結局のところ、ポストウクライナ戦争の世界は、これまで通りのリベラル資本主義・アメリカを中心とする西側につくか、権威主義的資本主義の中国(共産党)につくか、といった世界である、というのが両者の結論である。ビューリサーチセンターによる米中両国への好感度の比較調査では、まだアメリカの方が高いが、中国の好感度の方が高い国も中東などでいくつかある。これは中国が好きというよりアメリカが大嫌いであるといえる。(先日のサウジとイランの国交再樹立のように、トランプ時代のアブラハム合意は梅田政権になって、信頼は急速に瓦解している。)
ところで、ハーバーマスは、近代を「未完のプロジェクト」とし、未完ゆえに自由や平等に関して綻びがあるとしている。しかし、近代=リベラル資本主義は、本質的に未完であるとしたらどうだろうか。国内外での差別や移民の冷遇、途上国への構造的暴力など、中国の「反社」的な非人権的政策やウィグルへの人権侵害と変わらないのではないか。もちろん理念としては、リベラル資本主義の方が勝っていると思われるが、その構造的欠陥をグローバル=サウス側は実感しているといえよう。
ここで、大澤氏はマルクスの「自由、平等、所有、そしてベンサム」の言を出す。自由・平等といった近代の基本的理念が、私的所有とベンサムを加えた時に自由も平等も形骸化し、さらに一種の化学変化が生じアンチテーゼ化するということである。…「ベンサム」というのは、快楽計算を提唱した英の功利主義哲学者である。(画像参照)なるほど、と私は膝を叩いた。実に上手いレトリックだと思う。
これに対し、橋爪は反論する。前述の「反社組織」的な中国が、権威主義的資本主義を行うことに直接文句はないが、先進国が中国を利用して競争優位を得たり、利潤を得たりすることに問題がある。西側の価値観から見て大変問題がある社会運営をしている国があれば、その国とは交際しない。相手は反社なのだから合理的行動であり、デカップリングが必要だと主張する。
橋爪氏の結びの言。アメリカの資本主義は奴隷制と骨絡みになっていた。ある時決断して奴隷制と絶縁した。それは、儲かるからではなく、自分たちの資本主義、政治社会のあり方に関する倫理的な決断だった。権威主義的資本主義は、奴隷制の現代版である。人権も自由も平等も良心の尊厳も無視しているのだから、世界の資本主義がそれと絶縁できるかが人類の未来がかかっている。ポスト・ウクライナのグローバル世界は、この目標に向かって、苦しい前進を続けていくことになるであろう。…100%同感である。
…中国の「反社」的な権威主義的資本主義は、おそらく近々デカップリングによる海外からの需要減と不動産バブルと金融面でで破綻する。日本企業の離脱も進んでいるようだ。経済面で下降すれば、一帯一路で資金をばらまき朝貢貿易化する戦略も瓦解するに違いない。ただ、この反社組織=中国共産党はそう簡単に退場するとは思わない。この中国、ロシア、そしてイランとサウジなどの非リベラル資本主義の国々は西側を揺さぶり続けるだろう。西側もまた「ベンサム」を捨てないと大変なことになるだろう。かの性犯罪者エプスタインの犯罪が露呈後に顧客に迎い入れたドイツ銀行の話など、西側の本性を露呈した出来事であると思う。まあ、アメリカもイギリスもフランスもドイツも、「ベンサム」だと思う。「自由も平等もないベンサム」である中国を笑えないし、米中両者の顔色を伺う日本も結局のところ「ベンサム」なのかもしれない。
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