2021年1月4日月曜日

書評 世界を動かすイスラエルⅢ

https://gerira13.militaryblog.jp/e549034.html
「世界を動かすイスラエル」(澤畑剛著)の書評その3である。最近、イスラエルとUAE、バーレーン、スーダン、モロッコ、そしてブータンと国交正常化が続いている。ブータン以外はトランプ政権の後押しであるが、アラブ世界の対イラン情勢が透けて見える。すでにパレスチナ問題は過去のものになったかのようだ。今回のエントリーでは、イランを中心としたイスラエル包囲網について記しておきたい。

イスラエルにとっての”ラスボス”(RPGゲームの最終・最強の敵の意味)はイランであるようだ。イランは、イスラエル包囲網を形成しているが、その尖兵はレバノンのシーア派組織・ヒズボラである。宗教的なモザイク国家であるレバノンの30%はシーア派である。1982年のレバノン侵攻の際結成された民兵組織ヒズボラだが、2000年にはイスラエル軍を完全撤退させ、さらに2006年にはイスラエルの無敗神話を破った。その後レバノンの政治でもキングメーカーとなっている。シリア内戦では1万人のヒズボラが戦闘に参加したが、現在はそのうち7000人がレバノンにもどり南部に配置されているという。レバノンのシーア派地区にはホメイニ師やハメネイ師の肖像画が掲げられ、イランと見間違うほどだという。

イラクでは、IS討伐の際に、ポスト・フセインで政治の実権を握ったシーア派が民兵を組織し、後に準国軍となり2019年には、ホメイニ師の肖像画を掲げてバグダッドで軍事パレードを行った。イラクでは、イラン製の食品や電化製品が市場に出回り、今やイランの一部のようになっている。(フセインはスンニー派だが、もともとイラクはシーア派の方が多い。)

パレスチナ自治区のガザにはハマスがいる。2007年、スンニー派・イスラム復古主義のハマスがパレスチナ自治政府を追い出した後、ハマスを応援したのは、シーア派のイランだった。2011年のアラブの春でエジプトのムバラク政権が倒れ、イスラム政党が政権を握ると、ガザとエジプトの国境が開いた。その際に、イランはロケット弾を送り込み、ハマスの戦闘員をイランで軍事訓練を施したとされる。イランとハマスは宗派は違うがパイプが太い。

一方、サウジの裏庭イエメンにも勢力を広げている。アラブの春で独裁が崩れ混乱したイエメンでは、イランの支援するシーア派の民兵組織フーシ派が台頭、首都から国土の大半の実効支配に乗り出した。サウジは空爆で答えたが成果は上がらず、反対にミサイルやドローン攻撃を受けている。

…敵の敵は味方ということだろうか。シーア派のヒズボラはともかく、ハマスとイランの宗派を超えた協力体制はちょっと不思議である。マレーシアの教え子たちは、温厚なスンニー派であるが、シーア派にはかなり手厳しかった。ハンバリー派の法学の権威の中田先生も、著書の中でシーア派については手厳しい。(世界的には9:1だが)中東地域では、スンニー派とシーア派の比率は、5:5と言われる。このあたりが興味深いのだが、今やイスラエル対アラブという図式は完全に過去のものとなり、イスラエルの協力を得たスンニー派対イランとその支援を受けたシーア派という図式に変化しているわけだ。

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