2014年2月15日土曜日

アフリカ学会 公開講座2月

寒椿と雪解けの後の 京大稲森財団記念館
今年になって始めてのアフリカ学会公開講座である。第6回目の今回は、「アフリカ音楽の魅力-無文字社会との関連から-」というタイトルで、鈴木裕之国士舘大学教授の講義である。正直なところ、あまり属性がないので期待薄だったのだが、無茶苦茶面白い話だったのだ。話の内容ももちろんだが、何より鈴木先生のトークが軽妙で飽きさせないからだったと思う。しかも、先生の奥様がギニア出身の歌手であり、その一族もそうであるところが私を最初から驚かせた。最高のマクラ(興味付けの導入)だったと思う。

鈴木先生は、アフリカ音楽の特徴を、まず無文字社会の情報伝達手段手段として取り上げられた。トーキングドラムはモールス信号のようなものではなく、太鼓で”しゃべる”のだ、と教えていただいた。日本語は極めて抑揚のない言語だからわかりにくいのだが、アフリカの多くの言語は中国語のように抑揚がはっきりしている。VTRで有名なナイジェリアのヨルバの人々のトーキングドラムを紹介された。太鼓の周囲に垂直に張り巡らされた多くの紐を調節しながら叩くことで抑揚をつけるらしい。実に面白い。

さらに今日の主題は、、アフリカで一般名詞的に使われる「グリオ」(語源は不明。大航海時代以来西洋人の探検家などがそう呼んだ。各地方ではそれぞれ固有名詞がある。)という語り部集団の話である。無文字社会の中で、大きくは歴史の伝承を行ってきた。語り部であり、楽師であり、儀式などでも伝統的な役割をする職能集団である。そう、先生の奥様は「グリオ」(西アフリカのマリ帝国の系譜に繋がる諸民族=マンデでは、ジェリと呼ばれている)の一族なのである。伝統的なマンデのグリオは、3人で木琴を奏でる。それのリズムに乗って語り部がしゃべり、合間に女性の挿入歌があるそうだ。木琴は、私がブルキナで購入したもの同様、下部にひょうたんがある。マンデのものは穴があけれられくもの巣(今はガムやサランラップを使うそうだ。笑)を貼り付けてゆがんだ音を出す。語り部のしゃべりは、おそらく現在のラップ音楽の起源ではないかとされている。挿入歌も大きなよく通る声量で、これもゴスペルの起源ではないかと言われているらしい。この辺、無茶苦茶面白いと思う。そもそも、ロックの起源を探究するところから鈴木先生の研究は始まったそうだ。グリオの人々は、伝統的なグリオの仕事もしながら、今やポップスのスターとして活躍する人も多いのだという。実際、奥様の一族もスターとなっているらしい。「北島三郎がTVで活躍するとともに、地元の祭りで歌っているようなもんです。」…なるほど。

このマンデのグリオが語る歴史は、マリ帝国の創始者、スンジャタ・ケイタの物語である。鈴木先生はパリで見つけた絵本の画像をもとにこれを紹介していただいた。これがまた、なかなか面白いのだ。マンデという国の隣国で野牛が災いをなしているという。王は2人の狩人にその征伐を命じる。狩人はその途上で老婆を助ける。実は、その老婆こそが野牛に化身しており、彼らに討たれることを望み、自分の弱点とその後行うべき行動を教える。狩人は変身した野牛を討ち、隣国の王に感謝される。隣国の王は褒美に娘を与えるという。老婆の予言通りである。老婆の指示通り最も醜い娘を選び、マンデに帰国した狩人は、その娘を王に託す。第二婦人となった娘は、足が悪い王子を産んだ。食事に使うバオバブの葉をめぐって第一婦人から足の悪いことで侮辱を受けた王子は、足を直し、国一のイケメン青年となる。これがスンジャタである。その後、第一婦人に暗殺されかかった王子と第二婦人は国をでる。その頃、スマオカンテという呪術師が天下統一をはかろうとしていた。彼は人間の血を好む木琴をあやつっていた。彼は女好きで300人も妻がいた。スンジャタの妹(皇女)を新しい妻に迎えた。妹は、泣く泣く妻になり、床の中で彼の秘密の弱点を聞き出し、スンジャタに伝える。それは真っ白な鶏の蹴爪に刺されると死ぬということだった。クリナの戦いで、この蹴爪のをつけた弓矢で呪術師を射止めたスンジャタは、マリ帝国の王となったのだった。メデタシ、メデタシ。
…こういう伝承神話には民族の様々な知恵とアイデンティティが詰まっている。グリオは、こういう民族のエキスを伝承しているわけだ。だから派手な衣装を着ているし、一般の人々からは絶対ないがしろにされることはないそうだ。奥様も、毎年銀座で20万円もする金の装飾品を買ってやらないと怒るそうだ。実に面白いなあと思うのだ。

ところで、日本語で、「音楽」というと「音を楽しむ」という漢字から、アフリカ人は能天気で野生的だと思ってしまうのだと鈴木先生は主張される。アフリカには、喜びの音楽もあれば、憎しみの音楽もある。祝福の音楽もあれば、呪いの音楽もある。全ての生が音楽と結びついている。内戦下で歌い踊りながら機関銃を乱射する場合もあるという。

元々人類はアフリカが故郷だ。エネルギー保存の法則から言えば、アフリカ人は歌やダンスにそのエネルギーの多くを消費していると鈴木先生は言われた。文字を持つ私たちは歌やダンス以外の様々なことにパワーを使う。だから、その偏差値はすごい差があるらしい。なるほどと思う。

…意外なほど、今日は鈴木先生の話に入り込んだ。先生の極めてユニークな講義に感じいった次第。私は、アフリカでこういう音楽に触れていない。先日NHKで見たセネガルのダンスの話からも、こういうアフリカンパワーの炸裂は夜に盛り上がることが多いからかもしれない。そういえば、ナイロビのホテルでは、深夜の街でガンガン音楽が鳴っていたように思う。きっと、東アフリカ風の音楽パワー全開状況だったと思う。惜しいことをした。

貴重なお話を聞かせていただいた鈴木先生に改めて感謝申し上げたい。また今回も京大のスタッフのみなさんありがとうございました。

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