2011年5月29日日曜日

『仮想地球』の試みを一読して

昨日の公開講座で、無料配布の”『仮想地球』の試みー地域と地球をつなぐ-”をもらって帰ってきた。帰りの電車の中で黙々と読んだ。なかなか面白い。京大アフリカ地域研究科教授の荒木茂教授が中心になって行われた平成19~21年の科学研究費補助金・基礎研究で、正式な研究のタイトルは、「『仮想地球空間』の創出に基づく地域研究統合データベースの構築」研究成果報告書である。(現場の高校教師にとっては縁遠い世界だが、最近、こういう報告書にふれる機会も多くなってきた。)

まずは、荒木先生の”『仮想地球』の試みー地域と地球をつなぐ-”という10ページにおよぶ仮想地球論を私なりに、申し訳ないほど簡単に整理してみたい。地域研究という立場については、2月19日付のブログでも紹介したが、荒木先生のコトバで改めて示すと次のようになる。「地域研究は、地域にどっぷりつかることによって、個別学問分野から決して明らかにすることができない地域の人々のいきいきとした関係や営みを描き出し、アカデミックな世界や一般社会にインパクトを与えてきた。」しかし、荒木先生は、こう続ける。「しかし最近、地域研究のこのような独自性は、個別的学問分野が国際化し、グローバルイシューを扱う傾向が増大していることによって薄れてきているのではないか、というのが私の実感である。」「むしろ地球環境問題、グローバリゼーションなど地域研究の外部における”世界認識”が、地域研究に新たな問題を投げかけ、地域研究に対応を迫っているというのが現実であろう。」
そこで、荒木先生は、論文以外の方法としての地域研究の発表を提案するのである。それは、グーグルアース上での、データベース化である。「地点、地域に関する様々な情報(写真・映像・音声・記載)と、それを素材、データとしたメッセージ」を集積することによって、「論文では、調査地としての役割しか果たさなかった地点情報も、仮想地球空間上に定置することによって、地域を構成する1つの情報となる。」…なるほど。

仮想地球とは、要するにグーグルアースであった。でも面白い試みだと思う。私のような一般市民も地域研究の研究成果利用できる。ありがたいと思う。
HPトップ:http://virtual-earth.asafas.kyoto-u.ac.jp/
データベース:http://virtual-earth.asafas.kyoto-u.ac.jp/ve-world/datac.cgi

Eさん撮影のブルキナべの写真
データベースをクリックしていたら、ブルキナを研究しているEさんが投稿している写真もあった。ブルキナの仕立屋さんの様子である。
Titel     『シャツの仕立』
Information アトリエで生地を裁断する仕立師
Location   Bobo-dioulasso,Burkina Faso
Date            2005年1月
Photo     Eさん

荒木先生の論文の後、実際のモデルとして、『人類の揺籃として氾濫原』、『地域研究者の協働による仮想地球構築の試みー地域景観から紡ぐアフリカ植生誌』などという興味深い論文が続く。なかなか面白いのである。

さらに私の目を釘付けにしたのは、第二章にあった中沢新一の論文である。2008年7月に第4回『仮想地球』研究会での講演内容のようである。「脳内トポロジーとしての地図学」と題された41ページにもおよぶ論文であるが、これについては、後日紹介しようと思う。中沢新一を読むのは、ホント『チベットのモーツアルト』以来である。教員生活に入った頃、浅田彰や中沢新一を読んでいたものである。なつかしい。
こんな貴重な論文集を無料配布で手に入れれて、すこぶる満足である。

2 件のコメント:

  1. 帷子の辻さま: 『仮想地球』著者より:
    「『仮想地球』の試み」を評していただいていること知りませんでした。興味をもっていただき大変ありがとうございます。地域研究の分野でも、なかなか「真意」が伝わらず今後の展開について考えあぐねていたところです。おっしゃるとおり、この試みは地域研究資料のグーグル・アース化です。しかし、ホテルや食堂案内とは異なります。人類の起源と拡散ルート、世界各地の自然と文化の交渉史などを、具体的な地点情報から明らかにし、我々自身を含めて、世界は人々のビジョンのモザイクから成り立っていることを明らかにすることを目指します。そしてその行きつく先に何があるのか。自然科学と人文科学を融合した一つの地球観、人間観が立ち現れることを『仮想』するのですが、如何でしょうか。

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    1. shigeblog様 コメントをいただき恐縮です。仮想地球という試み、面白いです。自然科学と人文科学の融合、京大の公開講座に毎回参加する中で、社会科学も含めて、新たな切り口がおぼろげながら少しずつ見えてきました。
      アフリカを最初開発経済学という視点からだけ見ていた私でしたが、だんだん全ての科学が融合した視点でアフリカを見なければという気持ちになっています。これからも一般市民として大きな期待をもって見ていきたいと思います。
      重ねて、私のブログに一文を寄せていただき感激しております。ありがとうございました。

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