昨日のエントリーと関係するのだけれど、平和学習や日本近現代史の中で、中国や朝鮮半島、他のアジア諸国で、日本が関わった反省すべき醜い行為についても、きちんと学ぶべきだと私は思っている。何事も「水に流す」ことを美徳と考える日本人の国民性には合わないけれど、アジア諸国と真摯に共生していくことを目指す地球市民には必要不可欠な歴史的な学習であると思う。
だいぶ前に「蚤(しらみ)と爆弾」(吉村昭・文春文庫/4月10日発行)という文庫本を手にとった。タイトルだけで、731石井部隊のことを書いた本だとわかった。中国・満州・ハルピン郊外で防疫給水を本来の任務としていた石井という軍医が中心になった細菌戦部隊が731部隊である。森村誠一の「悪魔の飽食」をはるか前に読んだ経験があるからである。この悪魔の飽食は、様々な毀誉褒貶のある本で、ここに書かれてあることが、どこまで事実なのか、極めて不明瞭になっている。この中で、ペストに感染した虱を陶器製の爆弾に入れて落とす計画の話が出てくるのだ。
著者の吉村昭氏は、この731部隊を「小説」として書いている。おそらくは、膨大な数の証言をもとに書かれた事実上のノンフィクションなのだが、あえて主人公を仮名とし、石井の名前も出していない。細かな人物名も全くと言っていいほど出てこない。悪魔の飽食の二の舞を避ける意図があると思う。731部隊の話は、今も極めて微妙な問題であるからだろう。
途中、長い長い日本初空襲の話が出てくる。どういう関係か訝しんだのだが、米空母が陸軍の爆撃機を搭載し、日本で爆撃した後中国軍の基地に着陸する計画だったという話であった。このことが、中国の基地攻撃に繋がり、本格的な細菌戦の実施に繋がるのである。ただし、虱入の陶器製爆弾は使われていない。これは対ソ戦に使用される可能性があったようだ。
悪魔の飽食が、主にマルタ(と呼ばれた中国人・ソ連人などの囚人)への人体実験を扱っているのに対し、この本では粛々と、時代背景とともに、731部隊の動きを総合的に追っている。著者の文体に奇妙な冷静さを感じるほどだ。
近々アウシュビッツに向かう身としては、改めて日本版SSの姿を再確認したかったわけである。ホロコーストは、決してヨーロッパだけで起こった惨劇ではない。戦争やナショナリズム、傲慢さが生み出す人間のもつ「業」のようなものの存在を再確認した次第。
2015年7月10日金曜日
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