2015年6月1日月曜日

中田考氏最新刊より 「ワクフ」

イスラエル・アッコーのモスク http://4travel.jp/travelogue/10608665
中田考氏の最新刊「私はなぜイスラム教徒になったのか」(太田出版/5月25日発行)の中で、「ワクフ」という語の話が出てくる。イスラムのモスクは、寄進者が土地を購入し、建設費を負担し、神に奉献し、所有者の移転を永久に凍結するのだそうだ。したがって、モスク建設は基本的に個人の寄進によるものだといえる。スルタンやカリフのような権力者が寄進することはあっても、基本的にはあくまで個人。中央集権的な組織とはかかわらない。慈善事業のために寄進された財産や建物や土地は「ワクフ」と呼ばれ、イスラム経済において大きな位置を占める。ワクフは「止める」という意味で、ワクフとなった土地の所有権は永遠に本人に停止される。だからいったん建設されたモスクは壊すことができないわけだ。

近代以前はイスラム世界の土地は半分位がワクフであったのだが、近代になりイスラム世界が国民国家システムの中に取り込まれると、ワクフの国有化が進む。ワクフが国有化されるということは宗教が国家の管理下に入ったということになる。自立性が失われてしまうのだ。エジプトにはワクフ省という役所があり、そこに登録されていない人は説教も禁じられ、説教の内容を役人がチェックすることもあるとのこと。

ただし、シーア派のイランではワクフの国有化がうまくいかなかった。当時のパーレビ国王もワクフの国有化を実現し、宗教を骨抜きにようとしたのだが、ワクフの管理権をもつウラマー(イスラム学者)たちが断固として抵抗し守り抜いた。イラン=イスラム革命が成功したのはワクフの国有化がなされず宗教の力が維持されたことが大きな理由の1つらしい。

…こういう専門的な話は、とても高校の学習内容では出てこない。実に勉強になった。この政教分離という概念も、そもそもキリスト教的な問題である。やはり、世界史学習における一神教の重要性は動かしがたい。

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