イスラーム法学派の分布図 |
まずアフリカのイスラームの宗派について。こういう資料は初めてである。西アフリカ(とマグレブ)は、スンナ派マーリク法学系。東アフリカはスンナ派シャーフィー法学系である。いよいよ、イスラームも法学派の違いで見る時期にきていると私は思う。もちろんイスラームは初心者に等しいので、本書と様々なWEBの資料を見比べて、およそ次のような違いがあるようだ。
西アフリカ:ハディース(ムハンマドの言行録)を最も重視する。スーフィズム(神秘主義)の影響が強く内面的に追求する。既存の信仰・風俗をイスラーム信仰に取り入れることに寛容である。したがって異教徒の改宗が容易。
東アフリカ:理詰めの法解釈を行う。地域の慣習に依処することは少ない。
…ケニアではあまりムスリムに合わなかったが、ブルキナではわりと接した。サヘルへの旅ではキリスト教徒と墓地が共同化されていたりして、意外な感じがしたのを思い出す。経験的になるほどと思うこともあるわけだ。
さて、イスラーム経済の話である。統計データの蓄積と計量経済学の進歩にともない、宗教と経済成長の関係を検討する研究がされているそうだ。結論的に述べると、あの世の存在を信じる人の比率が高い国ほど経済成長率が高く、集会礼拝へ参加する人の比率が高い国ほど成長率は低いという。一国における特定宗教の比率を変数に加えると、イスラーム教徒の比率が高いほど経済成長率は低くなるそうだ。これは、中世までに構築された社会経済制度が近代以後の資本主義経済システムに適合しなかったことが指摘されている。シャリーア(イスラム法)に基づく分割相続制度が資本蓄積を阻害し、大規模生産体制が発達しなかったというのである。
イスラーム経済とは、シャリーアの教えに適合した経済活動であり、神の規則に従う故に倫理観をもつ経済活動だといえる。コーラン全6226節のうち経済活動について約1400節言及されている。誠実な商取引が称揚されている。この世の全ては唯一神の被造物であるから、究極的に神の所有物である。正しく使用するかぎりこれを占有することが認められる。なにより、イスラーム経済の特徴としては、ザカート(喜捨)とリバー(利子)の禁止が挙げられる。また、先日(6月1日付ブログ参照)エントリーしたワタフ制度も公共財の供給手段として重要である。
現在注目を浴びているイスラーム金融については、明日エントリーしようと思う。
ご無沙汰してます。
返信削除この話題は少しお話ししないといけませんね。西アフリカの話だけですけど。
西アフリカのハディース重視、というあたりで、ものすごく限定された地域の話をされているのがわかりました。セネガル、マリ、ニジェールあたりでは聖者信仰(よくスーフィズムと呼ばれるものです)が前景化されていて、確かに「Cheikh」と呼ばれる宗教職能者は「ハディース」に忠実ですが、民間レベルでは決してそんなことはありません。現在のブルキナファソもマリやニジェール、ナイジェリアのイスラームと連続していますが、このあたりとはまた少し雰囲気が違いますね(お墓の話にもありますように)。
しかし、この辺り、はっきりしたことをお話しできないのですが、これは、ジハード期以降、欧米の植民地化以降の西アフリカ・イスラーム(史?)についてはほとんど先行研究がないためです。なので、「西アフリカの…」と語る土屋さんがどんな資料に当たられたのかよくわかりませんが、おそらく別の場所で見ている僕などはずいぶん違う話をしてしまうわけです。
フランスやカナダに少しずつ研究者はいるのですが、日本ではこれをやっているのが、僕の研究仲間だけ。いま、何とかオーガナイズして少し大きな流れにしようと思っていますが、まだまだ時間がかかりそうです。
荒熊さん、コメントありがとうございます。ポーランドに行っていたので返信が遅くなりました。今回のイスラーム分布の話、当然ステレオタイプで推し量れないと思います。アルジェリアのらくだを食べる人もブルキナべの中にはいますものねえ。民間レベルでハディースに忠実とは言い難いと思います。ほんと、様々な宗教における信仰心の厚浅は差が激しいと思います。
返信削除このところ、イスラームの方にも妙に向学心がわいています。
今回のユダヤ人不在のポーランド・ユダヤの旅でも、いろいろな発見をしました。とはいえ、徘徊埓何見です。そんなものなのでしょうねえ。7月31日、日にちが合えば行きたかったです。残念。