2011年8月2日火曜日

佐藤優の「交渉術」を読む

J堂書店で佐藤優の新刊文庫「交渉術」を買ってから大分たつ(7月4日付ブログ参照)。チンタラと少しずつ読んでいたので、完読まで長くかかった。”文芸春秋”に連載されていたものをまとめたものだが、最初の方は、タイトルどおりのインテリジェンスの方法論みたいなことが書かれている。なかなか面白いのだが、現場の高校教師にはなかなか属性を感じれない内容が多かった。だから長くかかったような気がするのだ。
とはいえ、印象に残った話がある。一つ目は、佐藤優の本で何度か紹介されているエリツィンのサウナ外交での話だ。ウォトカを飲みながら、男同士でキスをしたり、睾丸を握りあったりするのである。ある時、佐藤優がクレムリンの要人に「睾丸を握りあうのは品がない」と言ったら、「旧約聖書」を読んでみろと言われるのである。『アブラハムは家の全財産を任せている年寄りの僕(しもべ)に言った。「手をわたしの腿(もも)の間に入れ、天の神、地の神である主にかけて誓いなさい。あなたはわたしの息子の嫁を私が今住んでいるカナンの娘から取るのではなく、わたしの一族のいる故郷へ行って、嫁を息子イサクのために連れてくるように」』(創世記24)信仰心の篤いエリツィンが、聖書式の誓いを強いているのであった。…なるほど。そういうヘブライズムの影響、面白いよなあ。

二つ目は、佐藤優の友人であるイスラエルのエージェントの話である。ある時、彼はトルコの地方都市に行って協力者と接触することを命じられた。出張は泊まりがけで観光客を装う必要があり夫妻で出かけた。ちなみに、イスラエルの場合、夫がモサド(諜報組織員)である場合、夫人もインテリジェンスの基本訓練を受ける。仕事は順調に終わり、首都アンカラへの国内線に乗り込んだ。しかし、この機がハイジャックされたのである。彼は、こう考えた。「社会主義者が犯人ならソ連に向かう。国交はないが数日後にテレアビブに戻れるだろう。もし、イスラム原理主義者なら、恐らくイランに向かう。イランの秘密警察が調べれば、(イスラム革命前に親密な関係にあった故に)自分がモサドであることはすぐわかる。アラブ諸国やイランでは文化として拷問を用いる。殴ったり、電気警棒、爪の間の針、ペンチで生爪をはがす…。しかも今回は妻がいる。妻に危害を加えられた例もある。」彼は窓から景色を眺め、頭に叩き込んだ地図と比べながら、もしイランに向かうようなら操縦室に突入する覚悟を決めるのだ。佐藤優は聞く。「素手だろう、リスクが高すぎないか?」「相手が1人なら多分勝つ。二人ならば1人目の目を潰せば勝つ。集団なら諦めるしかない。」結局、心身に変調を来たした人物が犯人だったので事なきを得た。(モサド本部ではすでに救出作戦が検討されていたらしい。)…凄い話である。

我が息子夫婦はわけあって、イスラエルに滞在している。先日、日本語教師検定の教材本を日本から送った。CDも同包されていたのだが、わざわざ抜いて送るよう妻は指示を受けた。徹底的に調べられるらしい。送料もアホほどかかったし、関税もバカげているほどかかったらしい。無茶苦茶セキュリティがきつい国なのだ。二つ目の話を読んで、なんか妙に納得したのであった。

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