ここで、著者が中尾佐助の話を持ち出す。中尾氏は、京大の今西錦司等に薫陶受けた探検家気質の学者で「秘境ブータン」の著者である。ここには、100年くらい前まで、敬虔な仏教徒であるブータン人が毒矢で低地インドの民族を襲い奴隷として連れ帰っていたことが書かれている。仏教=平和主義というのはフィクションで、チベット仏教圏では仏権政治だった故に戦争を指示するのは僧侶だったわけだ。
仏教は殺生を嫌う。タイなどの上座部と比べて、チベット圏・日本・朝鮮などでは、屠殺が忌み嫌われてきた。ブータンでも、屠殺関係の被差別民が存在した。しかし、オックスフォードに学んだイギリス的教養人第三代国王は狩猟が大好きで、獲物の解体役として屠殺職人をお供に加えた。一緒に行動するうちに、その男が優れた知性の持ち主であり、何ら差別される理由はないとして、差別禁止の令を出すと主に、近臣に取り立てた。これは大きな効果を産んだ。被差別民開放という面では、仏教=GNHではないという興味深い話である。
ブータンでは化学肥料を使っていない。世界最先端の環境立国と呼ばれる理由の1つだが、これはもともと環境とは無関係で、第三代国王が作物増産のため化学肥料の導入を考え、中尾氏に相談した。この時、「外国に依存してしまうからやめた方がいい。」と言われ納得した故である。後に中尾氏の弟子の西岡京治氏がブータンJICAの先駆けとして、化学肥料や農薬を使わない伝統的農業の発展を進めた。
ブータンのGNHは、仏教、近代化、国防、環境などを総合的に判断し、三代目・四代目の国王が個別に実施した政策の集成だといえるわけである。…なるほど。
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