沢木耕太郎の新しい文庫本が出た。「246」という日記風のエッセイである。「国道246号線」を歩きながら、深夜特急を書いていた1986年の記録である。じっくりと読んでいるので、当然まだ完読していないが、少しエントリーしておきたい。
と、いうのも「深夜特急」にまつわる重要な記述があったのだ。2月13日付のところだ。なぜ、沢木耕太郎が、香港からロンドンまでバスで旅するという酔狂な旅に出たかを説明する部分がある。沢木耕太郎は1日で会社をやめ、フリーランスのライターになるのだが、そのことを詳しく書いた部分を編集者と協議して全部カットしていたのだった。だから私も含めた読者はなんとなく謎めいた沢木耕太郎という人物に惹かれつつ共に旅することになるのだった。
もし、この部分がそのまま残っていれば、沢木耕太郎と言う人物が、もう少しわかりやすくなる。そのカットされた部分の内容をここで書くのは悪趣味なのでやめるが、私は沢木耕太郎という人物が一気に近いものに感じられたのだった。あえて、沢木耕太郎という人物の内面が謎めいていたほうがたしかに面白い。
ところで、その次の2月14日の項には、新田次郎を偲ぶ会の話が出てくる。ここで、びっくりするような話が載っていた。新田次郎の死後、「一瞬の夏」が新田次郎賞を取った関係で、授賞式に顔を出す話だ。沢木耕太郎は、こういうパーティーにはあまり出ないらしい。生前沢木耕太郎は、新田本人に偶然会い、出版直後の「人の砂漠」(私はこの作品は沢木耕太郎の名作のひとつだと思う。)を読んだと聞かされる。驚いた沢木耕太郎は、その理由を知る。実は新田の次男も同時期に本を出し、それを読み比べていたというのだ。その本が、藤原正彦の『若き数学者のアメリカ』である。ほんと、びっくりした。『若き数学者のアメリカ』は随分前に読んだ。なかなか面白いアメリカ滞在記である。まさか新田次郎の次男だったとは…。
2014年11月5日水曜日
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