2010年12月11日土曜日

ノーベル平和賞授賞式欠席国

ノーベル平和賞の受賞者席は空席
 例のノーベル平和賞。報道がいろいろ錯綜しているが、11日付日本経済新聞の報道では、欠席したのは中国のほかにロシア、カザフスタン、チュニジア、サウジアラビア、パキスタン、イラク、イラン、ベトナム、アフガニスタン、ベネズエラ、エジプト、スーダン、キューバ、モロッコ、スリランカ、ネパールとある。これをどう読むか。
 先日も少し論じたように(10月9日付ブログ参照)、この問題、中国は絶対譲れない問題であろうと私は思う。そのことを十分理解したうえで、「人権の普遍性」について語り合うべきだと思う。日本のマスコミは、この欧米的「人権の普遍性」について絶対視していて(憲法に書いてあるのだから当然だが…)、中国と授賞式に欠席した国を明らかに批判的に見ている。私は、地球市民を育てたいのであるから、当然、自由な「市民」をつくりたい。しかしそれは同時に責任ある「市民」でもある。また「国民」であることから逃れることはできない。我々は本当に自由な市民なのか。あるいは「国民」でしかないのか。(11月9日付ブログ参照)かなり難しい議論になるはずだ。尖閣諸島問題の感情的反発に流されることなく、考えて行かねばならないのではないか。

 さて、この出席しなかった国々は、明らかに「人権の普遍性」に『NO』を突き付けているのだろうか。ちょっと私なりに考察してみたい。
 ロシアは過去に同様の批判を受けた旧社会主義国として中国を理解しているように見えるが、国内の民族紛争をかかえているが故の欠席だろう。国益のためである。ベトナムもだろうか。ベトナムも一応社会主義国である。社会主義が、たとえ建前でもプロレタリア独裁を維持している場合、この欧米的資本主義的個人論に立脚する「人権の普遍性」とは相いれないところだ。まだまだカストロが頑張っているキューバもしかり。これはらの国はわかりやすい。
 ネパールやスリランカはそれまでの報道にはなく、意外だが、中国を刺激しないことを国益としたのだろうか。(セルビアはEUに出席させられたようだ。)両方とも内戦を経験しているし、問題は複雑なようである。
 ベネズエラやイランは明確に反米国であり、政府のポリシーから十分理解できる。欧米的な論理の押し付けは、彼らにとって悪である。
 サウジアラビアは、親米国だが、独自の『人権観』に立脚している。ワッハーブ派イスラムの戒律は厳しい。経済はともかく、欧米の「人権の普遍性」とは全く相いれない。モロッコも、王国であり西サハラ問題をかかえている。おいそれと「人権の普遍性」に賛成できないだろう。
 アフガニスタンが欠席したことは、先日(9日)のブログでふれた銅山と鉄道支援のためであろうか。もしそうなら、アフガンは一気に中国寄りに舵を切ったことになる。

 この問題、欧米の「人権の普遍性」に、明らかに『NO』をつきつけた国もあれば、国益から中国にすりよった国もあるようだ。専門家から見れば、もっと違う見方もあるだろう。かなり難しい問題である。ところで、私にとって意外だったのは、中国の支援を強力に受けているアフリカ諸国の名がなかったことである。ノルウェイに大使館がないから招待されなかったのかもしれない。または、中国の支援は、自国の天然資源を目当てのもの、と割り切ったのか、その支援を案外恩義に感じていないのか、あるいは宗主国や先進国に民主主義的国家像をアピールしようとしたのか。

 中国にはまだ「国民」は存在するが、「市民」が存在できていない。経済は急速に発展したが、この問題にはまだまだ時間がかかる。日本だって、本当の「市民」が存在しているのかという疑問を私は持つ。欠席した国々(の政府)も、ある意味で同様の問題を抱えているのではないだろうか。

 いずれにせよ、あらゆる方面からの攻撃にさらされている中国である。これからの国際関係は、当分中国を中心軸に動いていくことだけは確かだ。

追記1:共同通信の7日の報道をもとにブログを書きましたが、11日朝、日本経済新聞の最新情報をもとに再構成しました。
追記2:ESDをやられている先生方、いかがでしょうか。単に「人権」は普遍だ、生徒にそう教えるべきでしょうか。私は、様々な歴史的背景や宗教・文化をもとに、違う意見もあるということを生徒に理解させたい、と考えています。ご批判をお待ちしています。

5 件のコメント:

  1. いつも勉強になる記事をありがとうございます。

    「ノーベル賞の選定者は中国の平和や団結を望まず、中国社会が無尽の紛争に陥り、ソ連式の分裂に向かうことを望んでいる」(環球時報の社説)。「ノルウェイ人よ、お前たちは、13億のこの国を、飢えず、しかもじょじょに豊かにさせ、文句を言わせず、うまく動かしていけるのか。できるものならやってみろ!」(先生の御意見) (どちらも10/9の記事より)←----なるほど、中国の考え方はこのとおりなのでしょう。

    中国は、各国の外交団に対し、授賞式に参加して場合は「それなりの結果を覚悟しろ」と警告を発したとのことです。(Beijing has urged diplomats in Oslo to stay away from the event, warning of "consequences" if they go.
    http://www.guardian.co.uk/world/2010/dec/07/china-nobel-peace-prize-clowns )

    各国が出席するか否かは、各国が自由に考えるべきことです。経済的に力があるからといって、それを脅しに使うと、中国は他国から信頼されなくなり、中・長期的には、中国が望まないような事態になる可能性があると思います。

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  2. Miyaさん、さっそくのコメントありがとうございます。中国のこの恫喝は、たしかにおそまつですねえ。たしかに中長期的には、大きな損失だと思います。この外交姿勢はいただけない。堂々と自らの所信を全世界に発信すべきだと思います。その上で、欧米的「人権の普遍性」の是非を論じるべきでしょう。中国が、自国の位置をむりやり途上国に置き、地域格差がある程度払拭できれば、「人権」もやがて認められるとは思うのですが…。

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  3. 12/10のBBCの番組(注)がこの問題を扱っていました。以下はコメンテーターの発言です。
    ①欠席したのは、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、エジプト、スーダン。
    ②参加すれば、経済援助/中国市場アクセス妨害があるだろうが、どの程度のものかわからないので、安全をみて参加しなかった。
    ④南アは中国との関係が長く、中国を知っているので、出席した。
    ⑤中国は各国へ圧力をかけることのリスク(例:資源へのアクセスに障害)とメリットを計算している。
    (注)http://www.bbc.co.uk/worldservice/africa/2010/12/101210_china_nobel.shtml

    先生が分析されているような経済以外の視点については、ふれられておりません。

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  4. Miyaさん、貴重な資料をありがとうございます。かなり中国が恫喝しているような感じを受けますね。南アには、かなり中国人が入っているようなので、欠席してもパイプが太すぎて縁を切れないだろうと判断したことはよくわかりますね。勉強になります。

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  5. Miyaさんへ、追加コメントです。今日、授業でBOPの話をしていたのですが、スーダンの石油生産は、ほとんどを中国向けでした。自分でテキストに書いていたのに忘れていました。ちょっと情けない次第です。私のアフリカの概念は、どうしてもサブサハラ=アフリカにあり、ホワイト・アフリカのマグレブ諸国やエジプトなどは、ついつい除外してしまいがちです。ちょっと反省しています。

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