2023年12月7日木曜日

アフリカの農業 正しき視点

私のオリジナルパワーポイント ケニアの一般農家
「アフリカを学ぶ人のために」のエントリー第5回目は、京大の公開講座で随分お世話になった重田眞義先生の「在来知」の章に学びたいと思う 。

重田先生のご専門は農学なので、アフリカの農業についてのエントリーとなる。一般にアフリカの農業は、十分な食糧を生産できないほどに遅れていると思われている。不毛な土地、不安定な降雨、劣悪な品種、非効率なの農具、科学技術が普及せず低い農業技術のもと営まれている粗放的な農業と否定的に捉える研究者や開発実務者は多い。たしかに、全てにノーとはいえない。そこには一面の事実が全体を代表する真実のように捉えられていしまう誤解がある。その中で育まれてきた在来知に備わっている可能性と希望を見出せると記されている。

具体的な事例として、ケニア西部でのシコクビエ栽培。生育段階が様々に異なる複数の品種が混播(こんぱ)されている。種も小さく、植え方は雑然として、間隔もまちまちである。収穫の労働作業が面倒である。まさに遅れたアフリカ農業といった情報がたくさん含まれているが、農学的に見るとこの見方は簡単に覆される。生育段階のばらつきには利点がある。天水耕作による地域では不均一な降雨や日照が作物の生育や開花に大きな影響を与える。受粉の時期に大雨が降ったり、種子の発芽や乳熟期に日照りが続いたりすると収穫は見込めない。品種の数を減らして生育段階が均一になればなるほど、被害は大きくなる。小さな種子は乾燥が容易なので結果的にカビや害虫などの被害に合うことは少なく保存性が高くなる。大粒の小麦やトウモロコシ(メイズ)に比べて、シコクビエやテフなどの雑穀は長期間にわたって発芽能力を保っている。農家は、次世代の種子に大きくて立派な種を手刈りして選び保存するので、優れた形質が受け継がれていく。種子をまく時は、畑全体にばらまく。もちろん作物によっては一ヶ所ずつ穴を開けて蒔く場合もあるが、小さな種子ははらまきが能力も少なくて合理的というのはアフリカに限ったことではない。熟した穂から数回に分けて収穫することは鳥の害を防ぐことにも繋がり、労働力も分散できる。

このように、彼らの営みが科学的に説明できることは、その合理性を示す証拠のひとつである。高緯度温帯地域の先進国に暮らす私達は、無意識のうちに自分たちが馴染んできた農業を模範として比較してしまう。その考え方のほうが問題であって、アフリカの多様な農業実践をひとくくりにして遅れた農業と断じることはできない。

統計によれば、アフリカの人口は堅調に増加しており、農業に適した鳥は有限なので、食糧生産は追いつかなくなると言われてきた。しかし、FAOが発表している人口1人あたりの主要穀物の生産量は、減少しているとは言えない。2014年から2016年の世界全体の食糧生産の平均値を100とした場合、1992年のアフリカの指数は81.41だが、2020年には101.56となっている。都市人口は増加しているが、全体の6~70%を占める農業人口の絶対数も増加している事実を考えれば農業生産性は向上しているといえる。FAOによれば、サブサハラ・アフリカの農業成長は、3.5%以上で、人口増加率の2%を大きく上回っている。この人口増加と食糧不足というステレオタイプの根拠が存外簡単に変化しているという事実が知られていないことが問題である。もちろん、地域差がある。生産が大幅に増加したのは、西と北アフリカで、東アフリカは低迷している。サヘルでは干ばつが続いており、ナイジェリア南部やエチオピア北部で飢餓状況があったことも歴史的事実である。

…JICAのケニア視察で、普通の農家を訪問する機会があって、まさに重田先生の記されているような農法を目の当たりした。これらがその土地にあったまさに農学的に見て合理的な農法であるとは、その時は気付かなかったし、ステレオタイプ的な視点で見ていたように思う。反省しきりである。

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