国際理解教育学会の事典の原稿を書いている。まず、定義をしなければならないのだが、「国際理解教育におけるシミュレーション・ゲーム」の定義で、最も近いのは、”グローバル・クラスルーム”(D・セルビー/G・バイク共著、明石書店)の用語集であった。地理のシミュレーション・ゲームを集めた”シミュレーション教材の開発と実践”(山口幸男編著、古今書院)にも定義があったが、やはり「地理の」という枕詞がつき、若干違和感もあった。うーんと唸りながら、この本を見ていると、林敦子氏の『西アフリカの遊牧民ゲーム』というのが気になった。(ずいぶん前に買ったので、忘れていたのだった。)ナイジェリアのフラニ族のシュミレーション・ゲームである。この教材は、”Patterns in Geography Book2”にあるグループ学習の教材だそうだ。彼らは、牛を財産とし、よほど歳をとるか自然死でないと肉はとらない。雌牛からとれたミルクやバターをマーケットで売り、トウモロコシを手に入れる。ツェツェ蠅と干ばつを避けながら移動する。これをシミュレーション・ゲーム化してある。
この画像は、私がこれをエクセルで再構成したボードである。生徒は、違う色の色鉛筆で3コマずつ進み、サイコロを振るしくみだ。原版とは少しだけ変えてある。市場での出来事の出目4・5・6は私の思惑が入っている。それは以前作ったゲームの名残である。
この遊牧民という存在は、私も気になっていて、以前大失敗作のシミュレーションゲームを作ったことがあるのだ。湖中真哉氏の「牧畜二重経済の人類学―ケニア・サンブルの民族誌的研究」 を読んで、これに極めて忠実なゲームを作ったのである。ケニアのサンブルという遊牧民の研究なのだが、これが無茶苦茶おもしろい。サンブルは、牛は財産、ヒツジやヤギは財布という感覚である。牛も雄牛と雌牛では価値がちがう。金やヒツジ・ヤギとの交換レートも決まっていて、その辺を理解させたくてモノポリーを土台に作った。莫大な牛(雄と雌の2種類)、ヒツジ、ヤギのカードや、ラッキーカード、アンラッキーカードなど、とにかく忠実にやろうとすればするほど複雑になっていった。昨年3月に卒業した生徒が1年の時、地理Aで一回やったきり、社会科準備室で眠っている。
シミュレーションゲームをつくるのは、この辺が難しい。現実に忠実すぎるとダメ。また現実を反映させないと意味がない。その手加減(数値的な部分も含めて)が命なのである。おそらく前述の遊牧民ゲームは、 家畜のえさを求めての移動、ツェツェ蠅のリスク、干ばつのリスクを主題に選択したに違いない。本当は、フラニ族もヒツジやヤギを連れていると思う。そこはゲームのやりやすさのため、あえて切り捨てたはずだ。
結局、原稿執筆は進まなかったが、実際ゲームボードを作ってみて、実は、この現場での教育実践者である私の気づきと学びが、事典を書く上で必要なことだったとわかった。こういう切り口で、他のシミュレーションゲームも考察しつつまとめて行こうと思っている。
Tsujiさんのような方がいると文章の書き甲斐があります。ありがたいことです。
返信削除それにしても…「ナイジェリアの」フラニなんですね~。ナイジェリアと言うと「イボ、ヨルバ、ハウサ」が3大民族と言われているのですが。まあ、西アフリカ全域にかなりの数いるはずですが、あんまりイメージが湧きませんね…
荒熊さん、コメントありがとうございます。さすが専門家です。テキストには、西アフリカ全土に拡がっているフラニの分布地図がありました。わりと細かい紹介も載っていました。もちろん、”Patterns in Geography Book2”の翻訳らしきものです。
返信削除