で、意外なのだが、まず通読していて面白いと感じたのは、現象学や分析哲学ではなく、第3章のフランクフルト学派の哲学である。共通テストでもよく出題されるので、それなりの蓄積があるだが、第一世代で有名なホルクハイマーやアドルノに比べて、資料集でも、ちょこっとしか書かれてない、同じ第一世代のベンヤミンの話なのである。彼は1921年の「宗教としての資本主義」を発表、資本主義の宗教的な構造の特徴を3つ挙げている。
第1:資本主義はひとつの純粋な礼拝宗教で、最も極端である。一切のものが直接的に礼拝と関わることによってのみ意味を持つ。第2:資本主義は、毎日が礼拝である。第3:この礼拝は人々に罪を負わせる。
またこの発想のもと、晩年「パサージュ論」を書いているが、19世紀の首都としてパリを論じ、「地獄の首都」と称している。WWⅠで資本主義は大量の死者を生み出したが、19世紀の首都パリが将来的な地獄へとつながっているとイメージされている。万国博覧会が開催され、ガラスの天井と鉄骨と大理石でつくられたアーケード(=パサージュ)が最先端の遊歩街となり、ショーウィンドゥにはそれまで奥にしまい込まれていた商品が、きらびやかに陳列され、人々の欲望を喚起するような場所が生まれた。美が商品につかえる、この場所こそ、資本主義の礼拝所となったという話である。…なかなか面白い発想と表現ではないか。
この背景には、当然マルクス主義がある。WWⅠ直後、社会主義が高揚しつつも、ヨーロッパでは結局成功しなかった。フランクフルト学派の本拠・社会研究所は、社会主義に傾倒していた資産家の息子が、1923年に親父に金を出させて創設したもので、そもそもが、プロレタリアートが革命主体となりえなかったのはなぜか?階級対立を押し留めた心理的メカニズムはどのように成立したか?などが研究課題だったのである。
…フランクフルト学派は、対ナチスという文脈で語られることが多く、なるほど、と納得したのであった。
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