マレーシア国王は、29日、下院の過半数が支持すると判断したムヒデイン元内相を首相に指名した。時事通信によると、マハティール氏辞任からの混乱状況は以下のようだ。
1.マハティール氏は、先日(2月24日)私がエントリーしたように「アンワルおろし」のため辞任した。27日、マハティール氏は暫定首相として、3月2日に特別議会を開き、新首相を選出すると発表していた。この時点では勝算があったようで、続投の可能性も示唆していた。
2.当初、アンワル支持派の希望連盟と、希望連盟から離脱したPPBM=事実上のマハティール支持派に、最大野党で前回総選挙で政権を失ったUMNO(ナジブ元首相も所属している/マハティール氏もアンワル氏も以前所属していた。)がからんで、次期首相の座を争うことになったが、二転三転する。
3.まず、PPBMがマハティール氏ではなく、事実上の総裁であるムヒディン元内相を推すことになり、UMNOを味方に引き入れた。慌てた希望同盟は、アンワル氏を推すのを諦め、マハティール氏を推すことに変更。この時点で、アンワルvsマハティールから、マハティールvsムヒディンになっている。
4.キャスティングボートを握ったのは、サバ・サラワクの地域政党であるようだ。
5.3月1日に国王が、ムヒディン氏の任命を行うことが発表されたが、マハティール氏は過半数の支持名簿を示し、異議を唱えている。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020022900614&g=int
…現在のところ、日本のWEB記事(日本語表記)で判明していることはこれくらいである。まさに、「政界は一寸先は闇」という話である。いつのまにか本命・アンワル氏は降ろされてしまった。そしてマハティール氏の思惑も外れてしまったわけだ。
…私見を述べると、マハティール氏は唯一読み違いをした、と思っている。それは、3月2日に特別議会を開くと言ったことだ。先日エントリーしたように、国王と首相、議会の関係は、憲法上実に微妙である。国王は内閣の輔弼を受けるし、議会の状況を見極めて首相を任命する権利を有している。もし、特別議会=日本で言えば特別国会の首相指名選挙を行うと、国王のこの特権は、この前例から有名無実になってしまう。国王は、いや統治者会議=スルタン会議(この会議で国王は5年ごとに互選され輪番制をとっている。したがって国王のバックには統治者会議が厳然と存在する。)は、それを退けようとしたのではないか、と思うのだ。マハティール氏はカリスマである。その影響力は極めて大きい。彼が特別国会の開催を口にしたら、実際そうなる可能性は高い。しかし、国王=統治者会議はそれをゆるさなかった。よって、(支持議員数が拮抗しており、たとえマハティール支持が多くても)ムヒディンを選んだ、というのが私の推測である。
…さらに推測を続ける。現在のブミプトラ政策を推し進めた最大の功労者は、「マレー・ジレンマ」を書いて以来のマハティール氏であるといえる。第2代・第3代首相をささえ、第4代首相となり、これを推進してきた。マレー系と中華系・インド系の経済格差はかなり縮小した。始めたのが自分なら、終わらせるのも自分であると氏は考えていたのではないかと私は思っている。
先般の国連人種差別条約批准騒動(マレー系の大反対にあって挫折した。)で、先進国入りをめざすためにはブミプトラ政策が足かせになっていると氏が考えていることが垣間見えたのである。マレーシア憲法下では、このブミプトラ政策を廃止する事は至難の業である。最大のネックになるのは、統治者会議=スルタン会議の承認が必要であるからだ。スルタンは、各州のムスリムの保護者である。マレー系に不利なことを是認することはありえないからだ。マハティール氏は、今回の件で特別国会を開き、再選されることで、この軛(くびき)を脱する第一歩としようとしたのではないか、そして国王=統治者会議はそれを阻止した、と思うのだ。
…「アンワルおろし」と「統治者会議の軛(くびき)を脱する」という一石二鳥の手が瓦解したというのが今回の政変の本質だと私は思う。おそらく国王のムヒディン首相任命は動かないだろう。新首相がどう舵取りをするか。さらに注目していきたい。
2020年3月1日日曜日
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