2012年6月5日火曜日

「被曝治療83日間の記録」

世界環境デーである。偶然ではあるが、『朽ちていった命-被曝治療83日間の記録-』(NHK東海村臨界事故取材班著・新潮文庫)を読み終えた。妻がamazonで注文した文庫である。妻は大震災以来、反原発的な発言が目立つ。私は、いつもウーンと唸っている。なんとなく置いてあったので読んでみたのだった。

1999年9月東海村の住友金属鉱山の子会社のJCOで、きちっとした安全指導されないまま、核燃料開発機構の高速実験炉で使うウラン燃料の加工作業中に『臨界』事故が起こった。バシッという音とともに青い光(チェレンコフの光)が放たれ、中性子線が作業員大内さんら3人が「被曝」したのである。

この本は、被曝した大内さんの闘病記であり、東大病院の緊急医療のプロ前川教授を始めとしたスタッフの治療の記録である。

中性子線は人体の中にあるナトリウムをナトリウム24という放射性物質に変えるという。大内さんの被曝量は染色体検査などから20シーベルト(年間で浴びる限度の2万倍)であり、血液中の細菌やウィルスなどの外敵から身を守る白血球のうちリンパ球が激減していた。
被曝すると、細胞分裂の最も活発な部分から影響が出るらしい。免疫をつかさどる白血球、腸の粘膜、皮膚などである。前川教授は、何よりこの免疫力を取り戻すため、造血幹細胞移植(他の人から血を取り、患者の体内で白血球を改めて作り出す治療。妹さんの血を使う事になる。)を行う事を決断する。現時点での最高の治療を施すのである。

皮膚が腫れ、やがて皮膚細胞がはがれていく。包帯で身体を包むのだが、体液や血液が1日2リットルも流れ出してしまう。被曝60日後には1日10リットルも流れ出てしまうのである。背中はちゃんと皮膚があるのに、被曝した部分は細胞がどんどん失われていく。染色体自体が壊されていくのである。様々な出来る限りの薬も投与されていく。ずっとマラソンをし続けているような強心剤。看護師たちも大内さんの姿に「治療」の意味を根底から考えさせられるような状況になる。

大内さんの家族が凄い。最後の最後まで希望を捨てず、前川教授ら日本最高の医師団を信頼し、共に闘うのである。感動的な本であった。

これは、「事実」の記録である。原発の再稼働というのは、本当に難しい問題だ。安全と安心を混同して議論するのは私は間違っていると思う。だが、実際に被曝した大内さんの闘いを読むと、その恐ろしさは実感できる。大内さんの壮絶な死を無駄にしてはならないと深く深く考えた一冊だった。生徒にも是非読ませたい一冊である。

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