2017年2月11日土曜日

在馬 外国人労働者の現状 考

KL マスジットジャメ周辺で
佐藤優の「大国の掟」(NHK出版新書)のドイツの章で、こういう事が書かれている。地政学的に見て、西洋近代史では、いかにドイツを包摂するかが大きな課題であり、WWⅠ、WWⅡ、さらにEUという流れの中でもその包摂には成功していないといえる。現在のユーロは、事実上の拡大マルクであるというわけだ。さて、こんな文面が登場する。

「これはたとえ話ですが、いま私たちがミュンヘンの高級ビアレストランに行くとします。そこでシュニッツェル(カツレツ)を食べることに決めた。その店のオーナーはもちろんドイツ人ですが、ウェイトレスはたぶんチェコ人かハンガリー人、注文したシュニッツェルの豚肉はハンガリーから来ます。そしてハンガリーに行くと、ハンガリーの豚小屋ではウクライナ人の労働者が働いていて、そこで飼われている豚の飼料はウクライナ産のはずです。かつて、ナチスはアーリア人種を指導的民族とし、それを維持する民族としてチェコ人やハンガリー人、奴隷としてスラブ人を位置づけましたが、この三段階がこのレストランで具現していることになります。」

私は、この見方、一理あると思っている。問題は、ドイツの話にとどまらない。実は、このマレーシアでも、他国からの労働者が多くいて、低賃金労働をしていることが自然とわかってきた。当年アジアにも似通ったヒエラルキーが存在するである。しかし、その低賃金というのが、実際のところどれぐらいなのかなかなかわからなかった。この2週間ほどの間に、そういう情報をいくつか集めることが出来た。

ずばり、月RM1000~1500くらいらしい。(ちなみにマレーシアの大学新卒初任給はRM2500くらい。日本人がこちらで働くとするとRM5500以上の給与でなければならない。)もちろん職場によって異なるし、能力差にも関係するらしい。たとえば、フィリピン人は英語が話せるので、外国人労働者の中では最もランクが高いそうだ。だから、RM1500以上の人もいるとのこと。インドネシア、バングラディシュ、ミャンマーなどから多くの労働者が来ているらしいけれど、およそ上記の収入だとすると、生活はかなり厳しい。物価がかなり違うので、日本円(RM1=30円)に置き換えても意味がない。ただ、食費は無理して切り詰めると、1日RM10でもやっていけなくはない。もちろん、栄養価は高くない。彼らの住んでいるところの家賃はRM300くらいと聞いている。(日本人の住居費と比べると信じられないくらい安い。もちろん、日本人の間でも凄い格差があるが…。)故郷に仕送りしようと思えば出来なくはないが、かなりきついと思われる。幸い、KLはLCC(格安航空)も多く就航していて、働きやすい場所なのかもしれない。(シンガポールなどは物価がかなり高いので敬遠されがちなのだそうだ。)

1月19日、マラヤ大学で、2050年国家改革(=TN50)に関するダイアログ(対話集会)が開かれ、首相と学生500人が意見を交換したそうである。(2月9日付南国新聞)世界のトップ20入りを目差すことを目標にしているらしい。およそ、現在のマレーシアの経済政策は、中進国の罠を抜けださんと、インフラ建設に躍起になっている。これは開発経済学上間違ってはいない。TN50も国家目標を掲げることになにも問題はない。いや当然すぎる話だと思う。先日エントリーしたように、国民国家マレーシアの経済発展こそが、マレー系・中国系・インド系の3民族の間合いをうまく調整している、と私も思うからだ。だが、往々にして、低賃金でインフラ建設や工場や店舗で働く外国人労働者の存在は忘れ去られがちだ。生産コスト、生産効率などの経済の問題、治安の維持などガバナンスの問題としてではなく、「共生」という視点から、見ていくことも必要ではないかと思う。

多くの先進国、特に欧州は移民政策で失敗を重ねている。幸い、(バングラディシュやインドネシア人と)同じムスリムである多数派(すなわち政権の中心に位置する)のマレー系の人々は平等意識が高い。多民族国家・マレーシア故に、そういう、外国人労働者との共生を十分にはかる「先進国のモデル」を作ってくことは可能ではないか、などと夢想するのである。

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