2010年4月29日木曜日
コンゴのオナトラ船と「猿」論争
一昨日は、地理Aの砂漠気候の話を書いた。授業進度からいくと前後してしまうのだが、毎年、熱帯雨林気候(Af)の授業で話すコンゴ川を行き来する「オナトラ船」の話を今日は記しておこうと思う。先日コンゴ人に会ったことだし(4月26日ブログ参照)、またアフリカ33景(4月22日ブログ参照)にも関連した文章が出ていたからである。
オナトラ船というのは、コンゴ川の上流キサンガニ(熱帯雨林気候の代表的な都市の1つ。よく入試にも出てくる地名だ。)と首都キンシャサを結ぶ定期船である。と、いっても時刻表など無意味なくらい不定期な運航状況であるらしい。もちろん、私は乗ったことはない。本で知ったのだった。今回の貴重な画像も、パリ・デ・ランデブーというブログからお借りしたものである。この船は、客を乗せるというよりは、コンゴ川流域の村々と物々交換しながら進んでいく、いわば移動する市場のような存在である。オナトラ船には、食用となるワニと猿が満載されている。つまり、付近の村からカヌーでやってくる人々からワニや猿を手に入れ、日用品を供給するである。オナトラ船自体はゆっくりと動いていいて、かなり危険な取引らしい。初めて、この話を読んだときはびっくりした。ワニは主に口をしばられ生きたママ船内に置かれ、猿はおもに干物や丸焼きになって、いたるところにぶら下がっているいるという。凄い異文化空間である。とはいえ私はナイロビでワニの肉は食べた経験があるが…。(うまくない鶏肉といった感じだった。)
さて、アフリカ33景で、この猿を食することについて書かれていた。「飢えるザイール(ザイールはコンゴ民主共和国の旧国名)」という著者の記事(キンシャサで組織的に猿の燻製や丸焼きが販売され、消費されていることを報道した内容:おそらくこの猿肉の何%かは、オナトラ船によって運ばれているはずだ。)に人類学者が反論したのである。人類学者氏は、アフリカの伝統と社会的な貧困を同列で扱うべきではないとする。「仮に日本が大災害に見舞われたとして、タコやナマコを食することとだぶらせて報道しているような記事だ。」と批判したのである。それに対して、作者は、この猿を食することは、アフリカでも蔑まれていることをあげ、飢餓寸前の彼らは食べたくて食べているわけではないと主張した。実際に猿肉を売買する人々にカメラを向けると拒否されるという。
人類学者氏は、”生態系の一員”としてアフリカ人が組み込まれており、外国人はそれをありのままに容認すべきだと言う。しかし著者はこう主張する。アフリカ人の願望を誤解してはならない、生態系の一員に留まることは、マラリア、眠り病といった風土病、伝染病をそのまま容認することに繋がる。そこから脱却したいとアフリカ人は願っている。猿を食するのは、伝統的であっても、飢餓ゆえに伝承したものであり、自分でやめたいと思っても、選択の余地はなかったのである。ザイールは、ベルギー統治時代、その輸出の6割までが農産物であったが、銅景気に酔った政府が、農業振興と輸送路確保を怠ったゆえに飢餓寸前に追い込まれたのである…と。
この伊藤正孝氏(アフリカ33景の著者)と人類学者氏の論争、かなり深く大きな問題を含んでいる。現場の教師としては、この論争自体を生徒にぶつけることになる。地球市民として是非とも考えて欲しい問題だ。
追記:この”オナトラ船”の記事に、今週1589回ものアクセスがありました。多くの方に読んでいただけるのはたいへんありがたいのですが、何故急に異常なほどのアクセスがあるのか不思議でなりません。最新キーワードの50位にランクされていることはトラックソースで確認できましたが…。正直、気味が悪いので、ここにアクセスいただいた方、どういう経路でアクセスされたのか教えていただけませんか?コメントをいただければ幸いです。(謎が解け次第、コメント削除いたします。気軽に教えて下さい。)10月1日20:37 katabira no tsuji
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今日の話は信じ難いですね。
返信削除この話を聞く限りでは、人類学者と旅人がまるで同じ職業のようです。自分の目で見たことを感じたように人に伝える。そこに分析という観点がまるでありません。日本人がクジラを食べることを面白がって話されるような気分になります。
なんだか腹が立ちます。人類学者氏の意見に納得してしまいそうだった自分に腹が立つのかもしれません。
私は非常に難しい問題だと思います。伝統を守るということと、開発(いわゆる豊かな生活を獲得すること)には、大きな二律背反も存在します。またこの問題にふれたいと思います。
返信削除本日TVで放映されてましたよ。
返信削除TVでは船上にワニがある映像はありましたが、
猿肉の映像は全くなかったですね。自粛したんでしょうか。
勉強になりましたありがとうございます。
今日(10/1)禁断ワールドというTVでオナトラ船のことを放送していました。とても興味がそそられ、すぐにネット検索したところ、このHPにヒットしました。それにしても、国際理解・異文化理解の醍醐味というか、本当に興味がそそられ、ゾクゾクしてしまいました。(H.I. 仙台)
返信削除ググってきたので報告を。
返信削除上の人と同じですが、テレビで「伝説の水上都市」としてオナトラ船の紹介がされていました。
とても興味深かったのでさらに情報を調べようときました。
3人の匿名さん方、ありがとうございました。ちょっと安心しました。これからもよろしくお願いします。
返信削除初めまして!北海道大学農学部に通う現在2年生です!
返信削除僕もバックパッカーで、去年、ガーナ・ブルキナファソ・マリを旅しました。
ブルキナファソで出会った友達が今年の夏オナトラ船に乗りに行くと聞いてググってみたらここに行き着きました!
大学では、開発経済学・文化人類学ともに勉強していますが、僕もこの対立は自分の中で大きなテーマです。ひとつ思うのは、開発に携わる側が、まず、「その地域の文化・背景を深く知る」そして、現地人主体で活動していくことが大切なのではないか、と思います。
Shunさん、コメントありがとうございます。開発と伝統の対立は深いテーマですねえ。Shunさんの最後のコメントは全く同感ですねえ。高校の授業でも、そういう視点を失わないでやっています。
返信削除20年以上前にTBS「新世界紀行」が、テレビで紹介された最初だと思います。
返信削除日テレの番組は、それを焼き直しただけでしょう。
コンゴ紛争について調べていてここにたどり着きました。
返信削除ゴリラやサルのブッシュミートがいろいろあるのですね。
難しい問題です。