下川裕治の「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦(新潮文庫/本年4月1日発行)を読んでいる。何度か書いているが、私は東南アジアにはあまり属性がない。バンコクとシンガポールの空港しか知らない。東南アジアの情報はだいたい下川裕治のバックパッカー本によっている。新刊の文庫が出たら、すぐ買って読むようにしているのだ。これはもう習慣である。(笑)
下川裕治の本はすこぶる自虐的である。私と同世代ながら、貧乏旅行を続けていることに誇りを感じていないらしい。私などは、多少の金と暇があれば下川裕治のように貧乏旅に出たいと思っている。ただ、本で追体験してみると、やはり年齢的にもかなりキツイだろうなと思う。今回の本は、東南アジアのマイナーな陸路の国境を超えていく旅である。もちろん夜行バスが中心である。行間に、教材研究に役立ちそうな情報が含まれている。そんな情報を少しエントリーおきたい。
東南アジアの洪水認識
日本では、洪水という急な増水であるが、メコン川などの洪水はゆっくり増水する。極めて現地の人はのんびりかまえているということ。昔は高床式の住居が中心だったが、タイなどでは豊かになった関係で1Fに自家用車があったり農業機械が置かれていたりするし、また欧米的な住居に変わり、その被害が拡大していること。カンボジアでは、かなり大らかで笑顔で洪水の中、中洲で酒盛りしていたりする(日本から見れば)不謹慎者もいること。(笑)…こういう観察眼は下川裕治本の魅力の一つである。
ディエンビエンフー
この本には、ディエンビエンフーの街のことが書かれていた。私がこれまで読んだ(下川裕治以外も含めて)紀行本でおそらく初めてではないかと思う。WWⅡ後、宗主国だったフランス軍の要塞にホー・チ・ミンの軍が挑み歴史的な勝利を得た、あのディエンビエンフーである。街全体が軍事公園のようになっているという。ここで、下川裕治は書く。
ディエンビエンフーでベトナムはフランスに勝ち、その後ベトナム戦争でアメリカに勝った。政府はこの勝利を社会主義の勝利ととらえた。その後大きな代償を払うことになる。戦争というものは敗戦国を悲惨な状況に陥れてしまうが、戦勝国もまた大きな負担を背負ってしまうものらしい。ベトナムはカンボジアに侵攻した。そこには中国の覇権主義への対抗という軸はあったものの、戦争に勝ったという自信に裏打ちされた選択であった。ASEAN諸国はベトナムへの経済制裁に舵を切る。ベトナム経済は破滅寸前まで追い込まれていくのだ。ドイモイという市場経済の導入は、国民にとってはやっと命が繋がった政策だったが、社会主義を標榜する政府にしたら苦渋の選択だった。
…ディエンビエンフーは、下川裕治にとって、活気を取り戻したベトナムの中で、(その対極にある)社会主義の勝利を背負わされた街と感じられ、市場経済との不協和音を感じる場所でもあったわけだ。
…この本、タイからカンボジア、ベトナム、ラオス、タイ、そしてミャンマーへと巡る旅を描いている。もう少しエントリーしたいこともあるので、つづく。
2015年4月12日日曜日
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