カリモジョン(ILCAA波佐間長崎大助教授) |
この本730ページもある。すこぶる重い。(笑)第一編と第二編に分かれていて、第一編は主にカラハリ砂漠に住むブッシュマンについて書かれている。とりあえず第二編の『乾燥帯アフリカの牧畜民』から読むことにした。先日京大の公開講座でお話を伺った太田先生が、第二編の序を書いておられる。私はもうそれだけ読んで、ワクワクしたのである。最も通勤電車で730ページもある本を片手で持って読むと、手の方もワナワナしたのであるが…。
初日の今日だけでも、かなり赤線を引いた。京大の牧畜民研究の先駆者伊谷純一郎先生が始めて彼らと会った時のことをこう書かれている。『私は今までに言葉の通じないいろんな部族の、多くの人々と出会ってきた。言葉は通じなくても、おたがいに人間としてのきわめて自然な感情の疎通があって、本当に困ったという体験はなかった。しかし、目の前に突っ立ていたカリモジョンの男と私の間には、そういったコミュニケーションのための共通の基盤さえもが失われていると私は思った。そこには、いかんともしがたい断絶があることを、私は感じていた。』(伊谷:ゴリラとピグミーの森1961)太田先生は、さらにこう書かれている。『他者に対するカリモジョンのこうした特徴的な態度は、東アフリカにおけるほかの牧畜社会の人々にも共通するものであるように思われる。』…。西アフリカの遊牧民、ブルキナのゴロンゴロンで会った牧畜民トゥアレグのことを思い出す。首都のワガでみるブルキナベに比べて、彼らの眼差しは、同様にきびしいものだった。
この牧畜民の特徴について、ゴールドシュミットという研究者が、心理学的な研究も踏まえ、『東アフリカの牧畜民は農耕民と比較したときに、①情動を開放的に表現する、②対人関係において直接行動を取る、③独立心が旺盛である、④それにもかかわらず社会的な団結を示す、⑤つよくて明確に定義された社会的な価値観をもつ、という5つの特質を持つ。』とし、独立指向症候群と呼び、それは個人のパーソナリティである同時に、牧畜社会の制度上の性質ともなっており、この特質は乾燥地域において家畜群に依存して生活するために不可欠な適応様式との関連において理解できると論じている。だが、この議論は、つよく環境決定論的であるし、独立志向症候群を太田先生自身も人々の家畜観という観点から説明しようとしたが、十分な解釈をあたえたとはいえなかったと書かれている。私などは、①から⑤の指摘にすぐに納得してしまうが、…なるほど、学問というのは峻厳なものだと改めて教わった気がした。
面白そうな論文がこのあと16本も並んでいる。イヒヒ。私の顔が普段以上に、ゆるんでいるのは、きっとそのセイである。良い本に出会えるということは、人生の至福である。(笑)
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