St.Peterburg |
このロシアの貴族の裕福さと、民の経済格差の大きさについて、久米は「西洋人は欲望が強く、その性情を矯しようという意識が低い。だから君主も、所有する土地やそこに住む人民から高い税を取り立て、膨大な財宝を懐に入れている。その様子はあくなき貪婪(どんらん)さだと言っても過言ではない。欧州の人民の間に自由論が激発し、王権を奪って民権を全うしようという議論が沸き起こる原因もそこにある。」と書き、「東洋人種は情欲の念が薄く、君主は道徳を重んじ、むしろ節倹を旨として、民の幸福を願うもの」という観念があり、西洋人種はその対極にあると解釈している。さらに、ロシアの政教一致の絶対王政を批判的に見る。「朝廷に臨みては帝となり、寺に入りては教王となり、宗教も支配下においているのはロシア一国である。」久米は、どうも宗教を支配の道具にしているケースが多く、この仮面を以って愚民を役使していると極言している。、
…かなりボロクソに久米はロシアを見ているわけだ。輸入の利をドイツに制せられ、海上の商権は英人に占領せられてしまっているロシアは、不凍港がないこと、黒海は英国人に制せられ、ボスポラス海峡はトルコに支配され自由に航行できないことがネックなのだ。クリミア戦争で、その突破口を開こうとしたが、国民一般に気力がなく破れてしまった。それもこれも貴族に富を集中し、人民が貧しく自立の力に乏しいからだと結論付けている。
開発経済学的に見た時、当時のロシアは悪いガバナンスに完全に毒されていた途上国だったと言えるだろう。一行は、ドイツに戻る道すがら、ロシアの荒野を見ながら思うのだ。地球は広い。大繁栄している英仏などの開化した都会は、ほんの一部だ。日本はまだまだこれから発展していく。必ず追いつけるはずだと。
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