2022年7月16日土曜日

松岡正剛 国家と「私」の行方

市立図書館で、大前研一を返却して新たに松岡正剛を借りてきた。「18歳から考える~国家と「私」の行方」東巻・西巻という2冊である。さっそく興味深い記述があった。第1講・歴史的現在と編集力の後半、日本は日本を同編集すべきかー18歳からの歴史観の部分である。長くなるが、以下、原文のまま抜粋。

現在日本は、1951年9月8日に日米間で調印されたサンフランシスコ講和条約をもって、敗戦直後からのアメリカの占領統治を脱して「独立」したということになっています。このとき同時に結ばれたのが日米安全保障条約と日米行政協定です。以来、日本は強力な安保体制の中に入りっぱなしです。日本中にアメリカ軍の基地があり、その約75%が沖縄に集中することになったのは、もちろんアメリカの軍事的地政学的な判断によるものです。それゆえ、これによって日本はあきらかに「アメリカの傘」の中にいるままになったのだから、果たして真に「独立」しているのかどうかも疑わしいという見方も成立します。

私も半分くらいはそう思っています。日本はアメリカの「属国」だろうとか「51番目の州」だろうなどとは言いませんが、サンフランシスコ講和条約を読む限り、そもそも独立国の条件である自治権と外交権のうちの、自治権しか認められていないようにも思えるのです。これは、苫米血英人(とまべちひでと)さんの翻訳の受売りですが、講和条約の日本語訳は「連合国は、日本及びその領水に対する日本国民の完全なる主権を承認する」となっているので、一見独立が認められたと読めるのですが、訳し直すと「連合国は、日本の人民による日本とその領域の十分なる自治を認める」となって、自治権だけが承認されていることになってしまうというのです。ちなみにこの段階では沖縄はアメリカの施政権のもとに管理されているので、日本には入りません。

が、それはさておくとして(本当は「さておく」わけにはいかないのですが)、その後の日本はめざましい「復興」をとげて高度経済成長を達成し、少なくとも経済的には「自立」している経済大国になったとみなされてきました。エズラ・ヴォーゲルは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とさえ褒めた。(ママ)でもはたしてそうなのでしょうか。日本の政治とと経済が自立しているのかといえば、いささかあやしいと言わざるを得ません。そのことのティピカル(典型的・代表的)な例が小泉内閣時代の「郵政民営化」にあらわれているのです。当時、諸君が子供だった時期、日本は「構造改革」をはたそうとしたのですが、そして」その目玉として「郵政民営化」に着手したのですが、それはアメリカのシナリオ通りのままだったのです。

アメリカが1970年代に入って、ドルショックとオイルショックを受け、プラザ合意に向かってドルを切り下げていったのは、対日貿易赤字が大きな原因でした。そこでアメリカは一連のドル安定政策をとったのですが、それでも日本市場へのアメリカ製品の輸出はいっこうに伸びません。アメリカはこれは日本の保護主義が障害になっていると判断して日米構造協議という折衝を始めました。日本がバブルに浮かれていた1989年のことでした。クリントン政権のロバート・ゲーツCIA長官は「これからはCIAの業務の4割を経済分野に注入し、その中心を日本に向ける」と言っていた。(ママ)まずは、大店法を改正してアメリカの小売が日本に入りやすくし、1993年にはクリントン大統領と宮沢首相が日米包括経済協議で合意すると、翌年からは「年次改革要望書」が毎年アメリカから日本に突きつけられることになります。じつは、この中身がそのまま「日本の構造改革」だったのです。建築基準法の改正、司法制度改革(裁判員制度の導入)、労働者派遣法の改正(人材派遣業の規制緩和)などが次々に要望書通りに着手されていったのです。それでもアメリカ側からするとこれだけでは大きな金融資産が流れ込んでは来なかった。アメリカのアテが外れます。そこで目をつけたのが、日本には総額350兆円が郵便貯金と簡易保険に眠っているということでした。要望は「日本の郵便事業は外貨の参入を妨げている非関税障壁なので、構造改革によって民営化するべきだ」というふうになります。この要望に堪えたのが小泉郵政民営化改革でした。

なぜこんな、話をあえてしたかといえば、今日の日本は日米安全保障条約と、この構造改革路線の上に完全に乗っかっているからです。ついでにいえば、この郵政改革のあと、アメリカが要求してきたのは医療分野と保険分野の構造改革でした。これをいま進捗させようとしているのがTPP交渉です。すいぶんはしょって説明しましたが、このような日本の現状から私達は世界と日本の現代史を展望しなかればならないのです。もっと端的にいえば、現在の日本はアメリカの地政学的戦略にほぼ閉じ込められた状態で、新たな編集的展望を考えるしかないのです。最近集団的自衛権を中心とした安保体制の改変が議論されているのも、この流れのうえでのことです。

注:この本は2015年12月発行。上記の医療・保険分野の構造改革はトランプ政権がTPP不参加としたため一応流れた。さらに集団的安全保障については(だいぶ修正が加えられたが)アメリカの要望に沿ったカタチで閣議決定された。

…私は以前から、日本は51番目の州だと自虐的に表現してきたので驚くことはないが、郵政民営化については、小泉の田中派・郵政族つぶし=選挙での集票力低下が最大の理由だと思っていた。ちょっと驚いた次第。

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