府筋から掴んでいた一部の担保力のある借り手が、ライヒスバンクや市中銀行から融資を受け、土地・設備なの資産を買い入れ、一定の時期が過ぎれば貸付金は、実質価値が下がり、貸付返済は軽くなり、結果的に資産を安く買い入れることができる。インフレがさらに進めば、購入した資産を担保にさらに大きな融資を受け、さらに資産買いに当てるという行動を際限なく繰り返し、保有資産を増大させることが可能になる。このようなオペレーションをとることを前提にした人為的な誘導であったと著者は考えており、誰が、あるいはどんな組織が得をしたのかを特定することは困難だが、担保力のある大資本、あるいは政府関係筋ではないか。結局中産階級を中心とした現金資産保有者は大損したわけである。

さて、1923年シャハト(本日の画像は彼を描いたコミック表紙)が新たな中央銀行総裁となる。彼が主導したレンテンマルクはドイツの土地不動産という実体により保証されたもので、その資産価値を超える通貨の発行(33億レンテンマルク)、国債引受高(12億レンテンマルク)を認めないとした。それまでのマルクとの交換レートは1:1兆で、単なるデノミネーションではなかった。これにより信用を生みインフレは収束した。

1924年にアメリカのドーズによりドイツ経済再建のためのドル資本の注入が行われ、ドルとレンテンマルクをペッグさせ安定させるため、臨時的に発行されたレンテンマルクは恒久的なライヒスマルクに転換、ドイツの通貨が保証された。実際ドイツ経済は回復したのだが、1929年の世界大恐慌で、アメリカ資本が撤退、ドイツはデフォルトに陥る。

ナチが台頭し、ケインズ的な有効需要政策(アウトバーン)や再軍備などで劇的に失業率を下げ、ナチ直属の労働組合に賃金の分配を監視させ公共事業の恩恵を労働者に行き渡らせもした。また食糧価格安定法で物価を統制した。

これらの公共事業の巨大な財源を赤字国債にたよるとインフレ化が必定。そこでシャハトが経済相とライヒスバンク総裁として起用される。シャハトは、ダミー会社のメフォ(MEFO:有限会社冶金研究協会)という政府外郭団体の金属調査会社を設立し、メフォに兵器発注を行わせ、メフォはその支払を手形で行った。この手形をライヒスバンクが保証、手形の償還期限は3ヶ月だが、最大5年まで延長可能として、膨大な手形を発行、事実上政府の資金借り入れの窓口とした。政府はメフォ手形により、国債発行、それを引き受けるための通貨増発をしなくて済み、インフレを回避したのである。シャハトは、このメフォの実態を機密扱いにして、財政に対する社会不安を紛らわし、インフレなしの財政出動を可能にしたのだった。財政の魔術師と言われた所以である。

ところが、メフォ手形によって得た巨額の借金はいずれ返済しなければならない。シャハトは、際限なく発行される手形に制限を加えるように集中王したが、ナチの軍拡路線は止まらず、赤字国債の発行も大規模に行いだした。ナチ支援企業がこの赤字国債を無制限に引き受け、それらを偽計的特別会計に国購入費を計上して欠損を隠していた。1938年、いよいよメフォ手形の5年の返済期限になった時、ナチはその対策に追われ、ライヒスバンクは27億ライヒスマルクの紙幣増刷を行う。シャハトはこれ以上の赤字国債発行は危険だと抗議文を出したが、解任された。

1939年以降、財政に窮したナチは、侵略によって他国の財産強奪して借金返済に当てる以外に方法がなくなったのである。

…私はこの辺の歴史には詳しいと自負していたが、またもや自己の見識の浅さに打ちひしがれてしまった。本書の価値は極めて高い。

2025年4月16日水曜日

経済で読み解く現代史2

https://www.klook.com/ja/activity/25008-las-vegas-hoover-dam-tour-los-angeles/
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第19回目。今回は、世界大恐慌とNewDeal政策の効果についてである。 

以前から、世界大恐慌におけるアメリカのNewDeal 政策が、ケインズ経済学を取り入れ、有効需要を国家主導で行ったこと、これが分岐点となって、戦後、サッチャリズムやレーガノミクスといった新自由主義が登場するまで主流となってきた、と授業で説いてきた。ただ、実際にはアメリカは、WWⅡに参戦してやっと経済が復興できたことも教えてきた。今回は、その内実に迫る内容である。

まず、NewDeal 政策の6つの要素を整理すると、①生産統制:AAA(農業調整法)・NIRA(全国産業復興法)②金融緩和:金本位制停止と貨幣供給増大③財政出動:TVA(テネシー川流域開発公社のダム建設)④労働者保護:ワグナー法(労働組合法)⑤高関税政策:ドルブロック(輸入遮断)⑥銀行規制:グラス・スティーガル法(銀行の証券業務事業禁止)となる。

大恐慌発生時のフーヴァー大統領は、財政出動せず、FRBも金利水準を維持し、金融緩和も行わなかった(=金本位製の維持・ドルの供給増を行わなかった)ので、無為無策と評されているが、当時の国際協調最優先にしたわけで、世界経済の秩序は守られたが、アメリカ経済は悪化の一途をたどった。ここは議論の分かれるところである。

さて、ケインズの有効需要理論は、上記の③に当たるわけだが、1932年のフーヴァー政権での政府支出はGDP比8.0%、1936年のルーズヴェルト政権では10.2%で、僅か2%強しか増加していない。赤字国債も1932年がGDP比33.6%から36年は40.9%の増加幅に留まっている。実際にはその規模は抑制されたものであったわけである。

一方、金本位制を停止し、通貨発行の自由裁量権を得たものの1929年当時に戻したくらいで、供給ペースは緩慢であり、民間の貸出、市場への資金供給も進んではいなかった。マネーサプライも財政出動の使途分が増加した程度であったようだ。よって、NewDeal 政策は財政政策としても、金融政策としてもほとんど効果はなく、政策開始の1年前の、景気が底打ちした1933年から自律的に景気回復局面に入った故に、アメリカ経済はマシになっていったと言われている。いずれにしろ根本的に景気回復軌道に乗るのは、1939年のアメリカのWWⅡ参戦による戦時需要にあったのは間違いない。

…本書では、NewDeal 政策はボロくそである。(笑)まあ、様々な議論があるところで、評価も様々である。実に社会科学らしい話である。

…フーヴァーといえば、CAとNVの州境コロラド川にかかるフーヴァーダム(画像参照)を思い出す。ラスベガスに向かう際に通過した有名なダムである。このダムは1931年から36年の大恐慌中に建設されたもの。また、WI州のミルウォーキーで、キングという高校を視察した際、その高校はNewDeal 政策の時に建設されたと聞いた。TVA以外にもそういう公共投資・有効需要はあったにちがいないが、統計上は決して歴史に燦然と輝く政策…というほどではないようだ。

2025年4月15日火曜日

経済で読み解く現代史1

https://www.tagesschau.de/wirtschaft/unternehmen/basf-konjunktur-stellenstreichungen-jobverlust-sparprogramm-chemie-100.html
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第18回目、いよいよ現代史に突入である。今回は、WWⅠまでの、英仏独米の経済状況についてである。

概要を先に述べると、イギリス・フランスが、ドイツ、アメリカに経済的な覇権を奪われるという流れになる。イギリスは、1880年以降工業生産のシェアでアメリカに1位の座を奪われ、20世紀に入るとドイツにも抜かれてしまう。これは、産業革命で成功したモデルが根強く残り、新しいビジネスモデルへの変革が行われず、設備も旧式化、中小企業が乱立、しかも彼らが利権団体を形成し現状維持の圧力となって議会に力を持ちすぎた結果、社会が硬直化したからである。

それに対し、ドイツはビスマルクによる国家主導での大規模な工業設備投資が行われ、独占的な巨大企業(電気産業のジーメンス、AEG、軍需産業のクルップ、化学産業のバイエル、BASFなど)が生まれ、金融でもドイツ銀行、ディスコント・ゲゼルシャフト、ドレスデン銀行、ダルムシュタットという「4D」という独占金融資本体制が形成された。

アメリカでは、南北戦争の北軍の勝利後、北部が主導権を握り、保護貿易体制のもと、産業育成が図られる。スタンダード石油、USスチール、GE、金融業ではモルガン、通信業ではAT&Tなどの独占資本会社が形成された。アメリカは、ドイツと異なり自由競争尊重の立場からシャーマン法などの独占禁止法が制定され、一定のバランスの取れた市場となり、新規参入企業も増大した。

イギリスでは、19世紀後半以後、慢性的なデフレ、低金利化、出生率の低下の三重苦に苦しみ、高金利の新興国や植民地への対外投資へ向かい、国内からマネーが流出、ポンド安が進む。植民地開発、対外資本投資で稼ぐ国家になる。フランスも植民地依存は同じで、アジア・アフリカ地域から綿花や染料などの原料を調達し、本国で加工し植民地に輸出し利潤を得る軽工業国になっていった。

植民地獲得競争に遅れたドイツは、大規模な鉄鋼、電気、化学などの重工業国となり、その輸出先はイギリス・フランスなどのヨーロッパ諸国であり、最も利益率の高い重工業というセクターをドイツが掌握する構造になった。イギリス・フランスが植民地獲得に成功したが故に、そこから脱却できずにドイツに経済覇権を奪われたわけである。WWⅠの遠因はここにある。

…これまで、英仏が、毒米に工業力で抜かれるという話を今まで授業で何度もしてきた。その内実が今日の内容である。なるほどと思う反面、今までその内実を掌握していなかったことを恥じる次第。私の見識もまだまだである。

2025年4月14日月曜日

経済で読み解く近代史4

https://www.oceandictionary.jp/scapes1/scape_by_randam/randam18/select1891.html
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第17回目は、アヘン戦争後の清とイギリスの経済攻勢の苦戦、そして中国が近代化しなかった理由について。

2001年にマディソンが刊行した「世界経済 千世紀の眺望」によると、1700年のGDP値は、西欧が$833億9500万(=約8.4兆円)、中国(清)は$828億(=約8.3兆円)、1820年では、西欧が$1637億2200万(=約16.5兆円)、中国は$2286億(=約22.9兆円)で、世界経済における当時の清王朝が巨大な存在であったことがわかる。しかし、西欧が当時1億3288万人、中国が3億8100万人であったので、1人あたりのGDPでは、18世紀の近代以後、西欧が大きく躍進しているのに対し、中国はラテンアメリカより低い時期もあって停滞している。中国の成長率はほとんどゼロ成長で、人口比と正比例しており、土地に束縛された小農民が自分たちの生存に必要な食料などの物資を自給するために生産活動をしていたといえる。

17~18世紀の清では、金融業の規制もゆるく、大都市では預金や貸付業務を行う「典当」や「銭壮」、為替や両替業務を行う「票号」という銀行も発達していたが、限定的で中国経済を牽引するほどの力はなく、資本の蓄積はあくまで中世的商業資本に過ぎなかった。このように、中国は、西欧の近代化に取り残されてしまう。

中国が近代化しなかった最大の理由は極端に低い労働コストにあった。当時、イギリスは綿製品の機械化で労働コストをおさえ、大量生産したが、中国では売れなかった。中国では綿製品は家庭で簡単な道具で紡がれ、織られていた。自給自足だったのである。結局、中国の綿製品のほうが安価であったゆえである。中国の農業生産性、利益性は高く、土地の痩せたイギリスと違い、あえて工業化をする必要性がなかったのである。

イギリスは、アヘン戦争で関税自主権を奪い、大儲けしようという魂胆であったが、上記のように売れず、反対に茶の輸入が増え、貿易赤字になっていた。中国への経済攻勢ができないので、武力で半植民地化を進め、貿易赤字を埋めるため、中国国内の金融、建設、海運その他のサービス業で利益をあげざるを得なかった。また、輸入超過の茶を植民地のインドやセイロンで栽培することになったのである。

…イギリスはアヘン戦争後、中国で大いに儲けた様に見えて意外に苦戦を強いられてきたのであった。また中国が近代化に遅れを取った理由は、労働コストの低さと農業生産で十分だった故である。こういう真実は、受験の世界史ではあまり語られない。実に貴重な視点を共有できたと思う。

2025年4月13日日曜日

ブルー・インパルス狂想曲2

私の予想が当たって、ブルー・インパルスの大阪編隊飛行は、結局雨天中止になった。

夫婦で、パパイヤを食べながら、関空からのLIVEを見ていた。3機は離陸したのだが、後の3機はなかなか離陸せず、旅客機が前に来たりして不可解なLIVEとなった。大阪上空を飛行停止にするためには、各航空会社に迷惑をかけるので、決行か中止か、その判断にも長い時間をかけることもできず、結局中止になったようだ。多くの人が、いろんなところで待っていただろうと思うと、せめて爆音だけでもとも思うが、低空を編隊飛行するわけで、いくらブルーといっても危険極まりないと思われる。

残念だが仕方がない。しかしながら、日本の恥のような万博故、当然の結果かもしれない。まあ、今日も批判が相次ぐ初日だったようだ。

2025年4月12日土曜日

ブルー・インパルス狂想曲

https://weathernews.jp/onebox/tenki/osaka/#google_vignette
10日に空自のブルー・インパルスがリハーサル飛行を行った。私の住む枚方では、1970年の大阪万博の太陽の塔から、淀川を越えて、ひらパー(USJの誕生で大阪近郊の多くの遊園地が廃園した中、唯一生き残った遊園地)の上空を飛ぶとあって、曇天であったが、多くの人々が集まり、画像をUPしている。

私はブルー・インパルスのファンの一人であり、空自や米軍の航空祭に何度か行っている。ただ、今回は枚方上空は、編隊飛行のみなので絶対に見に行きたいというほどではない。なにより、明日の開会式は、天気予報によると雨天もしくは曇天である。

ブルー・インパルスの技術はすごいし、航空ファンの私にとって神のような存在なのだが、天候が悪いとその魅力が半減してしまう。松島基地からわざわざ関空まで来てくれているのに悪天候だと実に気の毒だ。まあ、万博の主催者が主催者であるから、開幕が悪天候になるのも仕方がない。晴天の期待は陛下の存在だが、開会式は今日終わってしまった。帰京されたら、どうにもなるまい。

ところで、会場内の支払いは現金が使えないそうだ。子供用のトイレもまるで昔南京で経験したプライバシー保護の概念がないというか、排泄に対し恥の文化がない中国様式。どこまで、来場者のことなど考えていないかがわかる。現金派の私は、行く気などさらさらないが、高齢者の方や児童・生徒たちが困惑しないように、ただただ無事故を祈るのみである。

2025年4月11日金曜日

経済で読み解く近代史3

https://www.hubbis.com/news/hsbc-malaysia-opens-new-head-office-in-trx-kuala-lumpur
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第16回目は、イギリスは、産業革命によっては意外に儲からなかったが、世界の覇権を握った理由について。

イギリスの国際収支の資料によると、1816年から20年の貿易収支は、-10.58(✕100万ポンド以下同じ。)で、1876年から80年では、-123,74と、この間ずっと赤字で、しかも増加傾向にあった。すなわち、イギリスの工業製品の輸出で儲けていたわけではなく、反対に赤字だった。しかし、貿易外収支(海運業、サービス業、海外金融業、海外投資の収益)で稼いでいたのである。1816年から20年の貿易外収支は、17.80。以後ずっと黒字で増加しており、1876年から80年では、148.56。よって、経常収支は、ずっと黒字である。しかも海外債権残高は莫大に増え、1816年から20年では、46.1だったのが、1876年から80年では、1189.4にまで増加している。以上の点から、イギリスが覇権を握った理由は産業革命による生産力拡大にあらず、と言えるのである。

イギリスは、三段階の悪辣な収奪システムによって覇権を握る。まずは、16世紀の私掠船の略奪(2023年9月3日付ブログ参照)、第二段階は17~18世紀の奴隷三角貿易、第三段階は19世紀のアヘン三角貿易である。いずれも受験の世界史でも登場する内容である。

ここでは、奴隷三角貿易において、イギリスはスペインやフランスとの競合者との戦争に勝利して以来、奴隷貿易を独占し、投資家は30%程度のリターンを得ていたとのこと。当初西インド諸島で砂糖のプランテーションで大きな利益を得ていたが、やがて綿花プランテーションもつくられ、さらなる需要のためにアメリカ南部にも拡大した。1783年、独立したアメリカは奴隷に家族をもたせ、子孫を永続に住まわせることで奴隷人口を増大させた。よってイギリスの奴隷貿易額は減少した。さらにアフリカ地域の人的資源が急激に枯渇し、奴隷の卸売価格が上昇、さらに砂糖・綿花の生産量増大で価格が低下し、奴隷貿易の利益は先細りになる。人道的な批判や世論も強まり、イギリス議会は1807年奴隷貿易禁止法を制定するが、19世紀半ばまで続く。さらなる砂糖・綿花の供給増で、自然消滅していった。つまりは、人道的云々ではなく、経済的理由で奴隷貿易から手を引いたに過ぎない。とはいえ、奴隷貿易で搾り取れるだけ搾ったわけである。

…今回はアヘン貿易については省略するが、その中心は、ジャーディン・マセソン商会で、アヘン戦争後、HSBC(香港上海銀行)が設立される。ジャーディン・マセソン商会をはじめとしたアヘン貿易商社の資金融通や送金業務を請け負った銀行である。HSBCは、マレーシアでもたくさんの支店をもっていた。私は関係を持たなかったが、それで良かったのだと思っている。

2025年4月10日木曜日

経済で読み解く近代史2

https://note.com/sekaishi_genba_/n/n7244784ebd48
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第15回目は、イギリスの産業革命のその後について。意外な事実が書かれていたのである。

前回の書評では、ワットの蒸気機関の開発について触れたが、当時の製鉄業は、木炭が使われていた。しかしイギリスの森林資源は不足しており、スウェーデンに頼っていた。18世紀になって、ダービー父子が石炭の不純物を取り除きコークスを発明したので、鉄を自給できるようになったのである。この製鉄業の飛躍は、鉄道や蒸気船の生産に向かい、流通面での圧倒的優位性がイギリスの綿製品市場の独占に寄与した。

しかし、この技術は、プロイセンにキャッチ・アップ(=後発国が先発国の開発した新しい技術を導入し工業化を推進すつため、後発国の技術進歩は急速で、経済成長率も先発国を上回ること)されていく。プロイセンの技術者はイギリスの機械技術の盗用に最も熱心だったし、ユンカー(大地主層)も商工業経営の投資に熱心だった。フランスはナポレオンの大陸封鎖令でイギリス製品を締め出し、イギリスの技術の盗用で産業技術の向上に寄与した者に勲章が与えられたりもした。イギリスの綿工業は大打撃を受け、アメリカ市場に向かうことになる。

イギリスは産業革命で大儲けしたように思えるが、後発国によって否応なく価格競争に巻き込まれ、19世紀以降は長期のデフレ基調になるのである。だが、イギリスは世界の覇権を握っていく。…その内容は次回。

追記:今日も2クラスで新3年生の授業をした。昨日同様、実に気持ちの良い授業ができたのであった。明日は残り全てのクラスを回ることになる。楽しみである。

2025年4月9日水曜日

経済で読み解く近代史1

https://awrd.com/creatives/detail/104669
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第14回目は、いよいよ近代。イギリスの産業革命の背景について。

産業革命と言ってしまうと急激な変化が起こったように聞こえるが、18世紀前半から100年の長期にわたる持続的なものであった。イギリスでは、すでに16~17世紀に毛織物を手工業で生産するモデルが構築されていたが、より早く、安く、大量に生産できる効率的で資本の回転率が良い新しいモデルが必要とされていたのだが、インド進出によって画期的な綿布(キャラコ)に出会う。軽くて丈夫、通気性もよく、シャツなどへの製品化もしやすいスグレモノであった。なにより綿製品が毛織物より優れていたのはは、水洗いが可能であること。綿花を栽培できないヨーロッパでは水洗いできない不潔な毛織物を着ていたために病原菌に侵されやすく、特に免疫のない乳幼児の死亡率が高かったのだが、18世紀以後、綿製品の流通すると、乳幼児の死亡率が劇的に改善されたのである。

…本書には書かれていないが、インドから綿布を輸入する貿易商は大儲けしたが、毛織物業者は壊滅状態に陥る。しかし毛織物業者は議会を動かし、綿布の輸入を禁止する法律を制定した。そこで、貿易商はカリブ海諸島や、アメリカ南部で奴隷制プランテーションを経営し、綿花自体を輸入していく。毛織物業者もそれまでのノウハウを活かし、綿織物に転換していくのである。

原料(綿花)のコストを下げることに成功したイギリスは、次に製造コストを下げるため、紡績機や織機の機械化に向かう。羊毛より綿花のほうが強く機械化に適していたのである。18世紀の前半は、この機械の動力は人力や水力だったが、トーマス・ニューコメンが蒸気機関を発明、炭鉱の排水用ポンプとして使われていた。ピストンの上下運動を、紡績、研磨、製粉などに使えるよう、円運動に転換させる技術を開発したのが、有名なワットで、これをバックアップしたのが、かのアダム・スミス(当時はグラスゴー大学の教授で、すなわちスコットランドが発祥の地)である。この技術開発には実業家のボールトンが資金援助と特許申請、さらに金属加工業者として技術面からも支えた。1780年代に円運動の蒸気機関装置が実用化し、独占的供給をしたものの、1790年代半ばまで開発資金の回収、黒字にはならなかったと言われている。

追記:今日は新3年生の2クラスに行ってきた。どちらも真剣に地理総合のイントロダクションに聞き入ってくれた。大満足である。

2025年4月8日火曜日

明日からの授業に備える

いよいよ明日から授業が始まる。全く初めての生徒の前に立つのは、緊張するというより楽しみである。イントロダクションとして、今回はパワーポイントもつくってみた。これまでの勤務校を紹介し、授業のガイダンス、さらに評価基準を明確にした後、地理総合なので、これまで訪れた国のページもつくってみた。それぞれの国の画像をと最初は考えたのだが、結局ポーランドボールにしてみた。

今回はできるだけパワーポイントとプリントの内容を合わせて行こうと思っている。かなり手間はかかるが、毎年両方とも改訂しながらやっていくのが私の流儀だからだ。

2025年4月7日月曜日

維新の文化破壊 市文協解散

https://www.facebook.com/occpa/
とんでもない万博批判の影で、大阪市文化財協会が3月31日で解散させられた。歴史文化を破壊するとんでもない暴挙である。二重行政改革の名のもとに、府市の重複事業もなく、赤字でもなく、市税の投入もなく、海外(ロシア)からも注目された技術を持ち、これからも都市開発時に貴重な文化財が大阪には出てくる可能性が強いのに、解散?しかも貴重な十数万冊の蔵書が韓国の研究機関に譲渡されるという。なぜ韓国?保存することもしたくないのか。維新は、日本の文化を破壊し滅ぼそうという売国奴である。こんな政党が大阪を仕切っていることが信じられない。
https://www.youtube.com/watch?v=HpK4SAU7LsU

2025年4月6日日曜日

経済で読み解く近世史5

https://ibispaint.com/art/375029016/
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第13回目は、清王朝の利害調整能力について。

満州という地名は文殊(マンジュ)菩薩を崇拝していたことから満州の漢字が当てられたからだそうで、清王朝はこの満州人の王朝である。彼らの歴史は古代から、異民族として本土に何度も攻め込みながらも敗れてきた。モンゴルの分裂をうまく利用しつつ吸収し軍事的に大勢力となり、明を滅ぼし、中国統一を成し遂げるのである。

さて、明時代には、人頭税と土地税の両建ての税制であった。異民族王朝であった清は、富の分配問題に神経を注ぎ、地丁銀という税制をとった。これは、明時代、人頭税に苦しんだ民衆が戸籍を届けず、法的にこの世に存在しない者が人口の70%もいた。明朝が慢性的な財政不足に陥ったのはこれ故である。18世紀初頭、康熙帝が人口調査を行ったものの6000万人しかいなかった。(実際はその3~4倍)そこで思い切って人頭税を廃止を宣言、人口は3億人に一気に増加した。さらに、この税収減を豊かな土地所有者のみの土地税とした。漢人の大土地所有者は、異民族支配故に土地を没収されると覚悟していたので、意外に喜んで土地税に応じたのである。こうして地丁銀は、土地を持たない平民にも、土地所有を保証された豪族にも歓迎され、清は260年間も支配を継続できたのである。

この地丁銀という税制は、長年、満州族がモンゴルや朝鮮、中国本土との互市貿易をして積み重ねきた忍耐力と知恵の結晶だと著者は記している。

…やっと近世が終わり、近代に突入する。経済から読み解くと、様々な世界史的常識の裏に潜むモノが浮かんでくるわけで、実に面白い。本日、学院の教頭先生から、Classiというアプリで、時間割が送られてきた。いよいよ授業が始まる。楽しみである。

2025年4月5日土曜日

経済で読み解く近世史4

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「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第12回目は、オランダとイギリスの覇権・逆転劇の背景について。

17世紀前半はオランダの黄金時代で、アムステルダムの金融市場は、証券や株式の直接金融を行って世界の金融センターとなった。オランダ公債の金利は1600年から、25年毎にみると8%、6%、4%と継続的に下落しており、いかに巨額の資金が集まっていたかがわかる。三十年戦争では、豊富な資金力でプロテスタント側を支援し、勝利する。

ところで、イギリスは前述のようにオランダに毛織物をオランダに輸出し、資金力・販売力に依存し経済的に下位におかれていた。この依存脱却のために、1651年「航海条例」を発布し、オランダとの通商を事実上禁止した。毛織物業者にとっては死活問題だったが、貿易商の組合が活発なロビー活動を行ったのである。この保護貿易政策で、商船建造を行い、自前の販路を開拓することになる。当時の政権は、清教徒革命後でクロムウェルが握っていた。クロムウェルは、非常にシンプルな対オランダ政策をとる。すなわち、戦争である。まさに政治の一政策が戦争だといえるわけだ。

イギリス海軍は、航海条例をを根拠に、オランダ商船を臨検し拿捕していく。挑発に乗ったオランダは宣戦布告し、1652年から1674年まで3回にわたって英蘭戦争が続くのだが、全てイギリスの勝利となった。経済活動に重きを置き、利権を守るための軍事には予算を回さず長期的視野にたったな覇権構造を形成することをしなかった故である。

…マレーシアのマラッカの街には、ポルトガルの砦跡、ザビエルが滞在したカトリック教会、オランダのゴイセン(カルヴァン派)の教会、そして、イギリスの聖公会の教会がそれぞれ異彩を放っている。まさに大航海時代から近代にかけての歴史の証言者の呈である。その背景に、こうした経済的な動きがあったわけである。…感無量。

2025年4月4日金曜日

ボブルヘッドデー サヨナラHR

https://www.nikkansports
.com/baseball/mlb/photonews/
大谷選手のボブルデッド人形4万個進呈に長い行列ができた対ブレーブス最終戦。5対0から、水島・野球マンガのような大逆転の試合だった。

いぶし銀のエドマン二塁手が2ラン、初回に2つもエラーをした傷心のマンシー三塁手が同点弾、そしてドジャーズの多くの選手が確信していたという大谷選手のサヨナラHR。ベッツ選手が、大谷選手のCMポーズをとって本塁で出迎え、それに呼応しているシーンもいい。そりゃあ、大歓喜するよな、と思う。

これで、日本開幕戦から8連勝となった。まるで公式戦負け無しの明訓高校である。

2025年4月3日木曜日

経済で読み解く近世史3

https://julius-caesar1958.amebaownd.com/posts/18266267/
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第11回目は、オランダとイギリスの東インド会社についてである。

16世紀後半にオランダとイギリスは、カルヴァン派を保護し商工業が発展する。しかも両国は高い造船技術をもっており、直接アジアと交易を積極的に進め、中東は中飛ばしされ没落していく。ちなみにフランスはユグノー戦争でそれどころではなかった。

オランダとイギリスは17世紀初頭に、株式会社組織の植民公社・東インド会社を設立。有価証券である株券を発行し、年ごとに配当を付け、その売買も自由であり現在の株式会社の起源となった。当時の手形や債権は、今日の株式市場のように乱高下しており、投機的な要素を強く帯びていた。しかし、株式は株券の保有者が、他者に出資するのではなく自らオーナーになるという画期的なものだった。

オランダの東インド会社は、今日の株式会社と同じく年ごとの配当(200年間の平均配当率は18%:当時の長期金利が10%以上の国が多かったので妥当な水準)を出していた。ちなみにオランダは、新大陸を担当する西インド会社(現在のNYは、元々ニュー・アムステルダムでハドソン川を利用した毛皮交易を扱っていた。)もあった。

これに対し、イギリスの東インド会社は、一航海ごとに株式を発行して資金を集め、帰国後得た利益を投資額に比例して分配するというシステムをとった。帰国できなかった時は大損する、という短期型ハイリスク・ハイリターンの投資商品だったといえる。

両者の違いは、もう一つある。オランダの株主は有限責任(出資額以上の責任を追わない)で、イギリスの株主は無限責任(外部に与えた損害があった場合株主が責任を持つ)を負うことになっていた。結局、オランダの方式の方が富裕層の資金集めに勝利し、イギリスに先んじることができたのである。

ところで、1623年モルッカ諸島のアンボイナ島にあるイギリスの商館をオランダが襲い商館員全員を殺害する事件が起こった。香辛料貿易の対立が背景にあったのはいうまでもないのだが、問題はイギリスでは反オランダ感情が高揚しながらも、報復も首謀者の身柄引き渡しの要求もしないまま終わった。実は、イギリスの当時の主要輸出品は毛織物で、その卸・小売をほとんどオランダが担当していた故であった。この事件後イギリスは香辛料貿易から撤退したが、オランダも、ポルトガル時代以来供給過剰の香辛料貿易では利益をあげることができなかった。

…東インド会社といっても、オランダとイギリスではその株式会社システムの違いがあったとは実に興味深い。オランダが先んじた理由は、前出の資金集め競争に勝利したが故である。イギリスの無限責任は、現在もロイズ保険などで健在である。シンジケートのメンバーが、一つひとつの保険に際して、その受け持つ比率によって、ハイリスク・ハイリターン的な保険業を維持しているのは有名である。

2025年4月2日水曜日

経済で読み解く近世史2

https://4travel.jp/travelogue/11769435#google_vignette
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第10回目。今回は、ポルトガル・スペインの没落とジェノヴァの関係性についてである。近世史では、ポルトガルの没落についてはあまり語られない。地球をスペインと二分したのに、いつのまにかスペインと合併している。

コロンブスは幼少期から長らくスペイン人だと思っていたが、以前教材研究をしていてイタリア人であったと知って驚いたものだが、本書で、ジェノヴァの船乗りであり、同時にジェノヴァの融資を元手にした新航路開拓のセールスマンでもあったことを知り、なるほどと頷いた。

ジェノヴァは前述のように低金利で資金を集め、ポルトガルやスペインに法外な高金利で拠出していた。ポルトガルは香辛料貿易で得た利益の殆どをポルトガル公債(ジェノヴァが引き受けていた)の利払いにあてていた。ジェノヴァは金融技術に疎い両国を手玉に取って搾取していたわけである。

ポルトガルは、ゴアやマラッカを手中に収め、モルッカ諸島へと拡大したが、ケープ、モザンビークから継っている各地の港湾拠点の維持費は莫大で、ジェノヴァ資本に頼らざるを得ず、さらに香辛料の貿易量が増大するにしたがって、需給バランスが崩れ価格が下落。身の丈に合わない開発話に乗り、財政が悪化、最後のトリガーとなったのは、1578年にモロッコ征服を試みるも国家予算の半分を戦費に投じたものの敗北し、ついにデフォルト(破綻)した。ジェノヴァの巧みなフィナンスで、スペインがポルトガルの負債を引き受け、併合したのである。

さて、スペインは、新大陸を発見したものの東岸には利益を生みそうなものを見い出せなかったが、パナマ地峡の発見で西岸に達すると、アステカやインカを征服(多分に彼らが持ち込んだ病原菌によるパンデミック)し、大搾取に狂奔する。ところで、スペインもまたジェノヴァの資金援助を受けており、国家収入の7割ちかく利払いにあてていた。

ただ、スペインは、スペイン領ネーデルランド(現ベルギー・オランダ)を特区地域として開放しており、中心都市であるアントワープ(=アントウェルペン:画像参照)には、地勢的有利性からイギリス、ドイツ、フランスの資金や物資が集まり、盛んに手形が発行され、金融ビジネスが発展した。スペインはここで起債し資金を得ていた。16世紀後半、宗教改革が起こり、アントワープにはカルヴァン派が集まり、営利蓄財の肯定のもと大発展し、ジェノヴァの資金もアントワープに流出した。ジェノヴァが融資していたカール5世が、ドイツ諸侯とのシュマルカルデン戦争に敗北したこともあって、ジェノヴァ債の利回りが高騰し、ますますアントワープが国際金融の中心センター化する。

しかし、カール5世の息子・フェリペ2世がスペイン王位を継ぐことでアントワープの命運が尽きる。超敬虔なカトリック教徒だったフェリペ2世が、彼の地にカトリック信仰を強要したために独立戦争が勃発、1576年アントワープはスペイン軍によって略奪・破壊され、スペインは資金源を自ら断ってしまった。愚行と思えるが、フィリペ2世は超敬虔なカトリック教徒故に、カネ勘定は卑しい行為と否定的で、国家財政にも関心を示さなかった。彼にとって、アントワープは資金源ではなく悪の巣窟にしか見えなかったのである。

スペインの国家収益(=王室財政)は、国王の無関心を良いことに、貴族や有力商人たちによって、中抜き、闇取引が御講しており、フェリペ2世の時代に4度も破産宣告(=国庫支払停止宣言)をしている。さらに、アルマダの海戦、三十年戦争の敗北で命運が尽きるわけだが、ジェノヴァ債もスペイン敗戦が濃厚になると金利は5.5%にまで上昇。アムステルダムやロンドンに資金が集まり、16世紀を支えたジェノヴァ・システムも崩壊するのである。ちなみに、スペインに見切りをつけたポルトガルは1640年に分離独立を果たしている。

…ポルトガルの衰退史は、政治・経済の基礎知識を確認するのにも実に有効かなと思う。スペインの上部構造的な衰退史は、受験の世界史にも出てくるが、下部構造的な視点=アントワープをめぐる問題は、初めて知った。もちろんフェリペ2世の敬虔さは承知していたが、経済的な思考なしには国家を成功に導くことはできないわけだ。

2025年4月1日火曜日

経済で読み解く近世史1

https://www.tripzaza.com/ja/destinations/genoa-kankou
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第9回目。今回は、近世の大航海時代を支えたジェノヴァについて。

近世のイタリアとくれば、フィレンツェやミラノ、ヴェネツィアの名が上がる。いずれも商工業や交易都市として名を挙げ、ルネサンスにも関わった都市群である。ところが、本書では以外な都市の名が出てきた。ジェノヴァである。地理では、ミラノ・トリノと合わせて北イタリアの三角地帯(この3工業都市でイタリア経済を支えている)を形成していること、余談的に「母を訪ねて三千里」の舞台で有名なことを教えるが、近世の大航海時代において、このジェノヴァの果たした役割は大きいというのは初耳だった。

当時の地中海交易は、エジプト・シリア沿岸・コンスタンチノープルならびにウィーンと陸路で接続していた主に香辛料を扱っていたヴェネツィアと、黒海クリミア半島沿岸とシルクロードに繋がり、主に絹織物を扱っていたジェノヴァに二分されていたが、14世紀のヴェネツィア・ジェノヴァ戦争で、ジェノヴァは敗北、交易路を奪われてしまった。

しかし、ジェノヴァにはそれまでの資本の蓄積(中心はサン・ジョルジョ銀行:画像参照)があり、モロッコの港湾都市セウタに集まる黄金や物資の豊富さからアフリカに目をつける。ポルトガルもまたアフリカへの新航路開拓に大きな関心を持っており、両者の思惑が一致した。ジェノヴァの積極的な投資が、インド航路開拓として実を結んだわけで、まさにジェノヴァの逆襲といえる。インドで3ダカットの50kgの香辛料がヨーロッパでは80ダカットの値がついており莫大な富がさらに蓄積されたのである。

面白いのは、富裕層は新興国のポルトガルに直接投資することには躊躇したが、金融の発達したジェノヴァには安心感があり、ジェノヴァ債は飛ぶように売れた。14世紀後半から15世紀の金利は3~4%で、イタリアの他の諸都市で5%、オランダで10%、フランスが15%くらいだった。この後アメリカ新大陸から銀が大量に流入しインフレとなるが、ジェノヴァ債の金利は低金利を維持できた。それくらい資本の蓄積があったのである。

ジェノヴァは、16世紀以降、スペインにも投資を行い、スペイン国王カルロス1世の積極的な支援に動き、神聖ローマ帝国皇帝選挙に関わり、フッガー家と共に金貨2トンを七選帝侯にばらまいたと言われる。カルロス1世=近世史の主役の一人、カール5世である。

…近世史におけるジェノヴァの重要性を改めて知り驚いた。経済から歴史を見るということの重要性を痛感する次第。イタリアの地誌のところで触れる機会があれば、世界史を選択している生徒にとっては、実に興味深い内容だと思う。

2025年3月31日月曜日

令和の百姓一揆

https://www.tokyo-np.co.jp/article_photo/list?article_id=395279&pid=1941393
日本の政治の腐敗も中国ほどではないにしろ、SNSの進歩でかなり明らかになってきた。財務省解体デモに続いて、昨日は「令和の百姓一揆」が全国規模で行われた。トラクターでデモするというのは、ドイツなどで例があるが日本では初めてだろうと思う。

日本の農業を農水省は潰そうと考えているフシがある。農業従事者の高齢化も進み、平均年齢が私くらいだという。米の価格が、買い占めで異常に値上がりし、日本の新米は中国に流れたたらしいという話もSNSで拡散している。食の安全保障は、実に重要な課題である。日本の食料自給率を農水省はその指標ベースをごまかしてしいる。米はかなり自給率が高いのだが、このありさまである。農林省は誰のために働いているのだろうのか。

今回の「百姓一揆」というネーミングから、いかに時代錯誤な政策を農林省とこれに関係する国会議員がおこなっているかをイメージできるし、農業従事者が怒りが尋常でないかがわかる。安心して後継者を育て、食の安全保障を確立すべきというのは大正論である。

明日から、言論統制が行われるという情報もSNSで流れている。憲法違反も甚だしいのだが、この際、年度末に駆け込みで記しておきたい。マイナンバーカードで国民を管理しW接種を強制しようという動き、移民や外国人に日本国民以上に手厚すぎる社会保障や医療(媚中外相の選挙区では支持する医師会が外国人医療の利権にからんでいるとの情報あり)の動き、様々な新税中でも通勤費にまで課税(そもそも賃金を上げ、消費需要を拡大しようとするのが経済の原則であるのに逆方向である。)しようとする馬鹿げた政治にうんざりである。

大阪万博の様々な問題がさらに噴出して、YouTubeで批判のチャンネルが大増殖している。熱中症対策もメタンガス対策もいいかげんで、休憩所も莫大な費用をかけて石が頭上にあったり、子どもたちが食事を摂る場所では空調もない。しかも雨天でも傘は持ち込み禁止とか。安全対策や入場者への配慮は、無茶苦茶である。誰が仕切っているのか。日本の緻密な計画性、おもてなしの心を主体としたイベントのスタンスは、どこにいったのか。Made in Japanのイベントとは思えない。

建設の遅れは入札が少なく中小の建設会社(日本の建設業者の仕事だから、先日のミャンマー地震で1000km離れたタイの中国国営企業の施工中のビル倒壊のように、鉄筋が細いことはないだろうが…。)受注した故だとか。賃金の高騰できっと赤字だ。まさにくたびれ損。チケット購入時には、様々な個人情報の入力が必要で、この情報は外国(間違いなく中国であると確信する。)にも提供されると小さく明記されているらしい。個人的な医療情報も抜かれるパビリオンもあるらしい。ウィグルで行われているような人権無視の臓器提供に使われるのだろうか。中身がなく未完成のイラストが載った3000円以上するガイドブックと、万泊情報は散々である。利権と腐敗と中抜きの無責任万博に誰が行くものか。

極めつけは、維新の会は、万博跡地を中国系企業に売り渡すらしい。どれだけカネをもらい、ハニトラされているのかは知らないが、媚中政治家は今すぐ退場してほしい。もちろん万博の赤字を自らの責任で補填し、大阪府民・市民ならびに全国民に一銭たりとも負担させないようにしなければならない。こも大正論である。

経済で読み解く中世史5

https://yamatake19.exblog.jp/15308196/
経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第8回目。今回は、元朝・明朝の銀によるグローバル化について。

遊牧民のモンゴル人は徴税・通商などの経済財政政策に疎く、滅ぼしたトルコ系ホラズムのムスリム商人であったマフムード・ヤラワチを財務官に登用した。彼は、それまで諸国家が乱立し通行税関税が複雑であったシルクロード交易の仕組みを一掃し、最終売却地で価格の30分の1の売却税のみに改めた。しかも、銀納に一本化しモンゴルを銀本位制に転換した。駅伝制でシルクロードの安全性を確保したのも大きく、交易は大いに発展した。

ヤラワチは、華北支配においても耶律楚材とともに、宋代の紙幣の有効性を見出し、銀本位制のもとで、フビライの元朝で「交鈔」(銅銭との交換単位はあるが、銅銭に対しては不換紙幣/画像参照)という通貨政策を実施した。この「交鈔」にはマルコ・ポーロもイブン・バトゥータも驚いている。しかしながら、結局紙幣増刷の誘惑に勝てず、「交鈔」の濫発で経済混乱をおこし、不作と飢饉も相まって朱元璋(=洪武帝)により滅亡する。

明朝では、統制経済が行われ、綿織物や絹織物の手工業だけでなく、農業、海外交易も朝廷が統制していたのだが、中期になると洪武帝の穀物生産中心の農本主義の原則が崩れ、貨幣経済で有利な商品作物の栽培に移行、特に養蚕のための桑畑が増え、民衆は飢えていったが、汚職官僚らの蓄財が蔓延していく。一方で、鄭和の大遠征は謎が多い。遠征の理由も交易の停止も謎のままで、その100年後に大航海時代が始まる。メキシコ銀や日本の石見銀山の銀が明に密貿易者の手で流入し、明も一条鞭法で銀納一括の税制となったが、宗や元同様に「宝鈔」という紙幣を禁じ手の大量増刷してしまい滅亡するのである。

…元朝と明朝の共通点は、銀本位によるグローバル化と「交鈔」・「宝鈔」という紙幣増刷で滅亡したということである。中国の歴史をみると、結局官僚が、自己保身と私利私欲のため同じ過ちを繰り返しているといえる。現代中国には科挙がないが、科挙を乗り越えた優秀でもない中国共産党による腐敗政治が続いている。この腐敗状況に民衆は苦しめられつつ、したたかに法の抜け道を探し生き延びるという構造があるわけで、なんともやりきれないエゴイズムの連鎖の歴史を背負っている、といえるのではないか。

2025年3月30日日曜日

経済で読み解く中世史4

https://www.sohu.com/a/450634501_390792
経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第7回目は、宋時代の形勢戸と兌換紙幣の話を中心に記していきたい。

唐の時代はマーケットに参入することも、陶磁器製造、養蚕・織物業、製鉄、製塩なども政府の管理体制化におかれていた。しかし唐の体制が崩れると、庶民出身の新たな富裕層(=形勢戸:形勢は成り上がりの意)が、農業も含めて台頭する。特に江南地方では、農機具の改良や灌漑、品種改良や水田以外での野菜栽培などが行われ、形勢戸による食料供給が増大し人口も増加した。宋王朝は形勢戸を支持基盤として成立したので、経済優先の文治主義となる。この文治主義(画像参照)は受験の世界史でも鉄板の内容。

首都の開封は大運河と黄河の交差する地点にあり物流のネットワークの中心となった。しかも、この時代に貨幣経済が大いに発展する。北宋では多くの地域で銅銭、四川や陝西では鉄銭が流通したのだが、重く持ち運びに難儀したので、交子鋪(こうしほ)と呼ばれる両替商が設立され、交子という預り証を発行するようになったのである。四川で銅銭の準備高不足で不払いが起こったのをきっかけに、民間から朝廷の専売ビジネスに変化した。すなわち交子は、世界初の兌換紙幣と化したのである。宋王朝は、銅銭・鉄銭の兌換準備を36万貫、交子発行限度をを125万貫とし、著しい経済発展の中、銅銭・鉄銭の鋳造が追いつかなかったが、マネーサプライを増大させたのである。

宋王朝は異民族の侵入を阻止するため、北方のモンゴル人や西方のチベットに巨額の貢納をしていたが、次第に窮し始める。貢納にあてる財源を確保するため交子発行限度が破られ濫発、12世紀初頭には2600万貫にまでなり、信用を失い価値が暴落、市場では信用不安からハイパーインフレーションに陥った。

結局、宋は貢納を止められた北方の女真族によって、華北・首都を奪われたのである。宋は信用貨幣を用いて経済発展を遂げたが、信用を失い、その副作用で滅んだ感がある。

…銅銭・鉄銭の重量問題が兌換紙幣の起源であるとは、実に興味深い。信用創造のシステムも生まれていたのであろう。でないと、マネーサプライがあんなに拡大はしないと思われる。いずれにせよ、兌換紙幣を国家そのものが発行すると失敗する。私はスウェーデンがその最初の例だと思っていたが、そう(=宋)だったか。(2日連続のお粗末である。)

2025年3月29日土曜日

カップヌードルの”ラクサ”

カップヌードルの新製品で”シンガポール・ラクサ”があることを知った。ラクサとは、マレーシアでよく食べていたココナッツミルクと刺激の強い香辛料入りの汁麺である。とはいっても、地域によって異なる。妻は、マラッカで食べたニョニャ・ラクサが一番だという。私はペナンのラクサも良いと思う。マレーシアのスーパーでもインスタント袋麺でラクサを売っていた。というわけで、今日、京田辺のスーパーでついに発見したので食してみた。

私は濃いスープの汁麺が好み(天下一品のファン)なので、ココナッツミルクのスープをうまくアレンジしていて、たしかにラクサだと思う。麺はまさにカップヌードルの伝統的な麺だが、十分に美味しかった。ただ、シンガポール風(物価の高いシンガポールには3年半マレーシアに滞在したがついに行かなかった。)なので、マレーシアの各地のラクサとはだいぶ違う。ラクサはそういう地域間の落差がある。ラクサだけに…。(お粗末)

ベッツ復活のサヨナラHR

https://www.chunichi.co.jp/article/1045493?rct=baseball
ドジャーズは本当に強い。今日の主役はベッツ選手。ソロとサヨナラHRの大復活。フリーマン選手もも同点2ランである。大谷選手は延長10回のベッツにつなげるヒット1本だった。とはいえ4試合連続安打なのでフツーに凄いのだが…。山本投手は先発でソロHRを2本打たれたてしまい、結局勝利投手にはなれなかった。これは残念。しかし、10三振を奪う好投だった。2塁手のエドマンの、ここぞの攻守も光った。

毎試合、MVPトリオを中心に、主役が交代しながら勝っていく。チーム力が半端ないといえるだろう。これまで、ノロウィルスで苦しんだベッツ選手が活躍したことが何よりも嬉しい。

2025年3月28日金曜日

MLB 本国開幕戦 2号HR

https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/baseballchannel/sports/baseballchannel-208381
大谷選手が、シカゴ・ホワイトソックスとの本国開幕戦で、2号HRをかっ飛ばした。(画像参照:金色のロゴがクールだ。)心配されていたベッツ選手も開幕に間に合った。エドマン選手もT・ヘルナンデス選手もHRを打って、5対4で勝ったのだった。これで三連勝。

ところで、ベッツ選手はロスの日本料理店で、生モノにあたった、というかアレルギー反応で苦しんでいたらしい。日本に行く前から体調不良だったからで、ご本人は心当たりの料理や店があるらしいが、あえて何も言っていない。奥様がロスの日本料理店ではないかと疑念を表したに過ぎない。このあたりの発言が、スターたる所以で、大谷選手も同様、発言にはたいそう気を使っている。なんでもかんでも言いたいことを言えばいいというものではない。隣国メディアの報道に、ドジャーズのいろんな選手が頭にきているようだが、これまた大人の発言に終止している。MLBの矜持とでも言うべきか。

追記:イチロー氏がマリナーズの開幕戦の始球式に往年のユニフォーム姿で135kmの投球をしたそうだ。51歳。やはり凄いなと思う。

2025年3月27日木曜日

経済で読み解く中世史3

https://www.sohu.com/
a/710618540_121752316
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第6回は、盛唐時代の富の配分と経済成長について。

随王朝は、強力な軍閥勢力を内部に抱えたまま、運河建設や江南開発に力を入れたので、軍閥に足をすくわれ崩壊した。よって唐の李世民(太宗/画像参照)は、各地の軍閥を徹底的に武力で粉砕し、軍権を朝廷のみに集約、各地の有力者には触れさせなかった。さらに隋の均田制を引き継ぎ、民衆の土地所有を平等化、戸籍によって一元管理し、同時に地方の強力な勢力形成を防止した。

しかし、経済発展によって、貧富の差が拡大し、富を蓄えた有産階級が生まれていく一方で、インフレや重税に耐えきれず逃亡する貧農が急増、逃戸(とうこ)と呼ばれた放棄地が増え、課税が困難になった応急処置として、逃戸を売買することを認めた。これによって一部の富裕層が大地主化、地方豪族化してしまい、中央集権のコントロールが失われた。ところが、この時代は「盛唐」と呼ばれ、朝鮮半島やウィグルを制圧し、シルクロード交易で莫大な収益を得、莫大な富が基盤となり文化・芸術を振興させた。

支配階級が、土地などの生産手段を独占し多数の人間を貧困に閉じ込めるという利己的行為は、経済学的には理にかなっていると見ることができる、と著者は書いている。富の余剰を蓄積し、それを集中的に有効投資し、生産性を挙げることができるからである。富は多数の人間に均分されると余剰が生まれず、投資は規模の効率性を失うからである。

支配階級の投資効率が上がると経済成長していくが、最適値を超え、貧富の差が拡大しすぎるとと経済成長は停滞し始める。この理由は2つあって、富裕層の消費傾向は一般層に比べ低いので、消費需要が停滞すること、さらに投資効率が低下して供給過剰に陥りやすい(限界収益逓減の法則)ことである。「盛唐」は、需給バランスが崩れ、黄巣の乱などによって滅亡していったのである。

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70440?site=nli
…この経済成長と格差の問題は、現代においても実に重要な問題である。上記のグラフは、2022年のIMFのデータをもとに、横軸に国内経済格差、縦軸に経済成長率をおいたものである。青い曲線が投資効率を示しており、最適値はインドの近くにある。(中国の数値は全く信用できない。)南アやブラジルは需給バランスが崩れ、かなり厳しいといえる。

…現在の中国では、まさに反社勢力と化した共産党幹部の富裕層と、給与も払われない貧困層との分裂が進んでおり需給バランスがかなり崩れ、経済は生産過剰になっている。”黄巣の乱”のようなことが起こる危険水域に入っていると言ってよいだろう。

2025年3月26日水曜日

経済で読み解く中世史2

https://ameblo.jp/25juqrdlo/entry-12609568698.html
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第5回。今回は、主に中世キリスト教における利子の問題について。

中世において、教会が行政権や徴税権を握り、行政機能や秩序維持の中心的な役割を担っていた。都市の中心は教会であり、荘厳な建築が競われた時代でもあったが、その背景には好景気があった。12世紀以後の貨幣経済の浸透は、カトリック教会の利子の徴収禁止(利子は時間によって生み出されるが、神の所有物である時間を人間が奪い取る行為だとみなされていた。)を空文化していく。

1179年の第3回ラテラン会議では、利子を取る者は破門、キリスト教徒としては埋葬しないとされた。しかし1215年の第4回ラテラン会議では、支払期日を守らない債務者によって債権者に損害が発生した場合は、ペナルティーとしての延滞利息=利子が認められた。これが教会法の抜け穴として利用されることになる。この会議で認められた利子の上限は33%。この時代、債務者の逃亡や破産が頻発していたので33%とういう高利率になったようである。海洋交易は特にリスクが高く、ヴェネチアやフィレンツェでは、年率になおすと100%~200%の利率が一般的だった。

中世最大の神学者・トマス・アクィナス(上記画像参照)は、第4回ラテラン会議の決議を踏まえ、資金返済の遅延による損害賠償について、債権者と債務者が協定することは正当な権利であると主張し、事実上利子徴収を正当化した。この第4回ラテラン会議とトマス・アクィナスの論理を利用して、人々は極端に短い返済期間を設定し、それ以降の期間の返済の遅延利息というカタチで利子を徴収を一般化した。

それ以外にも為替決済を利用する方法(異なる貨幣で貸出と返済を行い、その為替差益を事実上の利子とする。)や、借用証書に利子分をあらかじめ加算して記入する方法、資金貸付の便宜に謝礼と称して利子を払う方法などがとられた。

1517年、第5回ラテラン会議で、カトリック教会は利子徴収を解禁する。この時の教皇はレオ10世。カネで教皇の座を買ったといわれるメディチ家の次男である。ちなみに宗教改革後、カルヴァンは利子を認めたので、プロテスタントも同様になった。

…ユダヤ教徒も利子を禁じられているが、異教徒に対しての利子は認められていたので金融業を先行することができた。イスラムでもクルアーンで利子は禁止されている。不労所得と見なされており、汗水流して神の作った自然や資源を加工しなかればならないという基本理念がある。搾取と貧富の格差が拡大する原因でもある、というのが理由。ただし、スクークというイスラム金融の仕組みがあり、事実上の利子は存在する。商品販売益やリース料と捉えたり、債権者が債務者の事業に出資し得られた利益から利子分の分配を受けるなどの方法が取られている。一神教の世界は、律法やシャリーアといった神定法、さらに教会法との兼ね合いが大変だったわけである。

2025年3月25日火曜日

経済で読み解く中世史1

https://love-spo.com/books/sekaisi2-006.html
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第4回。今回は、温暖化による食料調達のロジスティクス(調達ルート)の変化とノルマン人の活躍について。

東ローマ帝国のユスティニアヌス帝の時代、地中海の覇権を失い、食料確保のため広大な領域を確保しなければならず財政は逼迫していた。ところがその末期、550年頃から温暖化が始まる。ゲルマン人が内陸部の森林を開墾し農業生産力が高まり、東ローマ帝国の食料調達のロジスティクスに依存する必要がなくなり、これ幸いと東ローマも領土を縮小する。

食料調達のロジスティクスを握ったゲルマン人は、小王国を建国し、中でもフランク族はカトリックに改宗し教皇の権威を借りてゲルマンの所属を併合、西ヨーロッパの盟主となる。9世紀には、食糧増産とそれによる人口増で都市が形成される。これらを結ぶネットワークが生まれる。この物資の運搬は海運が担った。バルト海や北海沿岸に物流拠点が形成された。

この物流を担ったのがバイキング(=入江の民)と呼ばれたノルマン人(=北方の人)である。古来より漁業を営み、造船技術や操船技術に優れていた彼らは、バルト海・北海の横断だけでなく、セーヌ・ライン・エルベ・オーデル川などを縦断し、交易ネットワークを形成した。

この交易のネットワークにより巨万の富を得たノルマン人は自らの国を作っていく。ルス族のノブゴロド国はロシア(ルスから来ている)の母体。ドーヴァー海峡を挟んだノルマン王国はイギリスの母体となった。

…受験の世界史では、中世は教皇権の強い暗黒の時代のように説かれるが、経済からみると発展の時代であったわけだ。

2025年3月23日日曜日

経済で読み解く古代史3

https://www.istockphoto.com/jp/
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第3回。今回は、ローマ帝国の経済的力学構造について。

ローマがイタリア半島を統一してからの最大の問題は、慢性的な食糧難であり、肥沃な穀物地帯であるシチリア島は、戦略的な要衝でもあった。シチリア島はギリシアの植民市からカルタゴのものとなっており、対カルタゴのポエニ戦争の原因となっている。 戦争の勝敗を左右したのは、カルタゴの商人たちが自分の財産や艦船を国家のために使われることを嫌がった反戦派の影響が大きい。

カルタゴ征服後、地中海交易を事実上独占したローマは寛大で、納税すれば人種を問わず交易への自由参加、身分や財産の法律での保証をした。これにより東方のアレクサンドロスの後継者の国々から、商人がローマ世界に参入した。さらにローマは、港湾や道路のインフラ開発を優先的に進めた。これらの政策により急激に経済発展し、貧富の差も拡大する。

裕福な者が私財を投じ貧困層を軍団に雇用し、遠征して外地の土地を支配していく。カエサルはその最も有力な例で、彼は遠征によるリターンを富裕層に売り込み、投資を集めた。カエサルの軍団が強かったのは、そういう投資あってのことである。

この侵略戦争の時代は経済発展が続いたが、版図を拡大し、ローマが帝国となった後は経済が停滞した。民衆の不満を恐れたカラカラ帝は、征服地の有力者に市民権を与え懐柔するとともに、彼らからの税収を期待できた。さらに、公共インフラ(道路・水道・浴場など)を整備し、雇用創出を行い一定の成果を得たが、有力者が増長して軍人皇帝の時代になる。

コンスタンティヌス帝が、カラカラ帝以後の混乱を収め再統一したものの、地球規模の寒冷化で穀物生産が減少し、インフレを伴うスタグフレーションとなった。食糧不足は北方のゲルマン人にとっても深刻でローマに侵入してくるのだが、これを防ぐため軍事予算を拡大してみたものの、結局財政が持たず、防衛自体をやめ、東の交易に有利なビザンチウムへ遷都し、西ローマを捨てるという選択しか残されていなかった。続くテオドシウス帝は、東西分割を行い、不採算部門を完全に切り捨てたのである。

…受験の世界史におけるローマ史は、人物名も多く、長く複雑であるが、こうして経済からみるとスッキリする。ポエニ戦争の原因、カエサルの台頭の理由、公共インフラが各地につくられた理由、そして東西分裂…。実に興味深く読ませてもらった。現代の状況においても有益な歴史的事実の宝庫ではあるまいか。

2025年3月22日土曜日

経済で読み解く古代史2

https://sekainorekisi.com/glossary/
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第2回。今回は、なぜマケドニアが古代ギリシアを席巻したのか、について。

マケドニアが台頭したのは、前4世紀。民主主義が軍事優先政策で形骸化して、ペロポネソス戦争を起こした都市国家群とは異なり中央集権国家であった。当初マケドニアは、南部の都市国家へ軍船用の木材を輸出し経済発展を遂げたが、本格的に台頭したのは、都市国家群が経済発展し人口増加となり、土地を持たない無産市民が新天地を求めてマケドニアに移住してきたことが大きい。前4世紀なかば、フィリッポス2世時にドナウ川流域の肥沃な地帯を得て、小麦生産が著しく増加したが、流入した豊富な労働力を木材や食料生産にあて、さらに余剰分を奴隷として輸出していた。(古代は奴隷経済とされる一例である。)やがて、常備軍を組織できるだけの財政力を得て、ギリシア全土を統一するのである。

一方、アケメネス朝ペルシアでは権力闘争が激しく、エジプトやシリアで内乱が相次ぎ財政難に陥り衰退していく。財政難のためギリシア人傭兵を安価に雇い入れたが、彼らの情報により、国王一族が宦官により毒殺される事件を知ったフィリッポス2世はペルシア侵攻の準備をしていたが暗殺され、息子のアレクサンドロスの大遠征となるのである。

ところで、「ヘレニズム」という語彙は、アレキサンドロスに心酔していた19世紀・ドイツの歴史家ドロイゼンによってつくられた。語源は、ギリシア人が自らをヘレナ神の子・ヘラネスと称していたところからである。

…マケドニアの台頭・ギリシアの統一については、人口移動とそれを可能にした食料生産が存在したわけである。また宦官は中国史の専売特許だと思っていたが、すでにアケメネス朝でもあったわけで、少しばかり驚いた。

2025年3月21日金曜日

経済で読み解く古代史1

https://tini18.hatenadiary.com/entry/2022/12/13/005849
「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第1回。この新書は実に興味深い。まずは、古代ギリシアとアケメネス朝ペルシャの通貨戦争について。

ギリシアは、穀物を自給できない(自給率は30%くらい)故に、オリーブ油やワインを生産し、オリエントの穀倉地帯と交易して補っていた。物資の交易を円滑に進めるために、アナトリア地方のリディア王国で世界初の鋳造貨幣(エレクトロン:金銀合金で琥珀のような色をしていた故)が登場し、オリエント・エーゲ海・ギリシアに鋳造貨幣圏が生まれた。交易も飛躍的に増大する。アケメネス朝ペルシャは、この伝統を受け継ぎ、ダレイオス1世が良質な金貨と銀貨を鋳造した。GSR(gold silver ratio:金と銀の交換比率)は1:13であった。インドのGSRは、1:8なので、「金安=銀高」故にインド商人は銀貨をインドに持ち帰り、金貨がペルシャに大量に流入した。金の準備高が増大し、ペルシャの国家の信用度は増した。一方、ギリシアのGSRは1:14の「金高=銀安」であった。

さて、重要なことはアテネ近郊でレイオン銀山の組織的採掘が始まり、事実上の貨幣供給都市となり、これが他の都市国家・スパルタやテーベより優位に立った理由である。銀貨の大量生産により、銀価格が下がり急激な銀安が進んだので、ペルシアの商人は、金と交換して稼いだのだが、金の流出は事実上金本位制をとるペルシャにとって看過できない深刻な問題であった。

これがマラトンの戦い(前490年)の原因の一つである。さらにギリシアで銀山開発が進み、さらなる金流出が起こり、ペルシア戦争(前480年)となる。テミストクレスは、この銀で木材を輸入、海軍力増強を進める。またペルシアから得た金を物資の調達を有利に進めた。新たな産銀で貧困層を軍船の漕ぎ手に雇い、失業率の低下、内需の拡大という景気対策にもなった。サラミスの海戦の勝利には、こういう経済的背景があったのである。

…アテネが中心的なポリスであったことは世界史で当然学ぶのだが、その背景に銀山開発があり、アケメネス朝ペルシアとのGSRとの差異が、結局ペルシア戦争に繋がっているという繋がり、目からウロコであった。こういう話を、本年度は地理の地中海性気候(穀物生産が厳しい)のところで、政経&世界史的授業(GSRの問題は幕末にもあるので日本史にまで絡んでいく。)として取り入れていこうと思うのであった。

2025年3月20日木曜日

ベッツに贈る東京D異色大谷弾

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250319/k10014754561000.html
開幕第二戦は、6-3でドジャーズの連勝となった。佐々木朗希のデビュー戦は、1回こそ150%の力を出し切って三者凡退としたが、その後制球が定まらず四球を連発し危ない場面もあった。ともかくも押し出しの失点1で三回の登板を乗り切った。評価は人それぞれだろうが、本土でのこれからのピッチングが何より大事だろうと思う。

エドマン、ピケが先にHRを打った。ここで大谷選手が打たねば誰が打つという第3打席。159キロの剛速球を会心の一撃。確信歩きしたのだが、右中間観客席のギリギリのところで観客が取りそこねてグランドにボールが戻った。慌てて大谷選手は2塁までいったが、HRの判定。カブス側はVTR判定を要求したが覆らず、なんとも後味の悪い第1号のように思えたのだった。

ところが、後でわかったのだが、東京ドームの屋根に当たって失速したらしいのだ。ややこしいことに、日本のルールならば屋根に当たった打球は二塁打であるが、これはMLBなので関係ない。それより、屋根がなかったら、どこまで飛んでいたのかわからないほどのHRであったのだ。

大谷選手は、今回失意の帰国をしたベッツ選手に開幕2試合で必ずHRを打つと約束していたと聞く。試合後も誰よりも先にベッツ選手にメッセージを送っている。この一発はベッツ選手に贈るHRだったわけだ。また脇腹を痛めたフリーマンのために、第一試合で二塁打を打った際は、(フリーマンの)モノマネをしていたし、こういう心遣いと実際の仕事がマッチしている姿は、まさに、スーパースター。感動ものである。今年もいろんなドラマがあるだろうが、頑張って欲しい。

2025年3月19日水曜日

開幕戦 コンセプトはMonster

https://x.com/Ktaka79/status/1901942227515089006
MLB開幕戦は、ベッツが帰国、フリーマンが急遽離脱という危機的状況の中、山本由伸投手と今永昇太投手の投げ合いで始まった。なかなかヒリヒリするような展開で、大谷選手は、結局今永投手を打ち込めなかった(昨季から7連続ノーヒットとなった。)。ただ、球数が多くなった今永投手が降板してから、初ヒット、二塁打とチームの士気を鼓舞し、得点に結びつけた。この辺のリーダーシップこそスーパースターたる所以。山本投手は、1失点した後、ベンチで大谷選手に「マウンドで下を向くな。」と叱られたらしく、そのおかげもあって結局5回を投げきって勝利投手になった。めでたしめでたし。

試合の方も良かったが、教師でありつつもイベント屋さんである私は、開幕の演出も気になった。開幕式の演出のコンセプトはMonsterであった。暗転後に、スポットを浴びた少年がマウンドに立っているところから始まり、彼が持つポケモンのボールがキーとなる。バックススクリーンに、ベーブ・ルースを始めとしたMLBのビッグネームが映し出され、野茂やイチロー、松井、松坂、黒田などが登場すると大歓声。そして大谷選手をはじめとしたドジャーズ、カブスの中心選手が映し出される。みんなMLBのモンスター、というわけだ。これまで、そして今のMLBと日本の選手との関わりがうまく調和されていた画像だったと思う。

照明がつくと、両チームのユニフォーム姿のピカチューの着ぐるみホーム付近に。外野にもピカチュー。最初の少年との関連で、日本の誇るサブカルチャーの演出。ドジャーズのバンダ投手がポケモンの大ファンであるというYouTubeも見たが、きっと大喜びだっただろうことは察しが付く。(笑)

https://ameblo.jp/flower-flower-food/entry-12890441612.html
このモンスター・コンセプトの〆となったのは、両チームのメンバー全員が揃った後で、日本が誇る最強ののモンスター、井上尚弥選手のプレイボール宣言であった。いやあ、素晴らしい完璧な演出である。

ところで、私は地上波のLIVEを見ていないので、MLBで7回裏に歌う「私を野球に連れてって」(Take me out to the Ball Game)は、東京ドームでも歌われたのだろうか、と思っていたのだが、主催者がどうやら流したようである。MLBにとっては重要な儀式であるので、当然と言えば当然。日本の観客はラグビーでウェールズ国歌を事前練習して皆で歌うような国民性なので、事前に説明して、歌詞をバックスクリーンに掲示すれば、間違いな歌ってくれると思うのだ。

2025年3月18日火曜日

MLB開幕戦の始球式カブスOB

https://the-ans.jp/news/516031/
MLB開幕戦の始球式は、福留孝介氏と上原浩治氏が務めることがわかった。今回の開幕戦は、カブスがホームなので、日本人OBとしてこの2人になったようだ。福留氏はともかく、上原氏は大谷投手に何かとイチャモンを付けており、因縁対決となる。来年度も日本開催という声がMLB側から聞こえてくる。ならば、次回ドジャーズがホームとなれば、野茂や黒田の登場となるのだろうか。私としては、伝統入りのイチローにやって欲しかったのだが…。

いよいよ開幕戦である。ムーキー・ベッツの欠場は残念だが、早く体調を戻して活躍してほしいと願う。ウニを食べたフリーマンも、阪神戦・巨人戦で応援歌に合わせてダンスをしていたキケも、マグロ解体ショーに感激した選手全員が頑張ってほしい。

2025年3月17日月曜日

経済で読み解く世界史

学園OBとの邂逅の後、尼崎駅の本屋で、「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)を購入した。著者は代ゼミの世界史講師だった方である。受験の世界史の専門家だが、些末な歴史の知識より、本質を学ぶために経済から考えることを提唱し、本書となったようだ。

要するに、マルクスの唯物史観にある”下部構造が上部構造を規定する”という話であるが、本書では意外なことが書かれてあった。この下部構造・上部構造はマルクスが言った言葉ではなく、「経済学批判」の中で「経済=土台(Basis)」というテーゼをもとに演繹された言葉であるらしい。

エンゲルスも「マルクス回想」の中で、「人間は、政治、科学、宗教、芸術などと関わる前に、まず食い、飲み、住み、着なければならない。(中略)ある国民またはある時代の、その時々の経済的発展段階が土台(Basis)をなし、そこからその人々の国家制度、法律思想、芸術、また宗教的観念は発展してきた。従って、これらのものもまた、この土台(Basis)から説明されなかえればならない。」と述べているが、上部構造・下部構造という語彙は使っていない、というわけだ。

…昨日は尼崎まで、以前読んでいた「帳簿の世界史」を再読しながら向かった。中世・イタリアと簿記は関係性が深いので、イタリア留学をする商学部の学生である彼にプレゼントしようと思ったのだ。帰りは読む本がなくなったので、購入したという次第だが、また書評というか自学の記録として残そうと思う。

2025年3月16日日曜日

W大・学園OBとの再会

https://news.infoseek.co.jp/photo/ntv_2025031609719723/
昨春、学園を卒業したW大の教え子と、尼崎で再会した。イタリア留学に9月から1年間行くそうだ。将来は国際ビジネスの世界での雄飛を考えているという。東京での生活や大学での学びなどとともに、学園の友人たちの様子も聞きて、楽しい時間を過ごすことができた。

よくよく考えてみると、担任をしたわけでも専任教師でもなく、2年間・週2時間の政経倫理の授業をしただけの私と会いたいと言ってくれること自体、一般的には稀有ではないだろうか。もちろん、できる限りの良い授業をしたつもりではあるが、実にありがたいことである。彼と学園の卒業生の益々の健勝を祈りたい。

さて、帰宅してYouTubeを見てみると、阪神タイガースが昨日のカブスに続いて、ドジャーズにも完封勝利した。藤川監督、なかなかやるではないか。アメリカでも話題になっているようだ。東京まで遠征したライトスタンドの応援団もさぞ溜飲を下げたことだろうと思う。

2025年3月15日土曜日

MLB開幕戦の始球式予想

https://baseballking.jp/ns/466857/
ドジャーズとカブスのMLB開幕戦で始球式を行うのは誰だろうか?ちょっと予想してみた。まずは、イチロー氏。昨年MLBと日本の野球殿堂入りしたわけで、大義名分においては申し分ない。是非、本気で投げてほしいところ。バッターは1番・大谷選手のはずなので…。

2人目は野茂英雄氏。日本のMLB進出を拓いた名投手。ドジャーズで「野茂が投げれば大丈夫」という歌まで歌われたほど。私の予想は、どちらかが最有力。

3人目は、王貞治氏。世界のホームラン王である。ただMLBとは関わりが薄い。日本ではもちろん、アメリカでも有名だし、WBCの監督で優勝もしているから、というのが理由。

2025年3月14日金曜日

いねむり総理 ごまかし知事

https://www.youtube.com/watch?v=cYq9hdA3pUI
日本国民は不幸である。本会議中に携帯をいじり、3.11の追悼式でいねむりをするような首相をリーダーに据えられている。これまでにも最低だな、と思う首相はいたが、まさにベスト・オブ・最低である。

全国的な私学も含めた高校授業料無償化が行われるらしいが、先に実施している大阪府知事は公立高校の倍率低下・統廃合の進展について、少子化の中、私学も同じ条件、半分の私学が定数に達していない、と誤魔化している。これを詭弁と言わずとして何であろう。公立と私学を同じ視線で見てはならない。両方を経験している私から見て、定員の概念が、固定化されている公立と臨機応変に対応可能な私学では全く違う。こういう詭弁がまかりとって、都構想やカジノありきの万博、西成の中華街化などの政策が進められてきたのである。さすがに、今回は府民も、国政では国民も騙されないだろう。

ちなみに私学の無償化といっても授業料だけの話で、入学金やその他の徴収金(設備費や修学旅行費用など)は無償ではない。部活も公立より絶対お金がかかる。そのあたりを見事に隠している。中国人留学生のための無償化、カジノのためという目的を隠した万博の手口である。

ところで、YouTubeでは、首相批判、万博批判のオンパレードである。内容はわかっているのだが、それらを最後まで見ずに(ムカつくだけである。)、いちいちイイネ!を押す日々である。世論を盛り上げるための、私にできる行動である。

2025年3月13日木曜日

佐々木朗希投手のこと

https://ameblo.jp/entertainmentnews111/entry-12889609550.html
佐々木朗希投手については、ローテーションを守れずロッテにも十分な恩返しもしないまま、23歳という若さでMLBに挑戦したことで、正直あまり良い印象はなかった。ドジャーズとマイナー契約したものの、開幕メジャーとなるのかも疑心暗鬼だったのだが、東京での開幕第二戦で先発するそうだ。

彼は、東北大震災で父と祖父母を失った3.11の日に、オープン戦で先発し好投した。全米でも大注目・大絶賛であった。あるYouTubeで、ある日突然何が起こるかわからない。そんな今を生きることの大切さを、小学生時代に震災で体験したがゆえに、”あと2年”を待てなかったのかもしれない、2年後にどうなっているかわかならないと考えたのでは、というコメントがあった。

私は、なるほどと思ったのだ。しかも彼は、震災後、母の親戚がある大船渡に移り、今回の山火事に対し、見舞金1000万円と寝具セット500組を送ったそうだ。決して恩知らずな若者ではない。今をなにより大事に生きること、それが彼の人生訓であるのだろう。

大谷選手、山本選手とともに応援していこうと思う。

ティラノサウルス レース

https://www.yomiuri.co.jp/pluralphoto/20220417-OYT1I50027/
YouTubeで偶然、ティラノサウルスの着ぐるみを着て走るレースのことを知った。コロナ禍で修学旅行が中止になった話から、皆が心の底から笑えるようなイベントを考えていた川本直樹さんが、地元鳥取県で始めたらしい。私は知らなかったが、日本中で大会が行われているらしい。そもそもは、アメリカのWA州の企業のイベントで、競馬場でレースをしていたという。https://www.youtube.com/watch?v=-4laZPVghR8&list=LL

https://item.rakuten.co.jp/bwear/g176/?iasid=07rpp_10095___3s-m86jgsop-au-4eccb0b6-b9cb-4532-b732-6724e01886ac
この着ぐるみ、実際に買おうと思えば簡単に買える。子どもから大人用まであって、5000円もあれば十分。レースは、成獣のオス、メス、幼獣に分かれて、70~100m走るのだが、その姿はシュールかつユーモラスである。

外国人が日本のこのレースの画像で最も驚くのが、ラジオ体操のシーンらしい。全員が同じ動作を行うことが不思議らしい。日本では小学校から習うので当然だが…。

私は運動が苦手だが、このレースちょっと出たいなと思ったのだった。いやいや、学院の体育祭の教員レースでアンカー走者に着てもらったらどうかなと…。

2025年3月12日水曜日

ラバー・グラスホッパー

https://gendai.media/articles/-/67420?page=2
久しぶりに、前野ウルド浩太郎氏の「バッタを倒すぜ アフリカで」(光文社新書)の書評を書こうと思う。私は、生粋の大阪・都会育ちであるので、昆虫は大の苦手である。カブトムシもセミもバッタも触れない。昆虫の画像も苦手なので、今日の話の主人公、アメリカ・フロリダ州の湿地に住むラバー・グラスホッパーも上記の通り。(笑)URLを検索すると、雌雄の実物の画像が出てくるので、興味のある方は参照されたい。

著者は、アメリカのバッタ研究者の元を訪れ、歓待を受けた時の話である。サバクトビバッタのフィールドワークの参考になるのではと、エバーグレーズ国立公園に行き、ラバー・グラスホッパー(直訳すると、ノロマ・バッタとなる。)に出会う。

このラバーは、身に危険が迫ると一応逃走するのだが、鬼気迫る必死さがない。ここからラバーの名がついたらしい。このバッタは毒を持っているからで、天敵に捕まると体の脇から泡状の毒を出すのである。鳥やトカゲやワニはその不味さに吐き出し、中には死んでしまうものもいるらしい。いかにも毒を持っているという目立つ体色をしてデカいのは、そのためらしい。ただ、哺乳類やヒキガエルなどには毒は効かないし、アリやクモ、カマキリなどにも効果がないらしい。

…苦手な昆虫の話だが、妙に興味深く読んだ次第。

2025年3月11日火曜日

3.11から14年

https://x.com/Yahoo_JAPAN_PR?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
あの東北の大震災から、本日で14年がたった。改めて被災された方々のご冥福を祈りたい。またこの災害時に、有名人が何らかの貢献をしたこともわかっている。俳優の杉良太郎は、炊き出しをかなりやっている。あるマスコミに「売名行為ではいか。」と問われ、あっさりと「売名行為ですよ。」と答えている。この応対は凄いと私は思う。この対応に秘められている杉の人間の大きさが、姑息で卑屈なマスコミとの見事な対比になっている。

危機的状況は、人間の真の姿をさらけ出す。佐藤優の本に、ある外交官の上司が危機に際して、床に寝転がって子供のように駄々をこねる場面が描かれていた。偉そうにしている上級国民の国会議員や官僚こそ、そんな輩が多いのではないか。

結局、苦難を乗り越えてきたか否か、人の痛みを同苦できるか否かが、問われるのだと思う。そんなことを考えた3.11。東北も能登も頑張って、今なお続く苦難を乗り越えてほしい。

2025年3月10日月曜日

玉石混交のYouTube

https://www.youtube.com/watch?v=KE9Y5PCoNAA
YouTubeは、まさに玉石混交のカオス状態である。動画タイトルが興味を引くように、内容と相違する場合も多い。こういうチャンネルは信用できないものが多い。

私が信用できると思っている政治・経済系のチャンネルは以下の3つ。

モハPチャンネル 世界の経済・金融に関する解説https://www.youtube.com/@moha-p

カナダ人ニュース アメリカ政治に関する情報https://www.youtube.com/@canadiannews_yt

妙佛 deep max 中国の政治・経済に関する情報https://www.youtube.com/@DEEPMAX

次のURLは、「玉」中の「玉」。妻から教えてもらった元WHOの獣医さんが見た世界の闇の話。チャンネル自体は都市伝説系だが、かなり衝撃的な事実が暴かれているので必見。あえて内容はバラさないでおこうと思う。https://www.youtube.com/watch?v=KE9Y5PCoNAA

もちろん政治・経済以外のチャンネルも見ているが、応援しているドジャーズ情報は「石」の確率が高い。キム・ヘソン選手はもう何回マイナー落ちしていることか。試合のハイライトこそ、真実の「玉」であるようだ。情報リテラシーは非常に重要だが、”見て後悔してしまった経験”から得ることができると思う。

2025年3月9日日曜日

大阪の公立高校志願者状況 考

https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/102859/r07_ippan_sigansya_0307.pdf
今年の大阪の公立高校の志願者状況が報道された。昨年同様、志願倍率は低い。半数の高校で全入となるだろう。私が在籍した元大阪市立の高校では、H高校が辛うじて定員を2名超えていた。T商業は定員割れ。I工業は廃校結成のようで募集すらしていないし、M高校はすでに廃校になっている。在籍していない元大阪市立の学校では、理数科・英語科をもつH高校と総合学科のSK高校、元T商業高校がなんとか持ちこたえているが、その他は実に厳しい。

利権大好き・維新の政策には裏がある。こうして統廃合をしつつ、その土地を売却するねらいがあるらしい。確かに、M高校は一等地であるし、I工業高校も駅に近くきっと高値で売れるだろう。少子化の名のもとに、全国的に実施されていくことになるのである。

後輩の先生方のことが心配でならない。公立には、優秀な新卒の教師がますます集まってこなくなることも必定。

2025年3月8日土曜日

天下一品の袋麺

YouTubeで「天下一品」の価格が上がって、「王将」とともに一般大衆の店ではなくなりつつあるという情報が流れている。私といえば、妻がラーメン嫌いなので長い事店舗には行っていない。だが、ありがたいことに、冷凍食品やカップ麺の天下一品が販売されていて、その独特の風味を味わうことができるのがありがたい。先日、妻の買い物に付き合った際に、天下一品の袋麺を発見した。おそらくは、冷凍食品のモノよりは落ちるだろうが…と思いつつ買ってみた。

意外にも美味しい。「天下一品」そのものである。冷凍食品のモノには少し劣るが、カップ麺より良い。あのドロっとしたスープ感は、やはり店舗に行かないと味わえないが、十分に「天下一品」を感じる事ができた。コスパ的に十分満足である。

2025年3月7日金曜日

神なき時代の終末論 書評

「神なき時代の終末論」(佐伯啓思著:PHP新書)の書評、第9回目。本書は、第4章の後にさらに終章がある。著者は、自由の背後にある「秩序」、民主的平等の背後にある「権威」、人権の背後にある「超越的な価値」、市場経済の背後にある「非市場的な価値」(決して市場価値にさらされてはならない価値)といった伝統的な価値があるとしている。リベラルの価値は、ともすれば伝統的価値を攻撃するので、自由が暴走し放埒となり、平等はいかなる差異も認めない不平不満の集積となり、権利の要求は増長した自己利益の隠れ蓑、市場競争は格差の挙げ句に社会秩序の崩壊を導くという持論を展開している。(他にも、多くの主張があるのだがあえて割愛。)

…学生時代、朝日ジャーナルを読んでいた私でも、納得がいくロジックである。国際理解教育の徒としては、リベラルなスタンスが学会やNGOの主流であるが、個々の事例で私のスタンスは微妙に違う。リベラルであることが正義ではない、それぞれの問題において、バランスが重要だと最近考えている。

…たとえば、環境問題。西欧主導のEVなどは、ガソリン車よりCO₂の問題があるし、太陽光発電や風力発電についても無謬ではない。環境関係企業の利権も大いに問題である。SDGsの主軸である、経済成長と環境問題のバランスが重要なのであって、環境重視が普遍的な正義だとは言えないと思っている。

…異文化理解も同様である。世界的に問題化している移民問題について、是々非々の立場で考えたい。先進国で移民が増えることは少子高齢化の中で必要だという主張に同意したとしても、受け入れる側も、移民側も、異文化的相違を十分理解しなければ大きな軋轢を生む。何より重要なのは言語能力である。(特に日本語能力は難しい言語であり、この習熟が必須だと思われる。日本語理解なくしては日本の文化・四層構造や根源感情を理解できない。)移民を受けいること自体が正義ではない。自文化の崩壊を招くような受け入れは、埼玉の事例が示すように、大きな禍根を残すことになる。

…人権問題も是々非々である。日本の集団主義が絶対的正義だとは言わないが、バランスが重要であると思う。平和問題も然り。現況の情勢を鑑みれば、国是の平和主義も、足枷になっている側面もある。要はバランスなのである。

…国会で、夫婦別姓問題が論議されている。なぜこのような論議が重視されるのかわからない。結局のところ、奈良県知事のように住民票を黒塗りするだけでは飽き足らず、戸籍自体を抹消して本来の国籍を隠したい議員がいるのではないか。国民が審議してほしいのは、減税策であり、インフレ抑制、生活の向上なのだが、政治家は北京やソウルを向いて仕事をしているように見える。私立も含めた全高校の無償化も笑止。中国からの留学生を入学させる高校への援助であるという。大阪の浪速区や西成区では、中国姓の住居が爆発的に増えている。大阪の維新などは、まさに日本を売りに出して利権を得ようとしている。中国人ビザ延長問題も、日本での高額医療を受けやすくするためで、国民健康保険にも簡単に加入できるそうだ。高額の最新医療を受けて、帰国で費用を払わず、その費用は日本人の血税で賄われるという。こんな状況下で、国際理解教育の異文化理解を安易に進めることはできない。

…本書第3章では、ユダヤ的資本主義の話が出てきたが、多くの国で労働者の給与所得が増えないのは、結局のところ企業の利益の多くを株主に配当しているからという、実に単純な話である。企業は競争の激しい金融市場で投資を得るために配当を高くする。普通でも剰余価値説(マルクス経済学の核心)で搾取されているのに、まさに資本を持つ者と持たざる者の格差を拡大し続けているわけである。リベラル派は、何よりこの核心をつくべきであろう、と思ったりしたのである。

神なき時代の終末論 第4章(2)

「神なき時代の終末論」(佐伯啓思著:PHP新書)の書評、第8回目。主にロシア正教について。

廣岡正久は、「ロシア正教の千年」の中で、ビザンチン帝国の滅亡によって精神的孤立に陥ったロシアの不安と、ビザンチン帝国の正当な後継者をもって任じたロシアの自負心とが交錯した、複雑な心理状態を指摘している。また三浦清美の「ロシアの思考回路」には、人は深い信仰を持ち、最大限の努力をして神に近づくことができるという「テオーシス(神成)」という概念が正教会で重視されたとしている。この一種の宗教的超人思想が、正教会と皇帝権力を結びつけ、徹底した政治と宗教の一体化を生んだようだ。

ロシアの宗教精神は、言語の問題(スラブ語訳の聖書)、皇帝権力との結びつきからくるナショナリズムの表出、大地・自然と魂の一体感故の神秘性といった理由から生まれ、ロシア人をして極めて宗教的な民族にしている。当然、終末論的な世界観を持ち、神の恩寵を広めるべく西欧の大航海時代と時を同じくして、シベリア獲得に乗り出している。

一方で、ロシア革命で訴えられた「万国の労働者よ団結せよ」という言葉には、啓蒙思想の一流派といより、メシア的終末論的響きを持っている、一見無神論的な装いをまとっているが、その根底には終末論的・黙示論的な狂気の熱狂があると著者は記している。

ロシアにとっては、西欧の(非西欧にとっては特殊な)政教分離や主権国家や国際法や自由・民主主義などよりも、自らの勢力圏を維持して、己の文化の核にある神聖を守り、強力な世俗権力によってロシアの力を再興することの方が重要だといえるのである。

…本日のブログの最後の段落こそがロシア理解の鍵である。西欧の影響下にある日本を含めた多くの国にとって、このロシアの思考回路を理解するのは難しい。よって、ウクライナ側に立つことになるのだが、それが正義と言い切れないところに、今回の問題があると私は思う。ウクライナ問題については、もう少し静観したいと思うのだった。

2025年3月6日木曜日

神なき時代の終末論 第4章(1)

「神なき時代の終末論」(佐伯啓思著:PHP新書)の書評、第7回目は、主にロシアのことについて書かれている。この章はある雑誌に掲載された論文であり、この章自体で完結している。このところ、トランプ外交が、ゼレンスキーと西欧諸国と激しく対立している。様々な報道や論評がなされており、このブログで考察するにはまだ早い、と思っているので、この章のウクライナ情勢に関わる部分にはふれず、ロシアの根底にあるものについてのみ要約していこうと思う。

政教分離・価値相対主義・個人主義といった西欧文化の帰結(普遍主義と称している)は、非西欧社会においては自らの文化を内から蝕んでいく。ロシアは、西欧文化の基本を形作る歴史的経過(ローマカトリック・封建制・ルネサンス・宗教改革・大航海時代・啓蒙運動・国民国家形成など)とは無縁であった。17世紀のピョートル大帝は、(後の)日本の明治政府と同様に。西欧文明を摂取して列強とならぶ大国を目指したが、そのツーリズムは、アジア的、ビザンチウム的、ロシア正教会的な古い習慣を持つ(スラブ主義の)民衆との亀裂を生み、革命に繋がっていく。

かのハンチントンは、ボルシェビキの革命は、「西欧には存在しない政治・経済制度を、西欧でつくられたイデオロギーのもとに創設した」と言っている。うまく欧化主義とスラブ主義を止揚し、革命によってロシアは、欧化主義者もスラブ主義者も西欧の後塵を拝しているという劣等感から開放され、一気に西欧を飛び越してしまったのである。

政教分離・価値相対主義・個人主義といった西欧文化の帰結(普遍主義と称している)は、非西欧社会においては自らの文化を内から蝕んでいく。ロシアは、西欧文化の基本を形作る歴史的経過(ローマカトリック・封建制・ルネサンス・宗教改革・大航海時代・啓蒙運動・国民国家形成など)とは無縁であった。17世紀のピョートル大帝は、(後の)日本の明治政府と同様に。西欧文明を摂取して列強とならぶ大国を目指したが、そのツーリズムは、アジア的、ビザンチウム的、ロシア正教会的な古い習慣を持つ(スラブ主義の)民衆との亀裂を生んだ。

かのハンチントンは、ボルシェビキの革命は、「西欧には存在しない政治・経済制度を、西欧でつくられたイデオロギーのもとに創設した。」と言っている。うまく欧化主義とスラブ主義を止揚し、革命によってロシアは、欧化主義者もスラブ主義者も西欧の後塵を拝しているという劣等感から、一気に西欧を飛び越してしまったのである。

ところで、ロシアの根源感情について、井筒俊彦は「ロシア的人間」(1953年)の中で、自然と人間の魂の間には血のつながりがある、と述べている。著者は、これは理解不可能な暗い闇、ロシア独特の陰鬱や憂鬱で、ドストエフスキーの「地下生活者の手記」に見られるようなもので、ロシアにおける自由や開放は、西欧的な理性のもとでの自由・平等・幸福追求の権利とは全く異なっている。

ロシアの歴史は戦争の連続であった。よって、ロシア人の心のなかには、常に周辺に脅かされるという恐れと、耐え忍ぶ忍耐力、一気に形勢逆転する軍事力を手に入れ勢力を拡大する「力への意思」があり、ロシア正教会は基本的にロシアを守る戦争には好意的で、兵士や武器も神によって祝福される。核兵器の使用もロシア防衛のためには認めている。

亀山陽司は「地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理」の中で、ロシアにとって戦争とは、単なる防衛でもなく、単なる侵略でもない。それは巨大な祝祭であり、国民にとって何度も追体験されるべき歴史的記念碑である、とされている。

…今回のエントリーで、最後の三段落の内容は、特に重要なロシア理解であると思う。WWⅡで最も多くの戦死者を出したのは、大祖国戦争と呼ばれるロシアであったし、ナポレオンとの祖国戦争でも、自らの被害を顧みず、焦土作戦を実施している。祝祭と呼ぶのが正しいのかどうかわからないが、そこにロシア正教の神の祝福が存在したように思われる。