2023年12月2日土曜日

アフリカの潜在力 概論

「アフリカを学ぶ人のために」のエントリーを始めたい。採点地獄が来週始まるので、その隙間にコツコツと学びを積み上げていこうと思う。

まずは、編者の松田素二先生の「序」の中から、「アフリカの潜在力と新しいアフリカ認識」の項をまとめておきたい。

アフリカには人々が編み出し運用してきた知識や制度が元々存在しており、その潜在的な能力を活用する事によって直面する困難を解決することができるという、シンプルな視点に着目すべきである。この視点にたてば、紛争についても解決するための自前の処方箋を編み出し自律的に対処してきた経験に着目することになる。普遍的で一般的な制度や知識は西欧近代出自のものが「常識」である、という状況に抗して、アフリカにはもう一つの「(複数の)普遍」、もうひとつの「社会、人間、歴史の捉え方」をベースにした問題解決のための潜在的な処方箋があるとして、「アフリカの潜在力」として提唱したい。

この視点の核心は、アフリカ社会に備わっている知識や実践が、ヨーロッパやアラブ・イスラームといった外部世界からの影響をつねに衝突や接合を繰り返しながら、それを融合、共存、受容、拒絶しながら変革・生成されたものであることが前提である。すなわち、外部と接触しつつ問題対処能力を更新するための高い能力(インターフェースの機能)を備えているという、開放的で動態的な視点なのである。

これらの前提を踏まえた上で、アフリカの潜在力の特徴をまとめると、4つの特性に整理できる。第1の特性は、包括性と流動性である。たとえば民族移動の過程で異民族を糾合包摂し、また自集団も異文化慣習を受容しながら変貌を遂げていくという集団編成のあり方は、民族の垣根を低くすると同時に、垣根自体を相対化し対立や紛争拡大を予防する。第2の特性は、複数性と多重性である。民族変更や民族への多重帰属さらには民族内部に自分たちとは決して争わない「親しい集団」をもつことで、民族間の全面的対立を防ぎ紛争の拡大を抑制し、和解の回路を確保するというしくみは、アフリカの共生の知恵のエッセンスである。第3の特性は混淆(こんこう:異質なものが入り混じること)性とプリコラージュ(レヴィ=ストロースの概念:ありあわせの手段・道具でやりくりすること)性である。アフリカの集団編成や価値体系は決して静的で固定的ではなく、むしろ正反対で様々な出自・背景を持つ編成原理や価値基準が生活の必要によって混淆されている。第4の特性は、不完全性とコンヴィヴィアリティ(自立共生)である。西欧の社会観では複数の視点・価値観が共存するとき、競合して強いものが他を放逐して勝ち残り、当たり前になるが、アフリカでは「不完全」であることを前提として出発する社会認識・人間認識なので、異質なものと共在・共生することが重要ということになる。カメルーンの人類学者ニャムンジョ氏はこれを「コンヴィヴィアリティ」と呼び、アフリカの潜在力の核心と考えている。

…きわめて学術的な内容であるが、この視点は、欧米的な常識に覆いつくされている我々にとって、実に重要なものだと私は考えている。

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