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中曽根康弘という人物は、実に毀誉褒貶の多い人物である。内務省から海軍の主計少佐、政治家に転身してからは、青年将校とか緋縅(ひおどし)の鎧を着けた若武者などと呼ばれた。保守合同までは、反吉田(茂の自由党)で野党であった。そういう過去から長く保守傍流と見られていた。当初から改憲派でありタカ派である。派手なパフォーマンスや発言で存在感を示してきた。早くから原発新進派でもある。よって科学技術庁長官で初入閣している。
佐藤長期政権後、「三角大福中」の一員として、総理総裁を狙うが、結局最終ランナーとなる。田中政権を誕生させた原因の1つは中曽根が総裁選出馬を見送り支援に回った故であるが、次の三木政権では、最後まで主流派となり田中派とも福田派とも敵対する。福田政権下では、福田に近寄り党総務会長で、福田のライバル・大平幹事長とは違う方向の発言を繰り返す。大平政権では、四十日抗争で反大平ながら、ガチガチの福田・三木派とは距離を置く。ハプニング解散中大平が死去。本命でありながら、田中派の支持が得られず、大平派の番頭・鈴木善幸政権が誕生。中曽根は行政改革長官として、ひたすら行革三昧。やっと田中派の支持を受け総理総裁の座を勝ち取る。まさに「風見鶏」と呼ばれるにふさわしい。
田中派でも特に中曽根嫌いだったのが金丸信で、「なぜオヤジ(田中角栄)はあんなオンボロ神輿を担ぐのか」と聞いたら、田中は「オンボロだから担ぐんだ」と言った。大の中曽根嫌いの金丸が「オヤジの言うことを聞けない奴は派閥を出ろ」といい、派内は収まったという。中曽根内閣は、この田中派の影響力が大きく、「田中曽根内閣」とか「直角内閣」とマスコミに揶揄された。幹事長は二階堂進、閣内に7人の田中派が入った。ただし、後藤田官房長官は中曽根本人が切望した人事らしい。後藤田正晴は内務省の先輩にあたる。警察庁長官を退任後、田中政権で官房副長官(事務)となる。これは事実上官僚のトップ、事務次官等会議を主催し調整する役割である。中曽根政権の様々な危機管理(函館空港にミグ戦闘機が亡命のため着陸した事件・三原山噴火など)を行った。同時に後藤田はハト派で、危なっかしいタカ派の中曽根をうまく操縦していたように思える。
残念なのは、1985年8月の日本航空123便墜落事故の際は、後藤田が官房長官ではなく、自派の藤波孝生であった。その後もう一度後藤田は果房長官に復帰している。(1985年12月)この事件の真相は闇の中だが、様々な情報があって、中曽根が墓の中まで持っていくと言っている。米軍が真っ先に事故現場に行ったことや、自衛隊のF4がこの機の後方にいたことなど、表には出せは、政権転覆だったに違いない。
中曽根内閣の功罪は、いろいろあるのだが、戦後政治の総決算として、まだまだ左翼勢力やリベラル勢力が強い日本にあって、それなりの志をもって日米外交を行い、大統領型の政策遂行を行い、また国鉄などの三公社を民営化させた。最も、バブル景気を演出し、後の日本経済に大きな損害を与えたともいえる。
政治家には運不運というのもある。池田勇人は高度経済成長時代を演出した。所得倍増を実現したが、これも運が強いからである。田中角栄は三角大福中でトップランナーになったが、日中国交回復を成し遂げた後、ちょうど経済が下り坂になった。中曽根の場合、バブルやプラザ合意で内需拡大など、首相の間はうまく乗り切れた。しかもロッキード・グラマン事件で塀の中に田中は落ちたが、中曽根は外に落ちて助かったわけで、これも運である。
最後は、ニューリーダーの竹下登・安倍晋三・宮澤喜一の3人のうち誰を後継指名にするかという権利を勝ち取った。このころ私は工業高校で教えていたが、生徒にその予想をさせ、レポートとして提出させたことがある。結局、竹下登になったのだが…。もうすでに田中角栄の政治力はなく、派内でも対立が起こり竹下派が分離していた。決して、田中への忖度ではなかったはずだ。その後も党内に力を温存する。これも運である。
私なりの結論。中曽根康弘と言う政治家は、実に運がいい政治家である。風見鶏と言われ毀誉褒貶があるけれど、自らの志を一応貫けたと思う。首相時代の最大の功労者は、後藤田正治と言う内務省先輩の、そして田中派の官房長官である。
…PBTの教え子・R大のJ君から、大阪都構想についてエントリーしてほしいという依頼が先日あった。私は大反対である。大阪の教育関係者ならそう答えるはずだ。だが、詳細はブログでは書きたくないと返事した。今日のエントリーはその代わりといってはなんだが、そういう背景のもと、政治家志望の彼に贈りたいと思う。
追伸:J君へ。戸川猪佐武の小説吉田学校(全8巻)ならびに続編・永田町の争闘などや大下英治の自民党関係の本を読むといい。戦後の日本政治史がよくわかるはずだ。
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