http://albore.hatenablog.com/ entry/2015/10/06/085958 |
1.時系列的な理解
①トルコとロシアは、クリミア戦争などの歴史がありそもそも仲が悪い。
②旧ソ連領にはトルコ系民族が多く居住しいる国があり、トルコは同胞意識をもっている。
③WWⅠ以後サイクスピコ協定で、旧オスマン=トルコ帝国は分割された。
シリアは、フランスの支配下に入り、被差別少数派の「アラウィ派」(輪廻思想をもつイスラムだが、シーア派の崇拝するアリーを重視している。一応シーア派に分類されている。)に支配権を与えた。多数派のスンニー派なら宗主国に立てつかないだろうという思惑っである。現アサ度大統領の父親は、スンニー派をかなり弾圧している。
④WWⅡ以降、イスラムに領域国民国家が多く生まれた。産油国などは君主制のもと国民国家化した。共和制の国も大統領の権限が強く、専制的である。
⑤アラブの春がチュニジアから始まり、シリアにも飛び火した。イスラームは神に服従する神定法の世界なので、人定法の民主主義とはなじまない。アラブの春は結局チュニジア以外では失敗した。
2.イラクにおけるISの誕生
①アメリカのイラク侵攻で、スンニー派のバース党とフセインは除かれ、シーア派が政権を握る。このシーア派に反対するスンニー派の伝統的復古主義者とテクノクラートのバース党の残党が組んだのがIS。彼らはムハンマドの後継者である「カリフ」を名乗る。(オスマン帝国崩壊以来、この地位は空白だった。)カリフには政治的権力はないが、カリフに忠誠を誓うことで、その支配下に属することになる。(中東やアフリカでISを名乗る組織が出てくるのは、そういう理由)故に、イスラムの国(神の法≠コーランとハディースを唯一絶対の法とする、カリフに忠誠を誓う人々が住む領域で、行政などは各自が神の法に従うのみ。)の地域拡大に走る事になる。さらにシリアに拡大したことは重要な意味がある。すなわち、世界が認める欧米の国家の基本概念・領域国民国家を越えて、ISが存在するという、普遍的と思われている欧米の概念を脱構築したからである。
②アルカイダは、主に欧米先進国への攻撃を主目的としているイスラム復古主義者であるが、ISは実際にカリフ制のもとにイスラムの理想を実現しようとしている。ISの主なる敵は、領域国民国家に成り下がった(という見方をしている)イスラムの国々であり、さらにカリフ制を認めないシーア派(イランなど)である。
3.欧米とロシア・トルコのスタンス
①欧米は、ISによりジャーナリストなどが殺害され、さらにISが先進国からも兵士をリクルートしていることに危機感をもっていた。今回のようなパリのテロは、本来アルカイダのテリトリーであるが、これからもISのカリフに忠誠を誓った組織や個人が行う可能性は十分にありうる。
②ロシアは、欧米と異なり、キリスト教国でありながら、いまだに帝国といったほうがわかりやすい。新帝国主義という概念があるが、グローバル化の中で国益を最大限拡大しようとしている。したがって、欧米のようなシリアの民主化という理念的な問題より、シリアにあるロシア軍港の権益を守ることが重要である。したがって、アサド政権が、いかに人道的に問題があることを行おうと支援することの弊害にならない。(このあたりは中国と同様である。)
③トルコは、イスラム国でありながら、最も早く政教分離した領域国民国家である。民主主義を是としている。(現大統領は、かなりイスラム化政策を進めていて、旧ソ連のトルコ系の共和国、~スタンと称している国々と連携を図ろうとしている。:これはユーラシア構想で覇権拡大を狙うロシアとは相容れない。)しかもNATO加盟国であるが、EUには加盟させてもらえないという微妙な立場にある。国内には、イラン・イラクにも居住するクルド人問題を抱えている。クルド人は、トルコ系ではなく、WWⅡ後、結局独立できなかった民族で、今なお独立への意志は強い。(ロシアにおけるチェチェン人の立場に似ている。)
4.シリアの構図
①最も大きな構図 IS 対 領域国民国家群
②アサド政権をめぐる構図 アサド+ロシア+イラン 対 反政府勢力+欧米+トルコ 対 IS
③小さな構図 ロシアは、反シリア政府勢力下の義勇兵チェチェンを掃討したい。一方、トルコは、クルド勢力を掃討したい。
5.トルコとロシアの対立
こうしてみると、トルコとロシアは4.の①では味方だが、4.の②では必ずしも味方ではない。撃墜事件は、ロシアがトルコの支援する反政府勢力を空爆した際=4.②に起こったと推測される。トルコとロシアが実際、戦争になることは考えにくい。経済的なデメリットが大きすぎ、すぐにグローバル化し、世界的経済混乱を招くからである。戦争は、そういうデメリットの少ない周縁(途上国における内戦など)以外は、もうありえないのが現状。
…と、短くしたつもりが、メモというには膨大なものになってしまったのだった。(笑)
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