2018年7月1日日曜日

書評 その日暮らしの人類学

小川さやか氏の「その日暮らしの人類学-もうひとつの資本主義経済」(光文社新書)を読んだ。小川さやか氏といえば、昔々道祖神というアフリカ主体の旅行社主催の講演会でお会いしたこともあるし、一方ブルキナファソでお世話名になった文化人類学者の荒熊さんの友人でもあり、京都大学のアフリカ地域研究資料センターの出身でもある女性文化人類学者である。ずっと前、アマゾンでこの新書の存在を知り注文、大阪の実家に届けられていたモノである。

この本の内容は小説宝石に連載されていたらしい。連載ものとしては異質な感じがする。内容は実にアカデミックであるし、「タンザニアの零細商人マチンガの民族史」の続編的なものとして私は読んでいた。

前半は、かなり哲学的である。”Living for Today”を怠け者というキーワードで片付けるのではなく、資本主義経済のもう一つの局面としてとらようという様々な論を上げている。

中盤は、小川さやか氏のフィールド、タンザニアの地方都市の変化を見ていく。彼らの生業の変化が、多分に冒険的であり、機を見るに敏、しかも手を引くのも早い様をレポートしていく。さらに路上商人が商店主となる様子とシステムが描かれる。やはり、アフリカウォッチャーとしては、このあたりが非常に興味深い。

後半は、中国に飛ぶ。深玔にある山塞企業を調査している。山塞とは、模造品・コピー商品・偽物を意味している。「山の中の砦」の意味するところは政府の統制が及ばないということらしい。このレポートが実に面白い。さらに広東省広州市には、サブサハラ・アフリカの交易人が集まり、「チョコレート城」や「リトルアフリカ」「広州ハーレム」などと呼ばれる地域がある。彼らの商業活動は、非常に興味深い。ここから、アフリカに山塞商品が運ばれるのである。

…インフォーマル経済の持つ意味を深く思索した本書は、文化人類学のみならず開発経済学にとっても極めて重要な視点だと思う。16年7月発行なので、あまり内容を明らかにするのは憚れる。…書評としてはここまで。

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